新鋭同士の挑戦者決定戦を逆転で制す

藤井聡太叡王への挑戦権を争う第7期叡王戦(主催・不二家)の挑戦者決定戦、出口若武五段―服部慎一郎四段戦が4月2日に行われました。結果は142手で出口五段が勝ち、藤井叡王への挑戦権を獲得しました。規定により、出口五段は六段へ昇段しました。

■服部四段が優位に

本局は振り駒の結果、服部四段の先手番となって急戦調の矢倉に進みます。お互いが居玉のまま、本格的な戦いが始まりました。中盤の55手目、▲1六飛と飛車を端に追いやられて先手が苦しくも見えますが、後手の飛車がそれ以上に不安定な形で、ここでは先手が指せる局面のようです。後手は飛車を取られますが、その代償に猛攻を仕掛けて、居玉の先手はあっという間に守備駒をはがされました。ところが後手も居玉がたたり、その居玉を目指して奪った飛車を▲7一飛と打ち込んだ75手目はやはり先手優勢。飛車の威力が絶大です。先ほど端に追いやられたもう一枚の飛車も、攻めには利いていませんが、その横利きが守りに働いています。

出口五段の玉は風前の灯とも言える状態まで追い詰められていますが、服部四段がさらに攻めを手厚くしようと桂を取った95手目▲2一金が緩手でした。この手は次に▲2六歩と打てば、桂を取った効果でこの手が詰めろになるのですが、代えて▲2三銀打ならば出口五段と言えども手段が難しかったでしょう。

■一撃必殺の逆転手

実戦の▲2一金には△1五歩▲4六飛と飛車を追ってからの△5四桂が必殺となり、逆転しました。△5四桂は飛車取りだけでなく、△6六金からの詰めろにもなっており、さらにこの桂を打つことで先手の竜の横利きも防いでいるという一石三鳥の手です。この桂は▲5四同歩と取ることもできますが、△5五金▲4七玉△4六金▲同玉△5四歩の局面が先手玉の詰めろで、後手勝勢です。「(桂は)狙っていました」と出口新六段も局後に振り返っています。

服部四段は△5四桂に▲6五玉として、以下も中段玉で頑張りますが、最後は出口五段が即詰みに打ち取って、タイトル初挑戦を決めました。出口新六段は三段時代に、藤井叡王と新人王戦決勝三番勝負で戦った経験がありますので、藤井叡王との番勝負はそれ以来の2度目となります。局後の取材では「自分の力が100パーセント出るような形を目指したいと思っています」と意気込みを語りました。

五番勝負は4月28日に東京都千代田区の「江戸総鎮守 神田明神」で始まります。若さ溢れる戦いに、要注目です。

相崎修司(将棋情報局)

初のタイトル挑戦と昇段を決めた出口新六段(左)(写真は第49期新人王戦決勝三番勝負第2局のもの 提供:池田将之)
初のタイトル挑戦と昇段を決めた出口新六段(左)(写真は第49期新人王戦決勝三番勝負第2局のもの 提供:池田将之)