今年の1月、2022年度の年金額が昨年度に比べて0.4%引き下げられることが発表されました。引き下げは2年連続となり、2014年度の0.7%に次ぐ引き下げ幅となりました。こうした状況が続くと、若い世代は、「自分たちは将来年金をもらえるのか」と不安になると思います。

そこで、将来の年金がどうなっていくのかを考え、これから老後を迎える人が「やるべきこと」をお伝えしたいと思います。

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■年金額改定の仕組み

2022年度から0.4%引き下げられることが決定しましたが、この数字がどのようなルールによって決められたのか、簡単にご説明したいと思います。

今年度の年金額の改定は、次の参考指標をもとに決められています。

・ 物価変動率‥▲0.2%
・ 名目手取り賃金変動率※1‥▲0.4%
・ マクロ経済スライドによるスライド調整率※2‥▲0.3%

※1名目手取り賃金変動率とは、実質賃金変動率に物価変動率と可処分所得割合変化率を乗じたものです。簡単にいうと、物価の変動を考慮した手取りの賃金の変動率となります
※2マクロ経済スライドとは、公的年金被保険者の変動と平均余命の伸びに基づいて、スライド調整率を設定し、その分を賃金と物価の変動がプラスとなる場合に改定率から控除するものです

名目手取り賃金変動率がマイナスで、名目手取り賃金変動率が物価変動率を下回る場合、名目手取り賃金変動率を用いることが法律で定められています。そのため、2022年度の年金額の改定は、名目手取り賃金変動率が▲0.4%でマイナスであり、物価変動率▲0.2%より下回っているため、名目手取り賃金変動率の▲0.4%が用いられました。

また、マクロ経済スライドは、改定率がマイナスの場合は調整は行われないので、2022年度の改定では行われず、マクロ経済スライドによるスライド調整率▲0.3%は翌年度以降に繰り越されました。

これによって、今後物価や賃金が上がって、改定率がプラスになっても、繰り越し分があるうちは、その改定率から引かれてしまうので、年金額が増えにくいというわけです。

■2022年度の年金額

0.4%の引き下げによって年金額がどのくらいになるのか、年金額の例を示します。

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国民年金を満額受給できるケースでは、昨年度に比べて259円減って64,816 円(月額)となります。平均的な収入で40年間就業した場合の厚生年金と2人分の基礎年金(満額)を受給できる夫婦2人のケースでは、昨年度に比べて903円減って219,593 円(月額)となります。

年金は2カ月分がまとめて偶数月に支給されます。そのため、0.4%引き下げられた年金は、2022年4月分と5月分を受け取ることになる6月15日の支給からとなります。

■将来の年金はどうなる?

日本の公的年金制度は、その時代に現役で働いている者から保険料を徴収し、その時代における高齢者の年金の財源にあてる「賦課方式」を採用しています。少子高齢化が進んでいることで、現役世代はさらに減り、年金受給者はさらに増える世の中が待ち受けていることは想像に難くありません。このまま行ったら、年金制度は破綻してしまうのではないかと、以前から心配の声があがっています。

これについては、財源を固定し、その範囲で年金の給付水準を自動的に調整する仕組み(マクロ経済スライド)によって、少子高齢化が進行しても給付が続けられるようになっているので、年金制度自体が破綻することはないと思われます。

ただし、年金制度を破綻させないための3つの方法によって苦しめられることは充分に考えられます。1つ目は現役世代の保険料の引き上げ、2つ目は年金額の引き下げ、3つ目は年金の受給開始年齢の引き上げです。これらは、大きな反発を受けない程度に、じわじわと行われることが予想できます。

<年金制度を破綻させないための3つの方法>
1.年金保険料の引き上げ
2.年金額の引き下げ
3.年金の受給開始年齢の引き上げ

■老後のために今やるべきこと

国民年金を満額受給できたとしても、2022年度の基礎年金の満額は6万5000円を割ってしまいます。一方、総務省の家計調査(家計収支編・2021年)によると、65歳以上の単身無職世帯における1カ月の消費支出は13万2476円となっています。年金が国民年金だけだとすると、一人暮らしの場合、単純計算して、6万円から7万円ほど足りないことになります。自助努力なくして生活は成り立たないといえます。

そこで、次の3つを老後のために「やるべきこと」としてお伝えします。

*私的年金で年金額を増やす

公的年金の他に、会社員であれば企業年金、自営業者であればiDeCo(個人型確定拠出年金)や個人年金保険に加入して、年金額を増やしましょう。国民年金の第1号被保険者であれば、付加年金で年金額を上乗せできます。40歳から毎月400円の付加保険料を60歳まで納めれば、老齢基礎年金額に4万8000円(年額)上乗せできます。

*長く働く方法を考える

年金が足りないのであれば、年金以外の収入を得る方法を考えましょう。現在の仕事を定年後も続けたいのであれば、継続雇用制度(再雇用制度)を利用するとよいでしょう。また、新たな道として起業や転職もあります。今から副業をして、定年後は副業を本業にするのもありでしょう。

働き続けることで生活費分の収入を得ることができれば、年金を繰下げ受給して増額することもできます。いずれにしても、これらを実現させるためには健康でいなければなりません。健康に留意して、長く働ける方法を今から考えておくとよいでしょう。

*貯蓄を増やす仕組みを作る

「定年後も働くなんて…」という人は、老後、安心して暮らせる分の貯蓄をしておくしかありません。貯蓄の方法はいろいろありますが、いつもスローガンで終わってしまう人は、貯蓄するための仕組みができていない人です。仕組みは意図的に作りましょう。

一番のおすすめは先取り貯金です。自動積立定期預金、財形貯蓄、貯蓄型保険、つみたてNISAなど、一度設定してしまえば、あとは自動的に積み立ててくれる方法が便利で確実です。

もう一つ、逆の発想で仕組みを考えましょう。今まで定期的に引かれ続けていた固定費の見直しです。固定費を減らす仕組みを考えられれば、貯蓄を増やすことにつながります。無駄な保険を解約する、通信費を見直すなど、こちらも一度だけ、既存の仕組みを作り直すという手間がかかりますが、効果は大きいといえます。

年金額の引き下げは、今後も行われると考えられます。その際に、漠然とした不安を抱えないためにも、今からできる対策をしましょう。