マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の金融政策について解説していただきます。
米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、1月25-26日に金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)を開催し、近く利上げに踏み切る意向を表明しました。声明で、「インフレが(目標とする2%を)大幅に上回っており、労働市場が力強い」ため、利上げをすることが「間もなく(soon)」適切になると宣言されたのです。
主要株価指数はいったん反発
ダウ平均株価など米国の主要株価指数は、昨年終盤から今年初めにかけて過去最高値をつけていましたが、このところ軟調に推移しています。FRBによる利上げが株価にとってマイナス材料になるとみられるからです。ところが、FOMCの声明を受けて主要株価指数は反発しました。FRBの利上げ開始のタイミングに関する不透明感がかなり薄まったことが好感されたようです。
もっとも、真のドラマはFOMCの声明発表から30分後にやってきました。FRBのパウエル議長が、市場の想定よりもアグレッシブな金融引き締めを示唆したからです。利上げ観測の高まりから、米国の長期金利(10年物国債利回り)は急上昇し、株価は大幅な下げに転じました。米ドルは対円も含めて全般に堅調でした。
パウエル議長は「タカ派」発言を連発
パウエル議長は記者会見で、インフレ抑制を重視する、いわゆる「タカ派」発言を連発しました(景気支援を重視するスタンスは「ハト派」と呼ばれます)。利上げ開始のタイミングに関しては、「(次回FOMCが開催される)3月の利上げが念頭にある」と明言しました。
株価が一番ネガティブに反応したのは、記者の質問に対して「労働市場に悪影響を与えずに利上げする相当な余地(quite a bit of room)がある」と回答したことでしょう。22年中の数回の利上げと年後半のQT開始という市場予想に違和感はないとし、「全てのFOMCが政策変更の対象となりうるか」との質問には、これを否定しませんでした。
FOMCは年8回開催されますが、市場には、経済見通しや、参加者各個人の政策金利見通し(いわゆる「ドット・プロット」)が発表される4回(3月、6月、9月、12月)に金融政策が変更される可能性があるとの暗黙の了解がありました。つまり、今年の利上げは最大4回であると。しかし、市場は議長の回答を、状況次第では今回を除く全7回で利上げの可能性があると受け止めたのです。
株価は多くの情報の一つ
パウエル議長は記者会見で、会見中に株価が大きく下落していることにも水を向けられました。しかし、金融政策の目的は「最大雇用」と「物価安定」であり、株価は金融政策を運営するうえでの多くの情報の一つに過ぎないと、素っ気ない反応でした。株価への配慮から必要な金融引き締めを躊躇することはないとのメッセージでしょう。
QT(量的引き締め)は「早く、速く」
昨年11月に決定し、12月にスピードアップさせたテーパリング(QE=量的緩和の縮小・停止)については、声明に「(予定通り)3月上旬に完了する」と明記されましたが、その次のステップにあたるQT(量的引き締め)についての記述はありませんでした。声明とは別に「FRBのバランスシート縮小の原則」が発表され、バランスシートの縮小(=QT)は利上げ開始の後に始めるとされましたが、具体的なタイミングには触れられませんでした。そして、パウエル議長は会見で「(17年に開始した前回に比べて)早く、そして恐らく速く行う」と、ここでもタカ派的な発言をしました。
利上げを慎重に進めた2015年と異なる状況
議長はまた、今回はリーマン・ショック後に利上げを開始した2015年と状況が異なるとも述べました。当時は、景気は底打ちしたものの雇用が増えずに「ジョブレス・リカバリー」と呼ばれ、デフレ(物価の下落)を警戒しなければならないほどインフレ率は低い状況でした。そうしたなか、FRBは2014年10月にテーパリングを完了、最初の利上げに踏み切ったのが15年12月、2回目の利上げが16年12月でした(17年に3回、18年に4回の利上げ)。そして、QTは4回目の利上げ後の17年10月に開始されました。今回はそうした時間的余裕はないと認識されているのでしょう。
主要中央銀行が金融政策を正常化する影響は?
もちろん、金融政策は予め決められたコースに沿って運営されるわけではありません。景気が堅調を維持するなかでインフレ高騰が続けば、22年中に5回以上(=1.00%超)の利上げをしたり、QTを早期かつ速いペースで実施したりする可能性はあるでしょう。一方で、景気失速懸念が強まってインフレのピークアウトが期待されれば、金融政策の正常化は慎重に進められるでしょう。
FRBだけでなく、多くの主要中央銀行が金融政策の正常化を進めるなかで、世界の経済や金融市場にどのような影響が出てくるかを各中央銀行は注意深く見守るはずです。今後の経済・物価情勢やそれらを受けた金融政策見通し(の変化)に引き続き要注意です。次回3月のFOMCでの利上げは確実としても、その際に発表される「ドット・プロット」が向こう3年間のどのような政策金利の軌道を示唆するのか非常に興味深いところです。