NHKの連続テレビ小説『べっぴんさん』(16)でヒロインを務めてから早5年、着実にキャリアを重ねてきた芳根京子。映画『ファーストラヴ』(21)では北川景子と堂々わたり合ったことも記憶に新しいが、常に愚直なほど真摯に役と向き合う芳根は、実力派俳優と共演することで、より一層ポテンシャルが引き出される気がする。4月30日よりスタートする主演ドラマ『半径5メートル』(NHK総合 毎週金曜22:00~)は、永作博美との共演作ということで、実に期待値が高い。
本作で芳根が演じるのは、週刊『女性ライフ』の編集者・風未香役。芸能ゴシップを追いかける「一折(いちおり)」班だったが、ある失態をおかしたことで、生活情報など読者の身近な関心事を掘り下げる「二折(におり)」班に異動となる。そこで永作が演じる破天荒なベテラン記者・宝子と出会い、大奮闘していく。脚本は『僕の生きる道』シリーズの橋部敦子氏、チーフ演出は映画監督の三島有紀子氏が務めた。
――今回、女性週刊誌の編集者役ですが、どのようにアプローチをしていきましたか?
本当は実際に週刊誌の編集部にお邪魔したかったのですが、コロナ禍のため伺えませんでした。ただ今回に関しては、宝子さんにいろいろ教わっていくという役柄なので、あまり知らないほうがいいと思い、純粋に飛び込ませていただきました。そのほうが視聴者の感覚に近い気がしたし、無知な人間が宝子さんから1つずつ教えてもらい、成長していく物語になればいいなと思ったので、その場その場で生まれるものを大切にしました。
――実際に風未香を演じたことで、週刊誌の印象は変わりましたか?
私のなかでの週刊誌のイメージは、スクープを扱う「一折」だったんだと気づきました。今回「二折」編集部を経験させてもらったことで、週刊誌自体がすごく身近に感じられるようになったし、以前よりもよく読むようになり、前のページだけではなく隅々まで見るようになりました。
――永作さん演じる宝子さんは、どんな方でしょうか?
風未香にとってはすごく刺激をくれるし、自分の視野を広げてくれる方です。宝子さんは、決してやり方を教えてくれるわけではなく、自分で切り開くための入り口を教えてくれる方。風未香はそこからどんどん視野が広がっていきます。もしも最初から答えだけを教わっていたら、風未香のような成長のし方はできないんだろうなと。風未香は前半から宝子さんに振り回されるけど、やっていくなかで無駄なことは何一つないことがわかっていきます。きっと風未香が人生を振り返った時、自分の人生を変えてくれた人が宝子さんになるんだろうなとすごく感じています。
――これまで撮影してきたなかで、印象的なエピソードを教えてください。
1話でこんにゃくが登場しますが、撮影に入る前に永作さんと毎熊克哉さんと3人でこんにゃくを作ったことです。お二方とはそこで初めてお会いしましたが「なんだろう? このドラマは?」と思いました(笑)。作ったこんにゃくをみんなで食べて、「これは、弾力が強めだよね」といった会話が出たりして、ちょっと不思議な気持ちになりました。でも、そのちょっともやっとする感じが、風未香の役とリンクしていったので本当に良かったです。
――永作さん演じる宝子さんから出た「半径5メートル」がキーワードになっていますが。
最初にその言葉を聞いた時の私は、「半径5メートル」というのがあまりピンとこなかったです。実はセットに半径5メートルの円が実際にあって、それを見た時、私は意外と大きいなと思いました。やはり人によって感覚が違って、すごく狭いと思う人もいれば、そうでない人もいるからこそ、絶妙で面白いなとも思いました。
――芳根さんが半径5メートル以内の身近な出来事で、気になっていることはありますか?
荷物を減らすすべが知りたいです。私は風未香ほどではないけど、持ち歩く荷物が多いです。家のなかの物はそんなに多くないのですが、仕事となると本当にカバンが重くなってしまう。今ちょっと腕が内出血しているので、さすがに良くないなと。
――何をそんなに持ち歩いているのですか?
もしかして必要になるんじゃないかと思い、ハンドクリームだけでも2~3種類、目薬も3種類持っていますし、今日は1日取材日なのに、台本だけで7冊も入っていました(笑)。プライベートだと、スマホだけでもOKなくらい身軽になれるのに、仕事となるとすごく心配性になってしまう。ということで仕事の時はちゃんとしていると思ってもらえたらと(笑)。
――橋部さんの脚本については、どんな印象を受けましたか?
台本を読んだ時は、純粋に面白いなと思いました。風未香は主人公だけど不思議な立ち位置で、宝子さんに引っ張られるからこそたくさんの発見ができるので、自分自身もすごく視野が広くなった気がしますし、私も現場で風未香のようにいろんなことに気づいていけたらいいなとも思いました。今はSNSの時代だから、いろんなすれ違いが起きていますが、何事も決めつけるのはよくなくて、視点を変えるだけで見え方が違ってくるなと、今回の作品を通して思いました。今24歳でこの作品に出会えて、そこに気づけたことは本当に良かったと思います。
――いつもは取材される側にいる芳根さんが、今回取材をする側に回ったことで、どんな気づきがありましたか?
今までは取材をしてくださる方の気持ちはあまりわかってなかったのかなということに気づきました。もちろん以前から、みなさんが台本を読んできてくださったり、作品を観てきてくださったり、それ以外にもたくさんの時間を掛けて準備をしてくださっているんだろうなと思っていましたが、今回は編集者役を体験できたことで、改めてそのことを実感しました。
だからこそ自分もしっかりと受け答えをしなければいけないと思ったし、どういう答えを求められているのかをちゃんと頭で整理して、的確にお伝えしないと失礼だなとも思いました。今回は自分の視点を変えること、180度ではなく360度見ることが大事だというドラマですが、私はたぶん今までは180度しか見てなかったのではないかと。もちろん今も360度全部見えているわけではないけど、取材などではより一層丁寧にお話をさせてもらいたいと思うようになりました。
1997年2月28日生まれ、東京都出身。2013年に『ラスト・シンデレラ』(フジテレビ)でデビュー。2016年にNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』でヒロインを務めた。2018年『累-かさね-』、『散り椿』での演技が評価され、第42回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。主な出演作に『居眠り磐音』(19)、『今日も嫌がらせ弁当』(19)、『記憶屋 あなたを忘れない』(20)、『ファーストラヴ』(21)。『Arc アーク』が6月25日公開予定、『峠 最後のサムライ』が7月1日公開予定。
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