賃貸物件での暮らしにおいて気になるのが画鋲の使用。カレンダーや好きなポスターを飾りたくても、壁に穴を開けてはいけないとの思いから、ためらった経験を持つ人は多いでしょう。
本記事では賃貸物件における画鋲の使用について、注意すべき点や修繕費用の発生条件を解説します。また穴が目立たない画鋲・ピン、画鋲の代わりに使えるアイテムなどについてもまとめました。
ポイントを押さえて、賃貸物件でも安心してインテリアを楽しみましょう。
賃貸物件に画鋲を刺すのは大丈夫?
そもそも賃貸物件の壁に画鋲の穴を開けることはOKなのでしょうか。画鋲で穴を開けた際、借り主(家賃を払って物件を借りている側)に修繕費用が発生するかどうかも気になるところです。
賃貸契約書の記載を確認
賃貸で物件を借りる際には、貸し主(家賃を受け取って物件を貸す側。大家さん)と「賃貸契約書」を交わしているはずです。まずはこの賃貸契約書の記載内容を確認しましょう。賃貸契約書には部屋の使用条件などがまとめられています。賃貸物件を利用するルールとしては賃貸契約書が最重要視されることを覚えておいてください。
画鋲の使用について確認するときは、賃貸契約書の隅々までチェックすることが大切です。ページ端の備考欄などに小さな文字で記されているケースがあるためです。壁に画鋲で穴を開けてもいいのか、使用してもいいなら画鋲の種類やサイズに限度はあるのかなどを確認しましょう。
画鋲の使用可否に関する記述が見つからない、あるいは文章の内容があいまいな場合は大家さんか不動産会社に尋ねてみてください。そうすれば後々のトラブルを回避できるでしょう。
原状回復義務とは
賃貸物件で気軽に画鋲を使えない理由として、原状回復義務の存在をあげる人も少なくないでしょう。
原状回復とは「借り主が部屋に居住することによって発生した建物価値の減少のうち、借り主の故意や過失など、通常の使用を超えるような使用による損耗を復旧すること」を意味します。
原状回復義務に関する法律
令和2年4月1日から施行された改正民法の621条において、借り主は部屋を借り始めた後に損傷が生じた場合、賃貸の契約が終了する際にその損傷を原状に戻す義務を負うことになりました。これが原状回復義務と呼ばれるものです。
ただし、
- 通常の使用に伴う損耗や経年変化
- 借主に責任を問えない損傷
については原状回復義務を負わないとも定められています。
「原状回復」という文字だけを見ると、「賃貸契約を解消する前に、室内を借りたときの状態に整える必要がある」というふうに解釈してしまうかもしれませんが、実際はそうではありません。あくまでも「借り主の故意や過失など、通常の使用を超えるような使用」によって生じた損耗や損傷に対して原状回復をする必要があるのです。
国土交通省のガイドラインにおける見解
賃貸物件における画鋲の使い方については、国土交通省が作成した『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』にも記載があります。ガイドラインによると、画鋲の穴が通常の使用範囲内で生じたものであれば借り主が修繕する必要はないとされています。
原状回復義務が発生する画鋲の穴とは
前述のように、原状回復の必要性は「通常を超える使い方」であるかどうかを鑑みて判断されるもの。「使い方が通常を超える」と判断する基準については同じく『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』にまとめられています。
壁に開いた画鋲の穴はOK
画鋲を刺して開いた一般的な壁の穴は、原状回復義務が発生しないとされています。ただし条件は、下地ボードを張り替える必要がない程度の穴であること。画鋲の針のサイズや長さ、また何度も同じ箇所に画鋲を刺すことなどには注意したほうがいいでしょう。
ポスターの日焼けの跡もOK
壁にポスターや絵画、カレンダーなどを貼ると、窓からの日差しによる日焼けなどによって、跡ができてしまうことがあります。これも、通常の生活でできるものと考えられるため、原状回復義務が発生しないとされています。
【原状回復の義務が発生しない損耗】
- 壁などに刺した画鋲やピンの穴
- 画鋲で貼ったポスターや絵画により生じた壁の日焼け
- エアコン(借り主所有)設置に伴うビス穴
釘(くぎ)やネジなど通常以外の使用はNG
原状回復の必要性が生じる場合が多いとされるのは、釘またはネジで開けた穴です。釘やネジは画鋲の針で開けるよりも大きく深い穴ができます。壁紙だけでなく下地ボードを張り替える必要も生じるため、通常を超える使い方にあたると考えられています。
賃貸物件で画鋲を使うポイント
後々のトラブル発生を未然に防ぐために、まずは効力がもっとも高いとされる賃貸契約書の記載内容をチェックしてください。画鋲の使用に関する項目を探し、ルールに沿って画鋲を使用するようにしましょう。その上で、『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』も参考にするとよいでしょう。
画鋲の跡の修繕費用は誰が負担?
賃貸契約を解消して退去する際は、大家さんや不動産会社など貸し主立ち会いの下で、住宅の損耗を確認します。画鋲の穴についても立会時にチェックされ、賃貸借契約書の内容と、原状回復義務があるかを軸に修繕費用の必要可否が判断されます。
では原状回復の義務があると認定された場合、修繕費用の全額を借り主が負担する必要はあるのでしょうか。借り主側と貸し主(大家さん)側が負担するケースごとに見ていきましょう。
借り主が負担する場合
- 画鋲の穴によって住宅の壁を著しく損傷させる
- クギを打ってウォールシェルフを取り付ける
- ネジ留めが必要な壁掛けフックを取り付ける
画鋲で著しく住宅の壁を損傷したとの判断が下されたときは、借り主側に住宅修繕費用を請求されることがあるでしょう。そのほか、ごく一般的な画鋲では開かないような大きな穴に関しても、借り主に修繕費用負担が生じる可能性が高いでしょう。
大家さんが負担する場合
- 通常の使用の範囲内で生じた画鋲の穴
上述のように「壁などに刺した画鋲やピンの穴」「エアコン(借り主所有)設置に伴うビス穴」など、原状回復の義務が発生しないとみなされた画鋲の穴は、基本的に大家さんが修繕費用を負担します。
経年劣化により修繕費用の負担が軽減されることも
原状回復の義務が生じて借り主が修繕費用を負担することになっても、全額を負担するとは限りません。理由としては費用の見積時に経過年数が考慮されることがあげられます。
『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』で定められている壁紙の耐用年数は6年で、以降は残存価値が1円。借り主の入居年数も考慮すると、契約から6年以上賃貸物件で暮らしていれば、負担額を大幅に軽減できる可能性があります。
敷金ゼロ入居は退去時に注意
敷金ゼロで入居できる賃貸物件は、初期費用を抑えられるためメリットが大きいと考えがちです。しかし不注意による損傷で原状回復義務が生じても、敷金から修繕費用を支払うことができません。そのため、退去時にまとまったお金が必要となる恐れがあることを覚えておきましょう。
もちろん敷金を支払っていても、その金額を上回る修繕費が発生してしまった場合は、不足分を追加請求されます。
画鋲の代用品になるおすすめグッズとは
通常の使用の範囲内で生じた画鋲の穴に対し、現状回復の義務はないといっても、画鋲を使用することにやはり抵抗のある人のために、画鋲の代わりとなるアイテムをご紹介します。
ピクチャーレール
ピクチャーレールとは複数のフックが備わったインテリアのこと。カレンダーやポスターフレームにひもを通し、フックにかけるだけで誰でも簡単に壁を飾ることができます。現在はピクチャーレール付きの賃貸物件も増加していますので、お部屋を探す際に注目してみるといいでしょう。
ホチキス
画鋲の針と比較するとホチキスの針は非常に細く、穴が目立ちづらいです。使用方法は、ハンドル部分が180度開くホチキスと壁の間に飾りたいものを入れ、ヘッド部分を押すだけ。ポスターなどを簡単に固定できます。
穴が目立たない画鋲(ニンジャピンなど)
最近では、通常の画鋲よりも針が細い画鋲も売られています。またニンジャピンといった針の先端がV字型になった画鋲は、通常の画鋲よりも穴が目立たない優れものです。
きれいに剥がせる粘着剤
両面に粘着性を持つ商品なら、壁に穴を開けず好きな位置にポスターや壁掛け時計などを飾れます。繰り返し貼って剥がせるタイプを選べば、納得のいく場所に貼るまで何度でもやり直せるでしょう。もんで形を整える粘土のようなタイプや、両面テープタイプなどがあります。大事なポスターに穴を開けることもありません。
各種フック
壁に荷物などを掛けるならフックを使用するのも手段の一つ。ドアに掛けて使用するドアフックや、針を抜いた際に壁紙が引き戻されて穴が目立たなくなるピンフックなどがあります。
つっぱり棒
棚付きのつっぱり棒を室内に取り付けると、小物を飾れる立派なインテリアに。ただし、強く突っ張らせすぎると壁にへこみや傷ができてしまう可能性があるため注意が必要です。重たいものを飾るのは避ける、傷対策グッズを壁との間に挟むなどの工夫をしましょう。
マンションなど賃貸物件でも、画鋲の使い方を工夫してインテリアを楽しもう
画鋲を使う前には賃貸契約書を見て、画鋲の使用可否を必ず確認しましょう。
賃貸契約書で画鋲の使用が認められている場合も、原状回復義務が発生しないよう、壁に開ける穴はあくまでも画鋲のみにとどめるのが無難です。クギやネジの使用は避けたり、画鋲でも何度も同じ箇所に刺したりするなど、穴が大きくならないよう注意してください。針が細くて穴が目立たないタイプの画鋲やホチキス、簡単に剥がせる粘着剤などを使うのも有効な手段です。
ルールをしっかり確認し、お気に入りの空間で充実した生活を送りましょう。