俳優の吉谷彩子と井之脇海がW主演を務める、ドラマ『ハルとアオのお弁当箱』(毎週月曜24:00〜)が現在BSテレ東で放送されている。まちた氏による同名コミックを実写化した同作は、服や化粧よりもゲームやアニメのためにお金と時間を使いたいオタク女子・ハル(吉谷)と、ジェンダーレス男子のアオ(井之脇)がひょんなことから同居することになり、互いに弁当を作り合う様子を描く。

世間の目に落ち込んだり、自分に自信がなくなったり、少しの生きづらさを抱える2人が、お弁当の交換をすることで心の交流をしていく、ほっこりした作品となっている同作。今回は吉谷と井之脇にインタビューし、役作りや作品のメッセージについて話を聞いた。

  • ドラマ『ハルとアオのお弁当箱』に出演する井之脇海、吉谷彩子

    ドラマ『ハルとアオのお弁当箱』に出演する井之脇海、吉谷彩子

■兄がオタクで先生だった

――吉谷さんがオタク女子、井之脇さんがジェンダーレス男子を演じていますが、役作りについて参考にされたことはありましたか?

吉谷:私はオタク女子というキャラクターをいまいちつかめていなくて、でも私の兄が、すっごくオタクなんですよ! 部屋にもフィギュアがたくさんあって、ポスターも貼ってあるので、お兄ちゃんに「どういう気持ち?」と聞きました。本当にアニメや漫画が好きなので、そんな兄と一緒に1話を観た時に「ちゃんと、オタクの気持ちがわかってる」と言ってもらえたのがすごく嬉しかったです。

――あまりオタク気質ではない感じなんですか?

吉谷:映画とかは好きですけど、ものを集めるといったことが全然ないんです。でも、ハルちゃんは熱量がすごいんですよ。しゃべりだしたら止まらなくて、今回台詞の中でかなりアニメやフィギュアについてわーっと語るんですけど、実際に兄が語る時の熱量を見て勉強になりました。先生です!

――井之脇さんも身近な方にお話を聞いたとのことでしたが、どういうところを参考にされたんでしょうか?

井之脇:アオさんのような考えの友人や、スタッフさんに紹介していただいた方にお話を聞いた際に、社会で生きてきて窮屈さを感じるという話をされていたのを、参考にさせてもらいました。なかなか打ち明けづらい悩みの一つだと思いますし、アオさんは原作でもお母さんと少し溝があります。お話を聞いた時に、やっぱり親にカミングアウトした時に、受け入れてはくれたけど、何気ない「まさかあんたがそうなるとはね」という一言があって、向こうに悪気はないけど、心に残っているとおっしゃっていて。アオさんともリンクするところがあるなと思って、演じる時もいつも頭の中に置いています。

――今回お二人は同居するという設定ですが、いろいろな前提をとっぱらって、本当に同居するとしたらうまくいくと思いますか?

吉谷:いやでも……(井之脇は)細かいですからね〜。

井之脇:悪口はやめて下さい(笑)。

吉谷:私は全然同居できますよ! 何も考えてないので、そのまま勝手に生きてる感じです。

井之脇:僕も、吉谷さんとはできると思います。「細かい」と言われたんですけど、なんでも「僕がやるからいいよ」と言うタイプなので。

吉谷:めっちゃいいね!

井之脇:「何も考えてない」というくらいの方が、一緒に住めると思います。ドラマの2人に近い関係かもしれないです。

吉谷:私は、料理だったら担当できます。

井之脇:皿洗いは僕がするので!

吉谷:それいい! 私、皿洗いが嫌いなんです(笑)。

――家族じゃない人との同居というのは、いかがでしょうか?

吉谷:親友と同居したことあります。なんでも話せる女の子の大親友だったので、1回もケンカにはならなかったです。誰かがいるって、すごく安心するなと思います。

――ケンカにならなかった同居のコツは?

吉谷:互いが互いのことを考えながら生きるということだと思います。細かいことで言うと、トイレットペーパーを使い切って、芯のままにしてたりすると、なんで次使うのに交換しないの! と思うんですけど、そういうところをちゃんとしてくれたりとか。「これをやったら助かるんだろうな」とか、「気がついたらありがとうって言う」とか、相手を思いながら生活することでうまく行きました。

――今回のハルとアオは同居することで人生の転機を迎えますが、お二人にとってこれまでに転機はありましたか?

井之脇:僕は高校生の頃に実家を離れて祖母と2人で住んでいたんですけど、それはすごく転機でした。おばあちゃんと高校生って生活リズムが違うから、「今まですごく親に助けられていたんだな」ということにも気付いて、いろんな方にそれぞれの苦労があるんだと考えるようになりました。自分を見つめ直す機会になるというか。今は一人暮らしをしてるんですけど、一人だと家で自由じゃないですか。祖母は肉親ですけど、親じゃない人と暮らした時に初めてわかることがたくさんあって、今も自分の中に活きていると思います。

吉谷:私はもともと子役として活動していて、途中で辞めて、動物が大好きで理系の道に進んだのですが、高校の数学の先生に「今の人生、ここで決めるのはもったいないから、日芸(日本大学芸術学部)に行ったら?」と言われたんです。ダメ元で試験を受けたら合格したので、「これはきっと、何かあるぞ。もう1度、役者を目指してみようかな」と思いました。それから今の事務所に入り、また新しくスタートを切ったので、そこが転機かな。その先生がいなかったら、芸能活動もやってないと思うので、もう1度背中を押してくれた方です。

――それでは、最後に視聴者にメッセージをいただけたら。

吉谷:いろいろなグルメのドラマがあると思いますが、今回はお弁当を題材にしていてて、人と人の気持ちの交換日記みたいなところがあると思います。私が好きなシーンで、ハルちゃんが「お弁当作ってる時とお弁当箱が空で帰ってきた時、2回嬉しいね」というところがあるんですが、本当にそう。今こういう時期ですし、あったかいドラマが必要だなって思ってるので、ほっこりとした作品を届けていきたいです。

井之脇:撮影しながら、お弁当を作るということは、本当に相手のことを考えた行為だなと思いました。「何を入れたら相手が喜んでくれるのかな」と考えることは、今、僕たちが求めてることのような気がしていて。誰かが自分のことを思ってくれたり、「見てるよ」と言ってくれることで届く思いがある。よく「小さな幸せ」という言葉を使っているんですけど、本当にこのドラマを見ていただいた方にそういったものが届く作品になるようにみんなで頑張っています。

■吉谷彩子
1991年9月26日生まれ、千葉県出身。幼少期より子役として活躍し、大学入学を気に芸能活動を本格化。2010年には映画『TENBATSU』で初主演を務める。主な出演作にドラマ『陸王』(17年)、『グランメゾン東京』(19年)、『SUITS season2』(20年)、映画『君に届け』(10年)、『イニシエーション・ラブ』(15年)、『七つの会議』(19年)など。

■井之脇海
1995年11月24日、神奈川県出身。大河ドラマ『おんな城主 直虎』(17年)、『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(19年)、連続テレビ小説『ひよっこ』(17年)などで注目を集める。主な出演作にドラマ『義母と娘のブルース』(18年)、『教場』『伝説のお母さん』『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』(20年)、映画『あゝ、荒野前編』(17年)、『ザ・ファブル』(19年)など。公開待機作に『サイレント・トーキョー』(12月4日公開)、『ザ・ファブル 第二章』(2021年2月5日公開)、『砕け散るところを見せてあげる』(2021年4月9日公開)がある。

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