近年のキャンプブームを受け、いま全国に新しいキャンプ場が誕生しており、地方創生の観点からも注目されている。そんななか、ICTを活用した「RECAMP館山」が千葉県館山市に誕生した。自然を楽しむキャンプ場になぜICTを導入したのか。NTT東日本とR.Projectにその理由を聞いてみた。

  • 千葉県館山市のキャンプ場「RECAMP館山」

自然を楽しむためのICTを目指した「RECAMP館山」

自然志向の高まり、若年層のソロキャンプ需要、そしてコロナ禍を受けた感染症拡大への懸念から近年キャンプ人気が高まっている。とくに緊急事態宣言発令後は新しいキャンプ場が各地に誕生しており、地域経済の活性化も期待されている。

だが一方で、既存のキャンプ場では来訪者の対応と施設の運営に関わる一連の業務が増加しており、その対応に苦慮しているのが現状だ。また、キャンプ場周辺地域の情報発信を十分に行えておらず、地域の観光施設への誘客や来訪者の消費を促す機会を活かせていない状況がある。

こういったなか、R.projectとそのグループ会社であるRecamp、そしてNTT東日本は、リニューアルオープンした千葉県館山市の「RECAMP館山」において、ICTを活用したキャンプ場のスマート化・周辺地域活性化に関する実証実験を開始した。期間は2022年3月~12月を予定している。

3月25日のリニューアルオープン式典には、R.project 代表取締役の丹埜 倫氏、NTT東日本 執行役員千葉事業部長の境 麻千子氏、館山市長の金丸 謙一 氏も登壇。Recampがキャンプ場にICTを導入する意味、そして地域活性への展望が語られた。

  • 場内は大きく5つのエリアに分かれており、丘や池などさまざまな展望を楽しめる

  • フロントに併設されているダイニングとレンタル・売店スペース、フリーサイト、ドッグラン

  • シャワー室や炊事場が設けられたサニタリー棟

  • サニタリートレーラーにあるトイレとシャワー室、タイニーハウスの様子

  • 子どもの遊び場や滝、果樹やドラゴンフルーツを栽培する場所も

「RECAMP館山」で行われている具体的な取り組みの背景とその内容について、R.projectの中田 力氏、NTT東日本の岡本 理氏に伺った。

キャンプ場の課題を解決する4つの取り組み

この取り組みが始まったのは2020年9月。R.projectのキャンプ場検索・予約サイト「なっぷ」に対し、NTT東日本がキャンプ場へのWi-Fi導入を提案したことがきっかけになったという。

「当初はWi-Fi導入のご提案だったのですが、お話を伺ううちに、キャンプ場には通信以外にもさまざまな課題があることがわかってきました。昨今、キャンプ場がどんどん増えています。ICTを使い、そういった課題を解決できないかと考えました」(NTT東日本 岡本氏)

  • NTT東日本 ビジネス開発本部 第三部門 IoTサービス推進担当 担当課長 岡本 理氏

「キャンプ場運営の課題は我々ではなかなか解決することができません。NTT東日本さんにご相談することで、それらを実現したいという考えがありました。また、緊急事態宣言から約半年というタイミングで、新しい生活様式に対するキャンプ場側のニーズが顕在化したことも大きな理由でした」(R.project 中田氏)

  • R.project Chief of Business Headquarter 中田 力氏

こうしてRecampにおけるICT活用について、具体的な話がスタートした。今回の実証実験では、大きく4つの取り組みが行われている。

1つ目は、受付業務の無人化を実現する「スマートチェックイン」。これまでのスタッフによる有人チェックイン/アウトでは、予約確認や利用説明、鍵やレンタル品の受け渡しにより、どうしても順番待ちが発生していた。これをICT化し、インターネットからの予約、規約確認と場内案内、チェックインからアウトまで人を介さずにキャンプ場を利用できるようにするものだ。

「キャンプ場のコストの中でも人件費は大きな割合を占めます。なかでも受付業務の負担が大きいだけでなく、来訪者側への影響も大きいのです。『スマートチェックイン』は取り組みのファーストアクションになりました」(NTT東日本 岡本氏)

「キャンプ場はそのロケーションから、労働力の確保が難しいという課題があります。受付業務の効率化を図り無人化することで、スタッフを他の業務に当てることができますし、繁忙期の稼働集中を緩和することができます。来訪者さまには、受付の待ち時間解消や非接触の実現、自由なチェックイン/アウトというメリットがあります」(R.project 中田氏)

  • スマートキャンプ場アプリのトップ画面とチェックインの様子

  • 場内案内とルームキー暗証番号表示、チェックアウトの様子

  • アプリに配信された暗証番号で、タイニーハウスの鍵を開けられる

2つ目は、物販業務の無人化を実現する「スマートストア」。移動が容易なトレーラーハウス型の店舗をキャンプ場内に設置し、入店(入り口の解錠)、商品の選択(バーコードスキャン)、決済(クレジットカードによる支払い)までをICT化。無人運営を実現する。

「キャンプ場では、モノを買ったりレンタルしたりする売り上げも多いのだそうです。ですが、そのためには労働力が必要なので手がつけられない。そこで『スマートストア』をご提案しました」(NTT東日本 岡本氏)

「観光と異なり、キャンプ場はそこに滞在することが大きな楽しみといえます。それゆえに、チェックインと物品購入のタイミングが重なりがちで、スタッフの稼働が集中してしまいます。また、そもそも物販スペースがないキャンプ場も少なくありません。トレーラーハウス型のスマートストアを設置することでこれらを解消し、同時に地域の物品をアピールする場になればと思っています」(R.project 中田氏)

  • トレーラーハウス型の無人店舗「スマートストア」

  • スマートフォンで入り口を解錠し、入店する

  • 日用品やキャンプ用品のほか、地元の食材や特産品、レンタル品も取り扱っている

  • 購入したい製品のバーコードをアプリで読み取り、決済が完了したら出口から退店

3つ目は、カーボンニュートラル/SDGsに貢献する「オフグリッド スマートストアトレーラー」。スマートストアにソーラーパネルを搭載し、クリーンなエネルギーで店舗を運営できる。また災害時には移動する防災拠点の役割も果たし、必要な場所に電力や通信、飲料・食料、空調を届ける役割を担う予定だという。

「当社もR.projectさんもカーボンニュートラルに対する取り組みを行っています。これをオフグリッド、送電線に頼らずに実現するためにはどうしたら良いか。せっかく『スマートストア』を作るのであれば、その電力を活用し、さらに災害時にも役立てたいと考えました」(NTT東日本 岡本氏)

  • 上空から見たスマートストア(右下)。天井一面にソーラーパネルが敷き詰められている

  • 電力は店内にあるテスラのリチウムイオン電池「POWERWALL 2」に蓄電される

4つ目は、スマートフォンアプリを活用した「キャンプ場周辺地域への誘客・地域活性化」。アプリで地域の魅力を発信するとともに、アクセスに関する情報を提供。さらにキャンプ場利用者への特典を付与する仕組みを実現する。アプリでは場内のシャワー設備や入浴施設の利用・混雑状況も配信されるため、来訪者はより快適に周辺観光を楽しむことができる。

「R.project 代表取締役の丹埜倫さんは、『日本各地で見落とされている魅力を再発見し、地域と共に新しい人の流れをつくる』ということに非常に重きを置かれています。それを形にしていくために、他の3つの取り組みと並行して、地域を回遊してもらい、活性化を促す仕組みが必要だと考えました」(NTT東日本 岡本氏)

機能だけではなく、運用に馴染むものであること

開発に当たっては、アプリの存在を「コンシェルジュ」にしたいという意図から、機能面だけでなく、アプリのインターフェースにも気を配ったという。また、利便性とセキュリティを両立させるため、リモートロックの解除に使う番号の更新期間やグループでの扱いに関しても議論を尽くしたそうだ。

中田氏、岡本氏は、今回の導入で感じたことを次のように述べる。

「キャンプ場業界は、ICTという観点で見ると遅れていると言わざるを得ません。トップレイヤーから個人オーナーまでさまざまな方がいらっしゃるなかで、どこに焦点を合わせるべきか。この順番を見立てることに一番時間を費やしました。一方で、NTT東日本のみなさんに実際にキャンプ場に宿泊いただいて、課題をリアルにご体験いただいたことは非常に有意義だったと思います」(R.project 中田氏)

「NTT東日本のDXの大きな課題は、理想論で突き進んでしまいがちなところです。今回は、現場に立つプロの視点からいろいろとご意見をいただき、一緒に体験・開発できたことが非常に貴重な経験になったと思います。機能だけではなくて、実際の運用になじむものになるのかどうか、この検証を一緒にできるかどうかが課題をクリアにするのではないかと感じます」(NTT東日本 岡本氏)

キャンプ場を"屋根のない公民館"に

自然を楽しむためのICTというと、一聴すると矛盾した願望のようにも感じるが、その背景には地域の課題を解決するためのさまざまなアイデアが盛り込まれていることが感じられた。里地里山が人と自然がともに生きるべく人工的に整備されたものであるのと同じように、これからのキャンプ場も整備されることでより自然を感じられる場所になっていくのかもしれない。

最後に、中田氏、岡本氏に今後の展望を伺った。

「キャンプ場を軸に地方創生を実現したいと考えております。そのためには双方の強みを連携しなければならないでしょう。今後は来訪者のデータをAIなどで解析し、より付加価値の高いキャンプ体験をナビゲートできればと考えています。そして、将来的にはキャンプ場を"屋根のない公民館"のような立ち位置にできればと。遠くから観光のために訪れる人だけでなく、近所の方が運動のために、子育て相談のために足を運ぶ……館山の人が喜んでいただける場所にしたいという思いがあります」(NTT東日本 岡本氏)

「今回の実証実験に収まることなく、キャンプ場と地域の活性化を目指して長くNTT東日本さんとお付き合いさせていただきたいと考えています。近くに住まわれている方にも、遠くからくる方にも愛される場所、繰り返し来ていただける場所にしていきたいと思います。そして最終的には地域の過疎化、労働力の不足などの解消に結びつけたいというのが、我々の考えです」(R.project 中田氏)