人間が社会生活を営む生き物である以上、他人とのコミュニケーションは欠かせないものです。同時に、他者とかかわりを持ちながら案件を進めていくビジネスパーソンにとっては、コミュニケーション能力は必須のスキルです。

  • コミュニケーション能力を向上させる話し方、"トップ3" /作家、心理カウンセラー・五百田達成

では、どうすればコミュニケーション能力を高められるのでしょう。コミュニケーションについて長く研究を続けている心理カウンセラーの五百田達成さんにポイントを伺いました。

■コミュニケーションが難しいのは、「相手」がいるから

みなさんも感じているはずですが、悩みのほとんどは人間関係が要因となっています。ではなぜ、人とのコミュニケーションは難しいのでしょうか? その理由は、「自分でない他人が絡むから」です。コミュニケーション能力を上げることと、100メートルを速く走れるようになることなら、後者のほうが圧倒的に簡単です。なぜなら、脚力を高めるなどして個人で頑張れば済むからです。

ところが、コミュニケーションには必ず相手がいます。しかも、その反応は相手によって異なります。まったく同じコミュニケーションをしても、Aさんにはよろこばれるけれど、Bさんにはよろこばれないといったことが往々にしてあるのです。

つまり、コミュニケーションの基本は「相手がどう思うのか」という点にあり、コミュニケーションがきちんと成立するかどうかの責任は、「発信者側」にあるのです。この視点が、コミュニケーションが下手な人の多くに抜け落ちています。

伝えたいことが相手に伝わらなかったという場合、つい「あの人は鈍感だ」なんて思うかもしれません。しかしそうではなく、「鈍感なあの人に伝えられなかった自分に責任がある」と考えるべきなのです。

■「定番」には定番になるだけの理由と価値がある

コミュニケーションが相手の受け取り方次第というのならば、相手がうまく受け取れるやり方で伝える必要が出てきます。そして、その受け取り方というのは人それぞれでちがうのですから、なるべく多くのコミュニケーションメソッドを持っておいて、相手に刺さるものを探していきましょう。

もちろん、持っておくコミュニケーションメソッドは、多くの人に刺さる最大公約数的なものがいいと思います。100人のうちふたりだけに刺さるものより、70人、80人に刺さるもののほうが有効であることは明白です。

そこでわたしは、世の中にあふれているコミュニケーションメソッドを整理して、10代から70代までの老若男女を対象にアンケートを行い、「こういうことをされたらうれしい」という好印象度によるランキングを作成しました。そのコミュケーションメソッドは全部で100個です。

ここではスペースの関係上、上位にランクインし、わたし自身もとくに重要だと感じるものをいくつか紹介しましょう。

◎1位 あいさつをする

あたりまえのことかもしれませんが、あたりまえのことだけに堂々の1位でした。話の中身とは直接関係なくとも、人と人が情報や感情をやり取りするうえでの「潤滑油となるあいさつ」は大きな効果を生みます。

きちんとあいさつをするだけで、「敵意がない」「円滑に話したい」「友好的な関係を築きたい」といった多くの意思を伝えることができ、その後のコミュニケーションを良好なものにしてくれます。

ひとつつけ加えるとしたら、バリエーションについて。「お世話になっております」「お疲れさまです」はビジネスシーンのあいさつとして定番ですが、「こんにちは」「こんばんは」といったあいさつもつけ加えると、より人間味が増して潤滑油としての効果が高まります。

◎2位 「ありがとう」をいう

これまた、定番中の定番ですよね。ところが、その定番をきちんとやれていないことも多いのです。たとえばオフィスで、後輩から「○○さん、×番に△△さまからお電話です」と電話をまわしてもらったとき、きちんと「ありがとう」といえていますか?

日常的な業務に関しては、どこか「仕事なんだからあたりまえ」といった気持ちを持ってしまい、周囲に対する感謝を忘れてしまいがちです。でも、ただ「ありがとう」という5文字の言葉を発するだけで周囲との関係性は良好になるのですから、こんなにコストパフォーマンスがいい言葉もありません。

自己啓発本などにはよく、「『ありがとう』は魔法の言葉」といった大げさなニュアンスの記述もあるものですが、それもあながち噓ではないのです。

■「結論を先に」「過程を先に」を使いわける

◎3位 「過程」を話して、気持ちを共感する

ビジネスシーンにおいては、「『過程』ではなく『結論』から話す」べきということがよくいわれます。「結論」から話すことで、「どういう話がはじまるのか…」といった不安を与えることながくなりますし、とくに時間がないという場面では「結論」だけでも相手に把握してもらうことは重要でしょう。

また、伝えるべきことが多く、長文になるメールや報告書などで活用するのも有効です。

しかし、それ一辺倒ではいけないと思うのです。コミュニケーションは相手の受け取り方次第であると同時に、シチュエーション次第というところもあります。なにがどうしてそうなったのか、どう思ったのかという「過程」にフォーカスしたコミュニケーションには、「熱い思いを相手に伝えられる」「細かな感情の機微を伝えられる」といったメリットがあります。

たとえば、大きなトラブルによって取引先とのミーティングを延期してもらいたいとします。もちろん、「ミーティングを延期してもらいたい」という「結論」を先に伝えてもいいのですが、相手からすると、「え? どうして? どういうこと?」という困惑の思いが先に立つこともあるはずです。

その後に理由を伝えれば納得してくれるでしょうけれど、相手を困惑させることはいいコミュニケーションとはいえません。

でも、「本当に申し訳ありません。緊急で対応すべきトラブルが発生しまして…」と話しはじめたとしたらどうでしょうか? 「それで、お約束のミーティングですが…」と続ければ、相手も「こっちはいつでもいいから。まずはトラブルを解決してまた連絡してください」と対応してくれるでしょう。

わたしは、コミュニケーションとは「弱者の兵法」だと考えています。地頭のよさやビジネススキルといったものが周囲より劣っていると感じている人がいたら、ぜひコミュニケーション能力を磨くことを考えてください。これまでの歴史を振り返っても、世の中にはコミュニケーション能力を武器にのし上がっていった人は珍しくありません。

「自分でない他人」とのコミュニケーションは確かに難しいものですが、トライアル&エラーを繰り返しながら経験を積んでいけば、確実に向上させることができると思います。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人