突然ですが、日本の株式市場で最も評価されている企業を御存じでしょうか。正解はトヨタ自動車(7203)です。株式市場では時価総額という指標で企業の価値をはかりますが、トヨタ自動車は約29兆円。約14兆円の2位のソフトバンクグループ(9984)を倍以上引き離すダントツの1位となっています。
そんなトヨタ自動車は現在、株価が過去最も高い水準にあります。トヨタ自動車の株価が好調な理由を直近の決算状況を交えて見ていきましょう。
決算発表とは?
決算発表とは、3カ月に一度行われる、いわば企業の成績発表の場です。日本では3月に決算を締める企業が多く、決算発表は大体締め日の1カ月遅れくらいに行われるので、特に5月、8月、11月、2月の2週目付近に集中します。多い日には1日1,000社近い企業が決算を発表し、多くの銘柄を調べている投資家にとっては忙しい日々となります。
1年間のうち、第1~3四半期にかけては年間の予想に対してどれくらいの進捗をしているか、最後の通期の発表では1年間どのような結果であったのか、またそれを踏まえ次の1年間はどのような目標となっているかに注目が集まります。
トヨタの1年間の業績を振り返る
決算で最低限見るポイントは売り上げの伸び、本業のもうけを表す営業利益の伸び、そして最終的に残った利益である純利益です。余裕がある場合は営業利益率など、売上高に対してどれくらい利益をあげているかの指標も見るといいでしょう。
これらのポイントを踏まえたうえで、トヨタの業績を見ていきましょう。コロナ禍に見舞われた今期は、業績予想の段階では営業利益で79.5%減益を予想し、第1四半期(4~6月期)は売上高が前年同期比で40.1%減益、営業利益は98.1%減益と大変厳しいスタートとなりました。
一方で想定より早いワクチン開発などが後押しし、第2四半期(7~9月期)と第3四半期(10~12月期)のタイミングでそれぞれ上方修正を行うなど、業績は想定を上回る水準で推移。ワクチン接種が堅調に進んだアメリカなどを中心に販売台数を回復し、第3、第4四半期では営業利益でそれぞれ54.3%、91.7%増益と堅調な業績を発表。
終わってみれば売上高と営業利益は減益だったものの、最終利益では2期連続の増益となり、日本一の底力を見せました。
業績面の主要な数字の動きを見た後は、事業別など細かい数字を確認しましょう。
トヨタ自動車の場合は販売台数を見ましょう。地域別の販売台数の動きを上期、下期で比較して見ても、上期は各地域で販売台数を減らし、全体で30%近い下落を見せていますが、下期は日本をはじめ北米や欧州での販売台数が回復し、前年比でプラスに転じています。
このように、地域によって情勢などが変わってくることから、細分化して業績を見ることが重要になります。
株価は堅調に推移し、上場来高値を更新中
株価も堅調な業績に呼応するように上昇。6,000円台前半をつけていた7月後半からもみ合いの時期も挟みながら、いまでは上場来高値を更新する9,000円台を超える水準まで上昇しています。
この1年での業績の復調と相まった株価の回復は、株主とのコミュニケーションの上手さも後押ししたと考えられます。
コロナ禍で先行きが不透明な中では、投資家の期待に背いてしまうことも恐れずに大幅な減益予想を発表し、その後回復が見られた中で段階的に予想の上方修正を行ったことで、過度な悲観・期待を生むことなく、投資家も投資判断ができたのではないでしょうか。
この上方修正、下方修正の有無は、企業によって業績見通しの出し方のクセもあるため、企業を分析していく中では見ていくと予想に活かせるポイントでもあります。
今後1年間、長期的なポイントは?
株価は将来の先行指標であり、将来どれくらいの成長性が見込めるかが重要になってきます。そのため、特に通期の決算発表の際は、いままで1年間の業績もさることながら、次の1年間の業績見通し、あるいは向こう何年間かの目標が作成される中期経営計画などの将来の業績に対する言及に注目が集まります。
トヨタ自動車の場合、来期の業績は 売上高、営業利益で2ケタ成長を見込み、販売台数は新型コロナ前の2020年3月期に迫る水準までの回復が期待されています。
特に北米・欧州の販売に関して、約15%の成長を予想している点が目を引きます。
ワクチン接種が順調に進んでいるアメリカではすでに経済は正常化へと進んでおり、インフレの懸念がされるほど景気も回復しています。その中で政府の給付金等の後押しもあり、この1年外出が抑制されたストレスを消費で取り返す動きも見られ、中古車価格が高騰するなど車消費も堅調に回復しています。
この動きは海外シェアが売り上げの大半を占めるトヨタにおいては、海外のアフターコロナな世界での消費活動が業績を牽引する可能性があります。
残念ながら日本はコロナ対策で世界に後れを取っています。しかし、世界各国でリベンジ消費が発生する中で、今後日本でも同じようなムーブメントが起こるかもしれないことは、頭の片隅に置いていくと良いでしょう。
また長期的な視点で見ると、世界的な脱炭素の動向によって、カーボンニュートラルへの取り組みを進めているトヨタが評価される可能性もあります。すでに電動車の販売台数は2020年時点で年間200万台、2030年までには800万台を目標に掲げるなど、準備を着々と進めています。
このように、1~3年くらいの短期的な成長見通しに加え、10年程度の長いスパンで取り組みを評価していくことで、さまざまなシナリオを考えることができるのです。
株式分割などの資本施策もチェック
決算のタイミングでは、株式分割(※1)や自社株買い(※2)などの資本施策が行われる可能性があります。業績の推移だけでなく、そのような動向も考慮して決算を迎えると面白いでしょう。
今回の決算で、トヨタは9月末を基準とする株式の5分割と自社株買いを発表しました。株式分割が行われると市場に流通する株数が増え、株価も安くなるため、より多くの投資家が購入しやすくなり、発表されると株価が上昇する傾向にあります。今回のトヨタは5分割であり、現在の9,000円に近い株価水準から分割後は2,000円を下回る水準まで下落するため、ポジティブなインパクトを与えたと言えます。
(※1)発行済みの株式を分割すること。よく行われる2分割を例に挙げると、例えば1株1,000円で100株保有している状態で2分割が行われた場合、基準日まで保有していた場合は500円で200株保有していることになる。
(※2)投資家の1株当たりの利益を向上させるため、自己資本で自社の株を買い取ること。
決算は株価に影響を与えるイベント、しかし注意も必要!
一方で決算発表には注意も必要です。決算はそれまでの企業の業績、また今後の業績見通しが判明するタイミングであり、決算の前と後で大きく市場での評価が変わる可能性があります。そのため、株価が大きく変動する可能性が高いのです。
決算日に株式を持ち越して、短期で決算後の好反応による株価上昇を狙う「決算跨ぎ」はよく使われる手法ですが、決算が良かったとしても材料出尽くしの判断で売られてしまうケースもあり、ハイリスクハイリターンな投資手法と言えるでしょう。
慣れないうちは決算で大きな失敗しないように注意しつつ、あくまで長い目線で見た際の点検のポイントとして決算と向き合うのがいいかもしれません。
Finatextグループ アナリスト 菅原良介
1997年生まれ、Z世代のアナリスト。早稲田大学 政治経済学部 経済学科に在学中は「株式投資サークルForward」の代表を務め、大学生対抗IRプレゼンコンテストで準優勝を獲得。2年間の長期インターンを経て、2020年Finatextに入社。現在はFinatextグループで展開される投資・証券サービスのディレクターを担当。コミュニティ型株取引アプリSTREAM内で開催されるイベントのモデレーターも務める。