退職金制度は知っているけれど、中小企業退職金共済制度についてくわしい方は少ないはず。仕事の募集要項に「退職金制度なし・退職金共済あり」と記載されていることがありますが、実際のところどういったしくみなのでしょうか?
この記事では、中小企業退職金共済制度の加入条件や退職金の受け取り方、メリットなどについて解説します。これから就職・転職を控えている方は、会社選びの参考に役立ててくださいね。
中小企業退職金共済制度とは
「そもそも、中小企業退職金共済制度って何?」と、疑問に思う方も多いでしょう。国民年金基金のように宣伝や広告をほとんどしていないため、昔からある制度の割に知名度が低い傾向にあります。まずは、中小企業退職金共済制度がどのような制度なのか、概要や退職金との違いについてみていきましょう。
中小企業退職金共済制度の概要
中小企業退職金共済制度とは、昭和34年に制定された中小企業のために国が支援する退職金制度のことです。具体的には、独立行政法人勤労者中小企業退職金共済機構の中小企業中小企業退職金共済事業本部(以下、中退共)で、管理・運営をしています。自社内で退職金制度を設けることが困難な中小企業を支援するために、事業者の相互共済と国の援助で成り立っています。
中小企業退職金共済制度の掛金
次に、中小企業退職金共済制度の特徴をご紹介します。
加入期間と掛金額
会社の設ける退職金制度では、勤続年数が長ければ長いほど支給額も大きくなるのが特徴です。中小企業退職金共済制度の場合は、勤続年数ではなく掛金の納付月数により退職金額が違ってきます。
以下に退職金と掛金納付のポイントをまとめました。
- 掛金納付月数が12カ月未満の場合は、退職金は支給されません
- 掛金納付月数が12カ月以上24カ月未満の場合は、退職金は掛金相当額を下回る額になります
掛金納付月数が24カ月~42カ月(3年6カ月)の場合は、退職金は掛金相当額となります
掛金納付月数が43カ月(3年7カ月)以上の場合は、退職金は掛金相当額を上回る額になります
長く加入している加入者の退職金を多く支給すために、上記のような設定をしています。
掛金は従業員ごとに選択可能
退職金は基礎退職金と付加退職金を合わせたものが支給されます。基礎退職金は掛金額と納付月によって定められ、付加退職金は運用収入によって基礎退職金に上乗せされるものです。掛金は事業主側が全額負担しますが、5,000円から30,000円の間で従業員ごとに掛金額を変更できます。また、短時間労働の従業員には、一般の従業員より低い額の特例の掛金額が選択できます。
国が管理している
中小企業退職金共済制度は国が管理しているため、会社の経営に左右されずに退職金が支給されます。一般の会社では、倒産した場合に退職金が未払いとなるケースもあり、退職金制度そのものがなくなることも考えられます。
その点、中小企業退職金共済は会社の経営に左右されないため、リスクが少ないと言えるでしょう。
中小企業退職金共済制度加入のメリット
前述のとおり、国が管理する退職金が中小企業退職金共済制度です。では、具体的に会社が設けている中小企業退職金共済制度はどのようなメリットがあるのかをみていきましょう。
掛金の一部を国が助成してくれる
メリットとしてまずあげられるのが、掛金の一部を国が助成してくれることです。掛金は事業主の全額負担となっているため、退職金を増やしたい場合などに、掛金の増額分を負担してくれます。
掛金は非課税対象となる
掛金は、法人企業は損金、個人企業は必要経費として全額非課税となります。
福利厚生サービスが受けられる
中退共と提携しているホテルやレジャー施設を割引料金で利用できるといった福利厚生面もメリットとしてあげられるでしょう。退職金そのものとは関係ありませんが、中小企業は大手企業と比較して福利厚生面が充実していないケースが多いため、従業員の働くモチベーションの寄与にも期待できます。
中小企業退職金共済制度加入の条件
中小企業退職金共済制度に加入できる条件は業種ごとに異なります。以下に詳細をまとめましたので確認してみてください。
加入できる企業 | 常用従業員数 | 資本金・出資金 |
---|---|---|
一般業種(製造業・建設業) | 300人以下 | 3億円以下 |
卸売業 | 100人以下 | 1億円以下 |
サービス業 | 100人以下 | 5,000万円以下 |
小売業 | 50人以下 | 5,000万円以下 |
退職金の受け取り方
会社から支払われる退職金の場合、ほとんどは会社任せにしておけばいいので簡単です。しかし中小企業退職金共済制度では、事業者側だけでなく退職者自らの手続きが必要になってきます。以下に、簡単な中小企業退職金共済制度を受け取るまでの流れをまとめました。
1. 事業主が中退共へ被共済者退職届を提出する
2. 退職者は中小企業退職金共済手帳の退職金請求書ページを記入して、金融関で手続きをする
3. 退職金請求書と本人確認の書類を添付して中退共に郵送する
手続きがスムーズに進めば約1カ月で支給されます。ただし掛金納付方法によっては、2カ月半ほど支給まで待つケースもあります。
さまざまな退職金制度
退職金制度はほかにもあります。詳しくみていきましょう。
特定業種中小企業退職金共済制度(建築業、清酒製造業、林業向け)
特定業種中小企業退職金共済制度は、特定の業種・業界で働くことをやめたときに退職金が支払われる制度です。同じ業界内での退職・再就職した場合は対象外です。この制度は、以下の3つの業種に分かれています。
1. 建設業中小企業退職金共済制度(建退共): 建設業が対象で、ゼネコンや一人親方も加入できる
2. 清酒製造業中小企業退職金共済制度(清退共): 清酒製造業が対象(清酒・単式蒸留しょうちゅう・泡盛・みりん2種)
3. 林業中小企業退職金共済制度(林退共): 林業が対象
小規模共済制度
小規模企業の経営者や役員・個人事業主が積み立てることのできる退職金制度となっており、掛金は全額控除など税金面でメリットがあります。また事業資金の借入や廃業した場合にも支給されるなど、経営者にとっては安心につながる制度になっています。
特定中小企業退職金共済制度(特退共)
特定中小企業退職金共済制度は、掛金を事業主が負担します。該当する事業は、商工会議所や商工会、商工会連合会などの一般社団法人・一般財団法人です。また、加入条件の資本額や従業員数の縛りがないため、中小企業以外でも加入できるのが特徴です。
中小企業退職金共済制度のよくある質問
最後に、中小企業退職金共済制度についてよくある質問を3つまとめました。
中小企業退職金共済制度への事業主の加入方法
加入手続きは、以下の6ステップがあります。
1. 従業員の同意を得る: 新規加入者は、必ず同意を取る必要があります。
2. 掛金月額を決める: 後から掛金額の変更もできますが、減額するときは手続きが大変なため慎重に決めましょう。
3. 必要書類の記入: 「中小企業退職金共済契約申込書(新規用)」「預金口座振替依頼書」の2つの書類を提出します。
4. 添付書類の確認: 以下に該当する場合は、必要な書類を添付します。
・中小企業者である場合
・短時間労働者である場合
・事業主と同居する親族が働いている場合
5. 書類の提出: 最寄りの指定金融機関に書類を提出します。
6. 契約の成立: 金融機関に書類を提出した日が契約日となります。
中小企業退職金共済制度への加入は義務なのか
中小企業退職金共済制度を設けている会社で働く場合は、原則として従業員全員が加入しなければなりません。ただし以下の項目に該当する方は、対象外となります。
- 雇用期間が決まっている方
- 季節的業務に従事する方
- 試用期間中の方
- 短時間労働者
- 休職期間中の方
- 定年間近の方
自分がどの項目に当てはまるかわからない方は、人事部や経理部に相談しましょう。
「退職金制度はないが、中小企業退職金共済制度への加入あり」の意味
前述したとおり、退職金制度は会社が設定したもので、中小企業退職金共済制度は国が管理するものです。中小企業や退職金を出したくても経営的に難しい会社が、国の支援を受けて退職金制度の代わりに中小企業退職金共済制度を設けています。よく募集要項で見かける文章なので、これから転職・就職する方は覚えておくといいでしょう。
老後に備えて退職金制度を理解しておこう
今後、就職や転職を考えている方は、退職金がでない企業はリスクがあることと、代わりに中小企業退職金共済制度があることを覚えておきましょう。