「緊張して人前でうまく話せない」「話したい内容が相手にうまく伝わらない」。そのように、話すことへの苦手意識を持つ人は少なくないと思います。そして、話すことに自信を失うことは、コミュニケーション力にも大きく関わってくる問題として多くの人が捉えていることでしょう。
会話力や語彙力に関する本で数々のベストセラーを残してきた「言葉のプロ」である齋藤孝先生に、「わかりやすい話し方」がどんなものなのか、また、そうなるためのコツを教えてもらいます。
■「相手が求めていること」を端的に「要約」する力
「話がわかりやすい」といわれる人は、ふつうの人といったいなにが違うのでしょうか? その特長としてまず挙げられるのは、「要約」が上手なことです。どれだけ頑張って話していても、結論に至るまでにもたもたすると、「結局なにがいいたいのかわからない」印象を与えてしまいます。逆に、「要するに〜」と話を短くまとめて端的に表現できるだけで、話がわかりやすい人とみなされます。
例えば、目の前にスマホの使い方で困っている人がいたとします。その人にはいま具体的に困っているものごとがあるため、その問題についてのみ端的に教えてあげれば話がわかりやすくなります。でも、話がわかりにくい人は、「スマホはこんな仕様になっていて、いまはメモリが不足していて…」と、「そもそも論」へと辿たどり過ぎてしまうのです。
相手は特定の問題について「どうすればいいのか」を知りたいだけなので、どれだけスマホについて詳しく正しく説明しても、「話がわかりにくい人」という印象を与えてしまうわけです。そのため、「相手が求めていること」を端的に要約していえる人が、話がわかりやすい人になります。要約力と、相手のリクエストに応えられる力、いわば応答力がある人です。
これらの力があると、人前で話すときにも話がとてもわかりやすくなります。聞き手が小学生なのか高校生なのか大学生なのか、あるいは社会人なのか経営者なのか、母親なのかによって内容は変わりますが、相手に応じてどんな話し方をすればいいかを判断し、手短に表現できるからです。
この力を身につける具体的な方法としては、まず意識して「結論から話す」ようにしてみてください。要は、話の「順番」を考えるということ。話すのが苦手だと感じている人も、話の順番を変えるだけでかなりわかりやすくなります。
これは、文章を書くときも同じです。よく細かな経緯やたとえ話などをいろいろ書きつらねて、結局「最後はそうなるの?」とびっくりするような書き方をする人がいます。小説や物語ならそれがオチにもなりますが、ふだんの生活や仕事においては、話を引っ張るのは「わかりにくい」とみなされてしまうでしょう。
特に、いまは多くの人が「時間がない」と感じて日常を過ごしているので、聞き手の時間がないなかで、相手にどう端的に伝えるかが、現代における「話のわかりやすさ」になります。
■相手の経験に寄り添った具体例があると「わかりやすい」
相手にとってわかりやすい話をするには、相手がわかりやすい「たとえ」のレベル感を摑む必要があります。わたしはよく学生に、専門的な概念を小学生に説明する練習をやってもらいます。
例えば、小学生に「コンプライアンス」について説明する。小学生は会社に勤めていないので、会社や仕事の話をしてもまったくわかりません。でも、小学生の経験に則した「たとえ」ができれば、彼ら彼女らにもわかりやすい話になります。「コンプライアンス」は「法令遵守」の意味ですが、学校にだって規則やルールを守る場面はたくさんあるわけです。
そこで、「給食当番や掃除はみんなで分担してやるよね?」というふうに、相手の経験に近いたとえを用いて、ルールや倫理観にしたがって公正公平に業務を行うことを説明できれば、話がわかりやすい人になるでしょう。
つまり、相手の経験に寄り添った具体例を出せる人は、話が伝わりやすくなるということ。これは大人でも変わりません。例えば男性に対して、まつ毛のエクステンションやネイルについてストレートに説明しても、ほとんどの男性は体験したことがないので感覚的にはわからないでしょう。そのため、どれだけ丁寧に説明しても、「話がわからない」となってしまいます。
聞き手が「わかりやすい」と感じるのは、聞き手が話の内容に納得し、理解できたということなので、やはり聞き手の経験の範囲内の話が伝わりやすくなります。そのため、相手の経験に寄り添って具体例を出せる柔軟性が、話がわかりやすい人の特長のひとつといえるでしょう。
■話のポイントはとにかく3つに絞る
わかりやすい話し方の基本として、「話のポイントを3つに絞る」方法があります。
まず、先に「結論は◯◯です」と述べたあとで、「そのなかでポイントは3つです」「なぜなら理由は3つあります」などと伝えると、聞き手にとっては話の筋道がよりわかりやすくなります。話にポイントがないのは最悪なのですが、ポイントがたくさんあっても、途端に話がわかりにくくなります。そこで、どんな話題でもとにかく3つにまとめてください。
「この本でいちばんいいたいのは◯◯です。その根拠は3つです」 「投資に失敗しないポイントは3つあります。それは、A◯◯、B◯◯、C◯◯です」
これだけなら、話の結論とポイントを15秒で伝えられるし、詳しい内容はそこから順番に丁寧に話していけばいいでしょう。
この「3つに絞る」ことを徹底的に練習すると、やがてどんな話題でも3つにまとめられるようになります。思えば、「真善美」「心技体」のように、3つセットになった要素には、不思議とわたしたちを納得させるものがあります。
信号機ひとつとっても、赤、黄、青の並びを見て混乱はしません。もし信号が4色で、橙や紫などが入ってくると、「橙ってなんだったかな?」と途端に危険になりそうではありませんか? おそらく、わたしたちがもっとも違和感なく理解できる限界が、「3つ」の要素なのでしょう。
話のなかでポイントを3つ聞かされると、3段オチのような感じで、不思議と話がよく理解できた感じがします。これが、ポイントがひとつやふたつだと少し物足りない。「ひとつだけ重要なことをいいます」とワンポイントで伝えるのはありですが、やはりポイントが3つあったほうが聞き手の納得感が違います。
もっというと、3つ目のポイントがちょっと面白い情報だったり、ユニークなアイデアだったりするとなおいいでしょう。わたしのメモ術である3色ボールペン方式でいくと、赤色が最重要ポイントで青色が重要ポイントなら、緑色はちょっとお得な面白い情報。
これを入れて話すと、聞き手はその3つ目でクスッと笑ったり、「聞いて得したな」と感じてくれたりするようで、結果「わかりやすかった」という評価につながります。
人を笑わせようとする必要はなく、ちょっと角度を変えたポイントや情報を入れ込みながら話すと、あなたの話は聞き手にとってかなりわかりやすく、有益なものになるはずです。
わかりやすい話し方ができると、人とかかわるのが楽になります。「話がわかりやすい」といわれるとつい嬉しくなって、ますます話すのが楽しくなります。そうして人とかかわることが楽しくなって、いろいろな人ともっと話したくなると、人生が楽しいものへと変わっていくのです。
※今コラムは、『人生を変える「超」会話力』(プレジデント社)より抜粋し構成したものです
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 写真/塚原孝顕