「うつ病」という言葉を知らない人はいないと思いますが、その具体的な内容となるとどうでしょうか。また、自分自身がうつ病とは思っていなくても、「なんとなく気分がすぐれない…」「やる気が出ない…」といったことは日常的に誰にでも起こります。
そんなときはどう対処すべきなのでしょうか。心理カウンセラーの中島輝さんに聞きました。
■「うつ」の症状を訴える人が急増中!
いま、コロナ禍以前と比べると「うつ」の症状を訴える人がどんどん増えており、そうなっている背景には多くの要因があると見ています。
ひとつは、経済の停滞。コロナ禍によって職を失ったり収入が減ったりしたという人が続出しています。あるいは、業績が悪化した勤務先からもっと売上をアップさせるようにとプレッシャーを与えられているというケースもあるでしょう。そうしたなかで、将来に対して不安を募らせ、精神的にダメージを負う人が増えているのです。
また、テレワークが広まるなど、働き方そのものが大きく変わりました。これまでにない働き方を強いられるのですから、このことも大きなストレスとなり得ます。
これまでのように自由に旅行を楽しむといったこともできないなか、ストレスを発散させることも難しくなっています。プライベートにおける環境の変化による心理的負担も、うつ増加につながっていると考えられます。
新型コロナウイルスそのものに対する不安も、うつ増加の要因でしょう。ウイルスという存在は目に見えません。「いつどういう環境で感染してしうまうのか…」といった不安がいつもつきまといます。日々のニュースを通じて「また感染者が増加した…」「今日は減った!」というふうに一喜一憂することで精神的な浮き沈みが激しくなり、それだけ心理的負担が増します。
■身体的症状と精神的症状にわけられる症状
ここで、うつ病の主な症状を紹介しておきます。大きくは、身体的な症状と精神的な症状のふたつにわけられます。
【うつ病の主な症状】
身体的症状
睡眠障害(入眠障害、熟眠障害、中途覚醒、早期覚醒など)
食欲減退、味覚障害
性欲減退、勃起不全、不感症、月経異常
その他(疲れやすい、脱力感、無力感、疼痛、便秘など)
精神的症状
気分・感情の異常、気分の抑うつ
思考の異常(考えがまとまらない、集中できない、判断力・決断力が鈍るなど)
意欲・行動の異常(行動量の低下、表情・身振りの減少、生気に乏しいなど)
その他(不安・焦燥感、絶望感・劣等感など)
ここで挙げた症状は健康な人にも表れるものです。誰でも、ときにはなかなか眠れないということもあるでしょうし、完璧な人はいませんから、どうにもやる気が出なかったり集中できなかったりということもあります。では、健康な人とうつ病の人の境界はどこにあるのでしょう?
それは、症状が続く時間です。なんらかの理由で寝つけないという日があったとしても、健康な人の場合はそれが何日も何日も続くということはありません。でも、うつ病の人には、そういった症状が何週間にもわたって続くという特徴があります。
■あなたは大丈夫?「うつ病チェックシート」
ここで、「うつ病チェックシート」というものを紹介します。うつ病の症状のなかでもとくに代表的なものを質問文としました。以下の質問に対して、「ここ2週間ほど続けて自分にあてはまる」と思うものにチェックを入れてください。
【うつ病チェックシート】
□寝つけない日が続いている
□夜中に目を覚ましてしまう
□朝、すっきりと目覚められない
□以前より食欲が落ちている
□食事をしても「美味しい」と感じられない
□疲労がなかなか取れない
□1日が「なんとなく」終わってしまう
□便秘や下痢の症状がよく見られる
□病名がはっきりしないまま肩こりや腰痛が続いてる
□突然イライラしたり落ち込んだりすることが増えた
□集中力が以前より続かない
□頻繁に判断ミスをしてしまう
□すぐに他人と比べてしまう
□モチベーションが持続しない
□漠然とした焦燥感を感じる
チェックが5個以下の人は安心してください。あなたの心は「健康」だといえるでしょう。 チェックが6〜8個の人は、「少し心配なレベル」。チェックが9〜12個の人は「かなり心配なレベル」です。
チェックが13個以上になったら、「専門医の診断が必要なレベル」「治療が必要なレベル」といえます。これにあてはまる人は、うつ病を疑って専門医に診てもらうべきでしょう。もしそのまま放置してしまうと、うつ病が進行して「死にたい」と願う希死念慮が強くなり、最悪の場合は自死に至るということにもなりかねませんから、十分に注意してほしいと思います。
■うつ感情を減らすメソッド「4つの窓」
先のチェックシートでは健康と判別された人であっても、ときには「なんとなく気分がすぐれない…」「やる気が起きない…」といったうつ感情におちいることは誰しもに起こり得ることです。そういうときの対処法を紹介しましょう。
人間の感情は多種多様ですが、シンプルに見ると「快」か「不快」かのどちらかにわけられます。うつ病の発症につながるのが「不快」に分類される感情です。
逆に「快」につながることを積極的にやっていけば、うつ病につながる「なんとなく気分がすぐれない…」「やる気が起きない」といった「不快」の感情も軽減していくことができるのです。
ところが、気分が落ちているときには、「快」につながる行動をイメージすることもなかなかできないものです。そこで、自分の「快」につながる行動を見つけやすくするための、「4つの窓」というメソッドを紹介しましょう。
「一瞬/習慣」と「他力/自力」というそれぞれ対照的な要素を持つふたつの軸が交差する4つの窓をイメージしてください。それぞれの窓に「快」につながる行動を見出すことができます。
■いい意味で「ま、いっか!」の精神を持つ
ひとつ目は「一瞬×他力」で、いまこの瞬間にできることであり、自分自身ではなく他人や周囲のものを利用する方法です。好きなものを食べたり欲しいものを買ったりするなど自分へのご褒美をおすすめします。食べ物など、他力によって「快」を感じるわけです。
ふたつ目は「一瞬×自力」ですから、すぐにできて自分の力で行うもの。散歩やヨガ、瞑想をしてリラックスするといったことが手軽でおすすめです。
3つ目は「習慣×他力」で、習慣として長期にわたってやり続けることであり、他力を利用する方法です。たとえば、好きなスポーツのコミュニティーに入る、新しい趣味をはじめるなどして、ワクワクする時間を持ち続けることがいいでしょう。
最後は「習慣×自力」です。これは、あらゆることのポジティブな面、「快」に感じる面を自分自身で見つけることを習慣にするというものです。ゴルフをする人ならよくわかると思いますが、コース上に池があるとつい「池に入れちゃ駄目だ!」と考えてしまいますよね。すると、なぜかボールは池に飛び込んでいくものです。
なぜそうなるのかというと、池というネガティブな面にばかりフォーカスする癖がついてしまっているからです。でも、池のまわりにはフェアウェイというポジティブな面がいくらでも広がっています。そこにフォーカスしてネガティブな存在をなるべく小さくしていくことで、ポジティブな面をとらえられるようになり、ひいてはうつ病につながる「不快」の感情を減らしていくことができるでしょう。
ただ、もっとも大切なことは、「人間はポジティブな感情になることもあれば、ネガティブな感情にもなることもある」ということを知っておくことです。
「ポジティブな感情を持たねばならない!」などと強く思ってしまうと、ネガティブな感情を持ってしまったときに、「自分は駄目な人間だ…」などと、それこそネガティブな感情に縛られてしまいます。
たとえネガティブな感情を持ったとしても、いい意味で「ま、いっか!」の精神を持つ。 「でも、このままじゃあまりよくないし、ちょっとずつ『快』につながる行動をしてみようか」くらいの軽い意識を持っておいてほしいと思います。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/川しまゆうこ