広瀬八段は1勝1敗の成績に
第71期ALSOK杯王将戦(主催:スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社)の挑戦者決定リーグ、▲藤井聡太三冠(1勝0敗)-△広瀬章人八段(1勝0敗)戦が10月4日に東京・将棋会館で行われました。結果は67手で藤井三冠の勝利。開幕から3連敗を喫した前期とは打って変わって、連勝スタートを切りました。
本局は藤井三冠の先手番で相掛かりの将棋に。両者の対戦では3局続けて先後も戦型も同一となりました。
先に仕掛けていったのは藤井三冠。まだ駒組み段階かと思われた33手目に、相手の桂頭を早くも攻めていきました。これが機敏な動きでした。
「序盤の手の組み合わせがかなり広いので、どの手順になるか分からないと思っていました。▲7五歩と突く筋もやってみようと思っていました」と藤井三冠。数ある研究ストックの内の1つだったのでしょう。
一方の広瀬八段はこの手を見て長考に沈みます。結局、昼食休憩をはさんで65分の考慮となりました。「行きがかり上しょうがないかなと思って進めていたんですけど、やっぱり▲7五歩を突かれてみると見た目以上に厳しかったので、すでに形勢が芳しくない可能性もあるのかなと思いながら、対応に苦慮していました」と広瀬八段はこの長考を振り返ります。また、「部分的には定跡なのかもしれないですけど、ちょっと自分はそういう認識はなかったです」とも明かしました。
藤井三冠は相手の桂頭を狙って角を打ち、桂交換後には2筋突破を目指して3筋へと活用します。そして銀をぶつけられた局面で、バッサリと角を切り飛ばしていきました。
「途中角を切っていったんですけど、こちらの玉も結構傷が多い形なので、ちょっとどうなっているか分からなかったです。
△5四銀と出られると引いてしまっては働きが悪くなるので、仕方がないと思ったんですけど、ただあまり成算がなかったです」と自信はなかったとのこと。
しかし手にした銀を敵陣に打ち込んでいった手が非常に厳しい一着となりました。広瀬八段は「▲7三銀の瞬間にこちらがちゃんと対応しないと一気に負け筋になるかなと思ったんですけど、あまりいい対応が見当たらなくて。もうちょっとましな順があったと思うんですけど、多分指しにくい手順なんだろうなと思って指してました」と振り返ります。
藤井三冠はこの銀の働きで相手の飛車の利きを止め、飛車を敵陣深くに閉じ込めます。対照的に自らの飛車は敵陣に成り込むことに成功。「飛車を成り込むことができたので、そのあたりで指しやすくなったかと思いました」とここで優勢を意識したとのことです。
敵玉の右側からは竜で、左側からは先ほど打ち込んだ銀で包囲網を完成させた藤井三冠。あとはどう寄せるのかと思われた局面で、藤井三冠は持ち駒の金を自陣に打ち付けました。
この金打ちは角取りになっており、後手は角を助けることができません。角を取られてしまうと、後手は攻めの手掛かりを完全に失ってしまいます。攻めるのではなく、受けに回って勝つ。これが緩急自在で冷静な決め手でした。この手を見て、広瀬八段は投了を告げました。
この勝利で藤井三冠は開幕2連勝スタートを切りました。「いいスタートを切れたので、挑戦目指して頑張りたいと思います」とコメント。前期は開幕から3連敗で挑戦権争いに絡めませんでしたが、今期はどうなるでしょうか。
敗れた広瀬八段は1勝1敗の成績に。「始まったばかりですけど、星を離されないように食らいついていきたいと思います」と語りました。