もしもの備えに地震保険の保険料や掛金を支払っていると、地震保険料控除の対象となります。しかし、申請書類の書き方や控除額の計算方法がよくわからない人は多いでしょう。そこで、地震保険料控除とは何なのか、申請書類の書き方のコツを紹介します。

  • 地震保険料控除とは

    地震保険料控除をしたい人へ必要な書類の書き方を紹介していきます

地震保険料控除とは

納税者が損害保険契約などで、地震による損害の補償を受ける目的で保険料や掛金を支払った場合、一定の金額の所得控除を受けられます。以前は損害保険料控除だったため控除額も低かったのですが、平成18年に税制改正があり、平成19年分から損害保険料控除が廃止になり地震保険料控除のみ受けられるようになりました。

最高5万円まで控除を受けられる

その年に支払った地震保険料の金額に応じて、最高5万円までの地震保険料控除を受けられます。控除額は下記の通りです。

地震保険料 年間の地震保険料合計控除額
5万円以下 支払金額の全額
5万円超 一律5万円

高額になることもある地震保険料も所得控除の対象となりますので、活用すると節税につながります。

旧長期損害保険に係る経過措置とは

平成18年に税制改正があり、平成19年分からは損害保険料控除が廃止されています。しかし経過措置として下記要件を満たす損害保険料については地震保険料控除の対象です。

  • 平成18年12月31日までに締結し、始期が平成18年12月31日までである
  • 満期返戻金等のある損害保険で、保険期間・共済期間が10年以上である
  • 平成19年1月1日以後に保険内容を変更していない

上記に該当する場合、控除額は下記の通りです。

旧長期損害保険料 控除額
1万円以下 支払金額の全額
1万円超2万円以下 支払金額×1/2+5,000円
2万円超 1万5,000円

地震保険料と旧長期損害保険に係る経過措置両方がある場合それぞれの方法で計算した金額の合計額かつ最高5万円が控除されます。

年末調整か確定申告で手続きを行う

地震保険料控除を受けるには、年末調整または確定申告での手続きが必要です。会社員などの給与所得者は通常年末調整で手続きが完了しますし、個人事業主は確定申告で手続きできます。給与所得者の中で確定申告が必要なのは複数の会社から給料をもらっている人や年収2,000万円を超える人など、特殊な事情がある場合です。

しかし、下記のような場合には、会社員でも確定申告をすることで税金が戻ることがありますので、手続きしましょう。

  • 会社員だが年末調整で手続きできない控除(雑損控除や医療費控除、寄附金控除など)を利用したい場合
  • 会社員だが年末調整できなかった場合
  • 複数の会社から給料をもらっている場合
  • 1年の途中で退職して就職しなかった場合
  • 退職金をもらった時に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかった場合(※)

(※)退職所得にかかる税品は源泉徴収されるため、原則確定申告は不要です。ただし、当申告書を提出していない場合には、退職所得控除の適応を受けられないため、税金を多く引かれてしまいます。こうした場合、確定申告により還付を受けられます

会社員以外では、年金受給者も確定申告することで地震保険料控除を受けられます。

地震保険料控除を受けるには証明書が必要

確定申告で地震保険料控除を受ける場合、確定申告書に地震保険料控除に関する事項を記載して、下記いずれかの証明書の添付または提示が必要です。

  • 支払金額や控除を受けられることを証明する書類(書面による保険料控除証明書)
  • 電磁的記録印刷書面(情報の内容と、その内容が記録された2次元コードが付された出力書面=電子的控除証明書)

ただし、年末調整で地震保険料控除を受けている場合はすでに証明書を提出済みなので、あらためて提出する必要はありません。また、e-Taxでの提出など、証明書を省略可能な場合もあります。

  • 地震保険料控除とは

    地震保険料控除を受けるには年末調整か確定申告での手続きが必要です

参照 :
国税庁「地震保険料控除(No.1145)」)
国税庁「所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き(令和2年分)
国税庁「給与所得者の保険料控除の申告

地震保険料控除に必要な書類の書き方

地震保険料控除を受けるためには、年末調整で手続きするのか確定申告で手続きするのかで、提出すべき書類が異なりますので注意しましょう。そこで、それぞれの場合に必要な書類と書き方を紹介します。

年末調整の場合は「給与所得者の保険料控除申告書」へ記入

年末調整で地震保険料控除の手続きを行う場合、「給与所得者の保険料控除申告書」へ必要事項を記入して会社へ提出します。この書類は年末調整の手続きで会社から配布される書類のひとつであり、地震保険料控除を含めるさまざまな保険料控除を受けるための書類です。

提出期限はその年最後の給与等の支払日前日までとされていますが会社によっては11月末頃が期限となっていることもありますので、早めに提出しましょう。

1. 「給与所得者の保険料控除申告書」地震保険料控除記入手順

まずは「給与所得者の保険料控除申告書」上部に自分の個人情報(下記画像※1欄)を記入した上で、地震保険料控除欄(下記画像※2欄)へ記入します。例えば地震保険料を2万円、旧長期損害保険料を2万円支払った場合の記入例は下記の通りです。

  • 地震保険料控除に必要な書類の書き方

    「令和2年分 給与所得者の保険料控除申告書」【画像クリックで拡大】
    元画像はこちら

保険会社から届く地震保険料の証明書をもとにそれぞれの保険の詳細を記入したら、B・Cへ合計額も記入をします。そこから控除額を算出して記入してください。

2. 証明書とともに会社へ提出する

地震保険料控除を含めて「給与所得者の保険料控除申告書」の記入が滞りなく終わったら、証明書を添付して提出しましょう。証明書は主に下記のような様式があります。

  • 保険証券に付属しているタイプ
  • 毎年「保険料控除証明書」が郵送されるタイプ

契約している保険によって証明書の種類は異なりますので、もしわからなければ保険会社に問い合わせてみてください。

確定申告の場合、記入場所は2カ所

確定申告で地震保険料控除を受ける場合、確定申告書AまたはBの第一表と第二表に記入すべき項目があります。

第一表には、地震保険料の控除合計額を記入してください。最高でも5万円ですので、高額な地震保険や複数の地震保険を掛けている場合などは注意が必要です。

第二表には、支払った地震保険料の金額を記入します。左の欄には支払った金額を、右の欄にはそのうち年末調整で手続きした金額を除いた額を記入してください。

1. 確定申告書Aと確定申告書Bの違い

確定申告書は、確定申告書Aと確定申告書Bとがあり、初めてだとどちらを作成すればいいのかわからない人は多いでしょう。給与所得と年金所得以外の収入がない場合は、確定申告書Aで構いません。確定申告書Bは、どのような場合にでも使用できます。

2. 確定申告書への記入例

確定申告をして地震保険料控除を受ける場合の記入例を紹介します。地震保険料が2万円、旧損害保険料をそれぞれ2万円ずつ支払った場合、記入例は下記の通りです。

  • 地震保険料控除に必要な書類の書き方

    確定申告書A(令和2年分以降用)への地震保険料控除欄への記入例です【画像クリックで拡大】
    元画像はこちら

確定申告書Bを使用する場合も、記入すべき項目は同じです。

確定申告することで所得から地震保険料控除を受けられますので、忘れずに申告しましょう。

3. 証明書を台紙に貼り付けて提出

確定申告を書面で提出する場合には、添付書類台紙へ控除証明書を貼り付けて提出します。もし証明書が見つからない場合は、保険会社で再発行も可能な場合が多いです。確定申告の提出期限直前で慌てないように、早めに準備をしておきましょう。

補足 : e-Taxを利用する場合は証明書を省略できる

e-Taxで確定申告する場合は、添付書類の電子証明書での提出が可能ですので、原則として保険会社のマイページなどで証明書を取得して、税務署に提出・送信します。ただし、地震保険料控除証明書は税務署への提出・提示を省略することも可能です。

ただし法定申告期限から5年間は税務署等から書類の提示や提出を求められることもありますので、提出を省略した場合には手元に保管しておく必要があります。

  • 地震保険料控除に必要な書類の書き方

    地震保険料控除を受けるために必要な地震保険料控除証明書や確定申告書の書き方を紹介しました

参照 :
国税庁「給与所得者の保険料控除の申告
国税庁「給与所得者の保険料控除申告書(令和2年分)
国税庁「所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き 確定申告書A(令和2年分)
国税庁「所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き 確定申告書B(令和2年分)
国税庁「生命保険料控除証明書等のオンライン送信について
国税庁「控除証明書等の電子的交付について
国税庁「所得税及び復興特別所得税についてよくある質問

地震保険料控除申請時の注意点

地震保険料控除を申請するにあたって、いくつか気をつけておくべきポイントがありますので、よく理解した上で申請しましょう。地震保険料控除申請時に、注意しておきたい点について紹介していきます。

注意点1. 火災保険料は地震保険料控除の対象外

地震保険料控除の対象となるのは、資産を対象に地震等による損害により生じた損失補てんのために保険金や共済金が支払われる契約のことです。そのため火災保険単独では、地震保険料控除の対象とはなりません。

自分の契約している保険が地震保険料控除の対象なのかわからない人は、契約内容をよく確認しておきましょう。

注意点2. 火災保険に地震保険の特約がついている場合は控除される

地震保険の契約は、火災保険に付帯する方式です。火災保険単独では地震保険料控除の対象とはなりませんが、地震保険に加入することで付帯する地震保険料部分が、地震保険料控除の対象となります。すでに火災保険を契約している場合には、途中からでも地震保険を追加可能です。

自分の契約している保険が地震保険料控除の対象なのかよくわからない人は、契約内容をよく確認しておきましょう。

注意点3. 夫婦共同名義の場合

地震保険は単独名義で加入することが多いですが、夫婦共有名義の不動産に連名で地震保険を掛ける場合など、複数名で契約する場合もあります。

地震保険を夫婦共同名義で契約している場合、夫婦ともに満額の地震保険料控除を受けることはできません。契約している保険会社によっては、分担割合を定めてそれぞれの割合に応じた地震保険料控除を受けることも可能です。

注意点4. 居住用家屋・生活用動産への地震保険契約が控除の対象となる

地震保険料控除の対象となるのは、下記の内容です。

  • 自分や自己と生計をともにする配偶者や子どもなどの親族が所有しており住居用として使用している家屋
  • 生活に通常必要な家具・じゅう器・衣服などの生活用動産

あくまで居住用の建物が対象であり、自営業で使っている店舗など、営業用の家や動産は非対象です。住居と店舗が混ざっている場合は、使用割合に応じて按分しましょう。特に個人事業主や経営者は、混同しないよう気をつけてください。

注意点5. 一括払いした場合は年割りの金額が控除対象

数年分の地震保険料を一括で支払った場合でも、支払った年に全額が地震保険料控除の対象となるわけではありません。1年分が按分されて控除の対象となります。計算式は下記の通りです。

1年分の地震保険料=一括払保険料÷保険期間(年)

一度にまとめて控除を受けることはできませんが、契約が続いている年ならずっと控除の対象となります。毎年控除証明書を郵送してくれる会社も多いので、証明書の内容をよく確認して、地震保険料控除の申請をしてください。

注意点6. 過去の申告漏れは確定申告で5年間さかのぼって申告できる

会社員が地震保険料控除を受ける場合、通常は年末調整で手続きが完結しますので、確定申告を行う必要がありません。しかし、年末調整で申告を忘れていた場合には、確定申告で手続きできます。

会社員など確定申告の必要がない人の還付申告は、還付申告をする年の翌年1月1日から5年間申告可能です。うっかり年末調整で手続きを忘れていた場合には、確定申告で手続きを行ってください。

  • 地震保険料控除申請時の注意点

    地震保険料控除申請時には、保険の内容や名義など注意すべき点が多いです

参照 :
国税庁「No.1146 地震保険料控除の対象となる保険契約
財務省「地震保険制度の概要
国税庁「No.1145 地震保険料控除
国税庁「法第77条《地震保険料控除》関係
国税庁「確定申告期に多いお問合せ事項Q&A

地震保険料控除と一緒に申告しておきたいその他の控除

できるだけ所得税の負担を少なく済ませるためには、所得控除を受けられる他の控除もぜひ活用したいもの。そこで、地震保険料控除を行う場合に、一緒に申告しておきたい控除として、生命保険料控除と社会保険料控除を紹介していきます。

生命保険料控除とは

生命保険料控除とは、納税者が生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料などを支払った場合に受けられる、一定金額の所得控除のことです。対象の生命保険を平成24年1月1日以後に締結した「新契約」なのか平成23年12月31日以前に締結した「旧契約」なのかで、分類や控除額などの取り扱いが異なる点には注意しましょう。

生命保険料控除の種類

生命保険料控除の種類は、新契約の場合と旧契約の場合とで異なります。

新契約 新契約に基づく新生命保険料控除
介護医療保険料控除
新個人年金保険料控除
旧契約 旧契約に基づく旧生命保険料控除
旧個人年金保険料控除

項目ごとに控除枠が別々に設定されており、それぞれ控除を受けられます。

生命保険料控除の金額

生命保険料控除の金額は、契約内容や時期、保険料などで異なるので、項目ごとに算出しましょう。新契約の場合、新契約に基づく新生命保険料・介護医療保険料・新個人年金保険料の控除額がそれぞれ下記の計算式で算出できます。

年間の支払保険料等 控除額
2万円以下 支払保険料等の全額
2万円超~4万円以下 支払保険料等×1/2+1万円
4万円超~8万円以下 支払保険料等×1/4+2万円
8万円超 一律4万円

それぞれ4万円ずつ控除されるので、合計で最高12万円控除されることになります。

旧契約の場合の、旧契約に基づく旧生命保険料と旧個人年金保険料の控除額は下記の計算式で算出できます。

年間の支払保険料等 控除額
2万5,000円以下 支払保険料等の全額
2万5,000円超~5万円以下 支払保険料等×1/2+1万2,500円
5万円超~10万円以下 支払保険料等×1/4+2万5,000円
10万円超 一律5万円

旧契約の場合には、医療保険や介護保険の保険料も旧生命保険料に含まれている点を押さえておきましょう。

社会保険料控除とは

社会保険料控除とは、自分や生計を一にする配偶者・親族などが負担すべき社会保険料を支払った場合に、所得控除を受けられる制度です。その年に実際に負担した社会保険料全額が控除の対象となります。

社会保険料控除の種類

社会保険料控除の対象となる社会保険料は幅広く、下記のような種類があります。

  • 健康保険料
  • 国民年金・厚生年金・農業者年金保険料
  • 船員保険料
  • 国民健康保険料
  • 後期高齢者医療制度など高齢者の医療の確保に関する保険料
  • 介護保険料
  • 労働保険料(雇用保険)
  • 国民年金基金掛金・厚生年金基金掛金
  • 公務員共済掛金
  • 労災の保険料
  • 地方公共団体互助会掛金……など

日々の負担が大きい費用も、全額が所得控除の対象となるのは助かります。

手続き方法は地震保険料控除と同じ

生命保険料控除も社会保険料控除も、申告の方法は地震保険料控除と同じです。会社員の場合は年末調整で「給与所得者の保険料控除申告書」に記入し証明書を添付して提出しますが、社会保険料については給与から天引きされた保険料以外で支払った保険料があれば記載しましょう。

たとえば年の途中で就職をして、それまでは国民年金保険料を支払っていた場合などが該当します。確定申告の場合は「保険料控除」および「社会保険料控除」欄へ記入して申請することで控除を受けられます。証明書が必要な場合とそうでない場合とがある点に注意しましょう。

給与所得者の保険料控除申告書は年末最終給料日まで、確定申告は3月中旬(令和3年は2月16日から3月15日まで)と、どちらも提出期限があります。給与所得者の保険料控除申告書の提出期限は、会社によっては11月末頃とされていることも多いです。遅れないように手続きを行いましょう。

  • 地震保険料控除と一緒に申告しておきたいその他の控除

    地震保険料控除の手続きとともに、生命保険料控除や社会保険料控除の手続きも忘れないようにしましょう

参照 :
国税庁「給与所得者の保険料控除の申告
国税庁「No.1140 生命保険料控除
国税庁「No.1130 社会保険料控除
e-Gov法令検索「高齢者の医療の確保に関する法律(昭和五十七年法律第八十号)

地震保険料控除を忘れずに申告して節税につなげましょう

できるだけ節税するためには、地震保険料控除もぜひ活用したいもの。地震保険料控除は火災保険に地震保険が付帯している場合に利用できる控除で、最高5万円の控除を受けられます。基本的に火災保険単独では地震保険料控除を受けられませんが、気付いていないだけで地震保険もついていることもありますので、保険会社に確認してみましょう。

また、平成18年以前に契約した旧長期損害保険料を支払っている場合は、旧長期損害保険に係る経過措置として地震保険料控除の対象になることもありますが、上限額などが異なります。

社会保険料や生命保険料の控除手続きをもれなく行ったとしても、地震保険料控除については、つい見落としがちな人も多いです。年末調整や確定申告など、社会保険料控除・生命保険料控除と同じ手続きの中で行えます。忘れずに手続きしましょう。