仕事と子育て、家事を両立しながら、日々忙しく過ごすワーキングマザー。充実感はあるものの、やることなすことどれも中途半端に感じ、自分らしいキャリアや子育て後の人生が描けない、そんな風に感じている方もいらっしゃるかもしれません。

人生100年時代、家族や会社のためだけでない、私らしい人生を歩んでいくためには何が必要なのか。ICF(国際コーチング連盟)会員ライフコーチとして活躍し、このほど『子育て後に「何もない私」にならない30のルール』を出版されたボーク重子さんに伺いました。

ボーク重子さん

ICF(国際コーチング連盟)会員ライフコーチ。Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表。ワシントンDC在住。英国で現代美術史の修士号を取得後、1998年渡米、出産。2004年にアジア現代アートギャラリーをオープン、2年後にトップギャラリーの仲間入りを果たしワシントニアン誌上でオバマ前大統領(当時上院議員)と共に「ワシントンの美しい25人」として紹介される。娘スカイは2017年「全米最優秀女子高生」コンクールで優勝。
現在は日米での講演会に加え「ボーク重子の非認知能力を育む子育てコーチング」を主宰。著書に『心の強い幸せな子になる0 ~10歳の家庭教育「非認知能力」の育て方』(小学館)、『「全米最優秀女子高生」を育てた教育法世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)等。

やりたいこと探しは、"ほっと一息つく時間作り"から始まる

――"私らしく生きたい"と思っても、そもそも自分の好きなことや得意なことがわからない、と感じていらっしゃる方が多い印象です。ボークさんはもともと専業主婦をされていたそうですが、今のご職業につながる"好き"や"得意"をどのように見つけられましたか?

子どもが生まれると、とにかく毎日が忙しいですし、常に子どものことを考えて生活しているので、"はっと気が付いたら自分がいない"という感覚に陥りがちですよね。

そこで私が専業主婦時代に実践していたのは、母や妻という役割から解き放たれた"自分の時間"を作ること。当時からアメリカで暮らしていたのですが、21時過ぎには娘の寝かしつけを夫に任せて、母が日本から送ってくれる雑誌を読んでいました。

特別なことをしていたわけではないけれど、そんな風にほっと一息つく時間ができて初めて、やってみたいことを思い出したり、得意に気づいたりする余裕が生まれました。

体が疲れていると、心も疲れてくる。余裕もなくなってくる。そんな状態で自分の"得意"や"好き"を見つけるのは難しいでしょう。ですから、生活の中に少しでも"余裕"を作ることが、すごく大事だと思います。

  • 自分時間の捻出で自分を取り戻そう

いい妻、いい母にとらわれず、家族と上手に話し合おう

――そもそも毎日やることが多すぎて余裕を作れないといった状況では、どのように自分の時間を作っていったらいいでしょうか?

"いい妻"、"いい母"を目指してしまうと、やらなくてはいけないことは膨大に出てきますよね。でも、時間を作るためには、今までやってきたことの中で、やらなくていいものを見つけていくしかありません。

例えば、「毎朝洗濯をしていたけれど、乾燥機を買えば、1週間に1度でいいのでは?」とかね。やらなくてもいいし、実は家族も望んでいなかった、ということは意外とたくさんあるものです。

――家族にも協力を仰げたらいいですね。

そうですね。そのためには、家族と話し合いをすることが重要です。"私のつらさはわかってくれていて当然"ではなく、"所詮は他人で違う人間、説明しないとわからない"という前提で、何がつらいのか、どうしてほしいのか、具体的に伝えましょう。そうでなければ、相手には理解してもらえません。

それから、自分が正しい・自分は犠牲者だという意識を持って話し合いを進めないこと、相手ができないことを要求しないことも大切です。なぜなら、そのような方法で話し合いをしても、要求したことの実現可能性が低いからです。

どうしても定時で仕事を終えることができない職場環境の人に、「定時で帰ってきて」と要求しても結果は出づらいですよね。夫の給料でベビーシッターを雇うとか、乾燥機やお掃除ロボット、家事代行サービスの導入を決めてもらうとか、相手がイエスと言いやすいような代替案を考える方が、実現可能性が高いです。

人生は交渉の積み重ねでできています。双方がちょっと勝ってちょっと負ける状態まで歩み寄ることを意識して、話し合ってみてください。

今必要なのは"選ぶ力"、自分の選択を正解にしていこう

――今のワーキングマザーは、人生の選択肢もたくさんあるし、多くのチャンスにも恵まれている。だからこそ、やりたいこと、やるべきこともたくさんあって、でもできない、という葛藤に苛まれがちな気がしています。

結婚したら仕事をやめる、仕事を続けるなら仕事1本でがんばる、といったように、女性の人生の選択肢が二者択一だった時代もありました。

しかし今は、本当にありとあらゆる働き方があります。選択肢がたくさんある中で、選ぶ力が求められている時代です。

そこで大事なのは、自分の選んだ選択肢に責任を持って、それを正解にしていく、自分の幸せにつなげていくことです。

例えば、"子育てを優先して仕事をセーブする"という選択をした場合、大きなキャリアのチャンスを見送らないといけないこともあるかもしれません。悔しい思いもあるし、割り切れない気持ちがあるのは当然です。

でも一度子育てを優先すると決めたのであれば、まずは迷わず進んでみましょう。もし間違った選択だと思ったら何度でもやり直しはきくし、チャンスというのはまた必ず訪れます。どのようにしたら、将来自分の選択を良かったと思えるか、そこに意識を向けましょう。

  • 一度選択したら「ああすればよかった」と悩まない。自分が選んだ選択肢を幸せにつなげることに意識を向けよう

大きな目標は不要! できることを増やしてつなげてキャリアを作ろう

――子育て後の人生を納得できるものにするために、目標をどのように位置づけて、キャリアを築いていったらいいでしょうか?

まず、今後のキャリアを考えるときには、会社の中のポジションではなく、"いかにプロとして生きていけるか"を考えることの方が大事だと私は思います。

新型コロナウイルスの流行によって、働き方はますます多様化していますし、例えばフリーランスは、予測のつかないライフステージの中で生きている女性にとってぴったりの働き方です。

――組織の中でのポジションではなく、自分の強みを磨いていくことに目を向けた方がいいということなんですね。

20年後、30年後、今の会社や仕事があるかなんて、わかりません。もしかしたらAIに取って代わられるかもしれません。これからはますます、AIにとって代わられない、トップクラスのプロフェッショナルでなければ、生き残れない時代になっていきます。

そんな変化の激しい時代、一つの目標から逆算してキャリアを構築していくのは危険です。

そこで注目したいのが「プランドハップン・スタンス」というキャリア構築理論です。目の前にあること、できること、自分の興味を引くことをいっぱいやってみて、経験を増やして、つなげていく……そうやってキャリアを作っていけば、社会の変化に合わせて自分をアップデートすることができます。

――そのような小さな一歩を積み重ねることであれば、自分でもできそうな気がしてきます。

生きることを楽しみ、喜びを感じるためにも、楽しいと思う方法でお金を稼げるといいですよね。自分が今できること、やりたいことで、日々小さな目標を持ち、達成していく。可能性と選択肢を増やしていき、それをお金につなげられないか、考えてみましょう。

たとえお金につながらなくても、これを続けていけば、好きなことをして生きる喜びを得ることができます。決して無駄にはなりません。

まだまだ一家の大黒柱を求められがちな男性と比べて、女性の方がキャリアの選択は柔軟です。それだけ選ばないといけない局面に立たされた時、早く変化することが出来るように思います。これからのキャリアを築いていくために、ぜひ実践してみてくださいね。

『子育て後に「何もない私」にならない30のルール』(ボーク重子 著/文藝春秋 刊)

女性たちが自分自身の「ものさし」を持ち、人生のハンドリングを持てるようにと願いを込め、ボーク重子さんがこれまでの人生の中で体当たりで学んできたことを、30のルールにして提言。人生100年時代「子育て後」を後悔することなく、自分自身の人生を生きていく―。新しい、自分らしい女性の生き方を考え、実践していくためのヒントが書かれた令和の女性の生き方指南本です。