BATHとは、中国を代表する有名なIT企業であるBaidu(バイドゥ)・Alibaba(アリババ)・Tencent(テンセント)・Huawei(ファーウェイ)の頭文字をとったものです。読み方は「バース」。
IT系の会社の中でも、アメリカのGAFA(ガーファ)に迫る勢いのある中国のBATH。本記事では、BATHを構成する4社の説明から始め、BATHと一緒に知っておきたいGAFAとFAANG(ファング)の説明、およびBATHが成長し続ける理由の説明を行います。
IT企業についてあまり知らない人でも、読むことで知識をつけられる内容です。社会人なら知っておいて損がないビジネスに関する豆知識ですので、ぜひ読んでみてください。
BATHを構成する4社を紹介
BATHを構成する4社の中には、日本で製品やサービスを販売している会社もあるため、聞いたことがある人も多いでしょう。特に「ファーウェイ」は昨今の米中貿易摩擦関連のニュースで頻繁に取り上げられていますが、中にはあまり日本国内では有名ではない企業もあります。以下、4社の概要を紹介します。
Baidu(百度、バイドゥ)
バイドゥは、中国を代表する大企業のひとつです。本社は中国の首都北京にありますが、深センにも進出しています。
主なサービスは検索や地図プラットフォームなどと、Googleと似たようなサービス展開です。日本でも検索サービスの事業が過去に進出していましたが、現在サービスは終了しています。中国国内でのシェアが大きく、中国国内では、地図はGoogle MAPよりも百度地図の方がくわしく掲載されています。
人口の多い中国で高いシェアを誇るサービスが多いことから、よく知られているIT企業です。
Alibaba(阿里巴巴、アリババ)
アリババは、中国最大手のECサイトを経営する会社。2020年10月現在、世界時価総額ランキングで6位と、中国の会社の中では一番高い評価をもちます。
中国でよく使われる電子決済のひとつであるAlipay(アリペイ)やクラウドサービスなども展開しており、生活に密接するサービスを提供しています。
本社は浙江省杭州市(せっこうしょう・こうしゅうし)。株式はニューヨーク市場にも上場しているなど、世界中でサービスを展開している会社です。
Tencent(騰訊、テンセント)
テンセントとは中国を代表するSNSであるWeChat(ウィーチャット)を展開するIT企業です。
中国の3大電子決済のひとつであるWeChatPay(ウィーチャットペイ)もテンセントが展開しており、普段の買い物などの比較的少額な支払いではよく使われています。
本社は広東省深セン市。PCゲームやスマホゲームなどのオンラインゲームにも力を入れており、世界最大級のゲーム会社のひとつです。ハリウッドの映画製作にも進出するなど、エンターテインメント関連事業に幅広く進出しています。
Huawei(華為、ファーウェイ)
ファーウェイは、深セン市に本社があるIT企業。もともとはプロバイダでしたが、現在はスマートフォン本体の販売でよく知られており、日本の携帯電話会社でも採用されています。
タブレットやスマートウォッチなども販売しており、競合他社に比べて低価格で手に入れられることから人気を集めています。しかし、2020年にはアメリカ政府による安全保障上の脅威に関する規制対象となったことから、先行きは不透明です。
BATHの時価総額
時価総額とは、ある上場企業のある時点の企業株価に発行済株式数を掛けて算出した数値です。株価は現在の企業の業績だけでなく、将来への期待という要素も含むだけに、時価総額はその企業の相対的な実力を数値化したものと言えるでしょう。
ではBATHの時価総額はいくらになるでしょうか? 2020年11月末時点の世界時価総額ランキングでは、アリババとテンセントが共に7,000億ドル超の時価総額となっており、他の2社に圧倒的な差をつけています。BATHとしての時価総額は1兆6,000億ドルを超えており、その企業規模の大きさがうかがえます。
BATHと比較されがちな「GAFA」とは?
BATHは急成長を続ける中国の企業群とあって、アメリカのGAFAと比較されることが多いです。GAFAとは、アメリカの消費者向け大手IT事業者のことで、Google、Apple、Facebook、Amazonの4社のことで、BATHと同じように頭文字をとって「GAFA」と呼ばれています。以下、4社の概要を紹介します。
Google(グーグル)
Googleは、言わずと知れたアメリカの大手IT企業のひとつです。Web検索エンジンで知られていますが、Webブラウザや地図アプリ、オンラインストレージや広告サービス、Google Appsなど多くのインターネット上でのサービスを展開しています。
また、スマートフォン用OSであるAndroidを提供しているのもGoogleです。スマートスピーカーやノートパソコンなど機器の製造も手がけており、製品の幅がどんどん広がっています。
Apple(アップル)
Appleもアメリカの大手IT企業のひとつ。2020年10月現在、時価総額ランキングでは世界で1位です。
PCやiPad、iPhoneなどの電子機器や、独自のOS開発でよく知られています。シンプルさを追求した機器が多く、デザイン性も機能性も抜群であることから、世界中で愛されているブランドです。独自のソフトウェアやアプリも手がけており、OSとの相性を気にせずに使えると人気があります。
また、iTunesやiCloud、Apple TVなどのクラウドサービスにも力を入れており、発展し続けている企業です。
Facebook(フェイスブック)
Facebookは、世界最大級のSNS「Facebook」「Instagram(インスタグラム)」を運営する企業です。Facebookは世界中で月間アクティブユーザー22億人以上を誇り、世界中の人と交流ができます。
創業者のマーク・ザッカーバーグ氏が、米・ハーバード大学在学中の2004年に運営を開始しました。
Amazon(アマゾン)
アマゾンは、世界最大級のネット通販サイトを手がける企業。創業当時は書籍の販売サイトでしたが、現在では「アマゾンで買えないものはない」と言われるまでに、扱う商品の幅を広げました。
データセンタ事業にも力を入れており、サーバーやストレージなどを貸し出すことで収益を得ています。
GAFAMとは、GAFA + Microsoft
GAFAMとは、GAFAの4社にMicrosoft(マイクロソフト)を加えた5社のことです。読み方は「ガーファム」。
もっと詳しく : 「GAFAM」って何? いまさら聞けないビジネス用語
FAANGとは、GAFA + Netflix
FAANGとは、GAFAの4社にNetflix(ネットフリックス)を加えた5社のことです。読み方は「ファング」。
BATHが成長し続けている背景
躍進を続けているBATHですが、成長にはいくつかの理由があります。ここでは、BATHがなぜ成長し続けているのかを紹介していきます。
「アジアのシリコンバレー」こと、経済特区・深センに拠点を持つ
BATHの本社所在地は、バイドゥは北京、アリババは浙江省、テンセントとファーウェイは深センとそれぞれ異なりますが、すべての会社の大きな拠点が中国・深セン市に集まっています。
深セン市は中国南部にある地域で、中国の広東省にある深セン市は、1980年に中国初の経済特区に制定されました。海沿いにあり、海のすぐ向こう側に香港がある、貿易に利便性の高い立地であったことが、指定された理由です。
製造業を軸にどんどん発展していった深センは、大量生産だけでなく小ロットでの生産も得意なことが特徴です。スタートアップ企業が新しい製品をつくり出そうとするときに、小ロットかつ複雑な注文にも臨機応変に対応することで、新しい製品がどんどん生まれ、「アジアのシリコンバレー」と呼ばれるまでに成長していきました。
独自のサービスや技術を開発
深センでは、はじめは他国の後追いで商品や技術を開発してきましたが、経済特区に指定されたことをきっかけに、大小たくさんの企業が集まるようになり、徐々に世界に追いついてきました。
世界中のメーカーが集まり、さらに日々切磋琢磨することで、だんだんと独自のサービスや技術を開発できるようになり、現在に至ります。
社員間での競争が激しい
深センにはBATHをはじめとする大企業が集まっており、中国の有名大学を卒業した優秀な人材が集まっています。社員間での競争も熾烈を極めており、四六時中いいアイデアを出せるよう切磋琢磨しあっている状況です。
社員同士のいい意味での激しい競争から、よりよいサービスや技術が生まれやすくなっています。
企業間の交流が活発に行われている
BATHのうちバイドゥ、アリババ、テンセントの3社は、深セン市政府が主導して開発された「ソフトウェアパーク」のエリア内にあります。いずれも徒歩圏内にあり、さかんに交流が行われています。
ソフトウェアパークの中には、「スタートアップカフェ」と呼ばれる、プレゼンテーションスペースが併設されたカフェが複数あり、盛んにイベントが開催されています。昼夜ともにイベントが行われることから、企業外での発信や交流を行いやすく、新しいアイデアが生まれやすくなっています。
研究開発の拠点へ転換を目指している
深センはまだまだ産業が発展した歴史が、上海や北京などの大都市に比べるとまだまだ浅いです。しかし、深セン大学の教育に力を入れたり、各地の名門大学や研究機関との提携を強化したりすることで、いい人材を採用できるよう注力しています。
北京大学と清華大学の大学院の誘致や「中国科学院深セン先進技術研究院」「国家スーパーコンピュータ深センセンター」の設立など、研究機関の拠点へ転換しつつあります。
スピード重視で挑戦し続けることでの競争力アップ
新しい製品をつくり出す場合、日本の製造業では正確さが重視されるので、試作品をつくるには数週間から数カ月かかることもあります。深センでは正確さよりもスピード感が重視されるので、数日で試作品をつくることも可能です。「時は金、効率は命」というスローガンもあり、時間を無駄にせずにスピード重視で挑戦できる環境が整っています。
他地区からの人材を受け入れやすい環境
深センでは、他の地区から引っ越してきた人が疎外されることはありません。「来了、就是深セン人」という言葉があり、深センに来た人はみな「深セン人」として扱われます。学校やもともと住んでいた地域がどこであれ、現在深センにいるなら深セン人として受け入れられる環境が、より多くの人を集める要因となっています。
革新を推奨して失敗に寛容な環境
深センには「鼓励創新,寛容失敗」というスローガンがあります。真の実力があるから革新を奨励でき、失敗に対しては寛容になれるという意味です。革新をすすめて、失敗に厳しくないことは、競争を促進して新しい技術が生まれやすい環境の土台となっています。
深セン市がかかげる「10大スローガン」の存在
深センでどんどん新しい技術が生まれる理由には、10大スローガンの存在が大きいです。スローガンは工業区で提起されたものや会議で提起されたものなどさまざま。いずれも深センの方向性を物語る内容ばかりです。
深セン市の10大スローガンを日本語であらわすと下記のような内容となります。
- 時は金なり、効率を命として行動する
- 机上の空論は国を危機に陥れ、実行することが国を繁栄させる
- あえて天下の先となる=先頭に立つことが重要だ
- 改革・革新は深センの根であり魂である
- 深センは読書好き・勉学熱心なことで知られる都市
- 革新を奨励して、失敗に寛容である
- 文化的権利を実現する
- バラを贈れば手に香りが残る=人にいいことをすれば気持ちいい
- 深センと世界には距離がない=世界レベルの都市である
- 深センに来たら深セン人
このようなスローガンをかかげることで、深セン全体で技術革新に向かって向上しやすい環境となっています。
BATHの人材エコシステム
日本では一度就職したら定年まで働く終身雇用制を導入している会社はまだまだ多いですが、BATHの拠点がある深センではそのようなことはありません。挑戦をよしとする地域柄もあり、人材の行き来がさかんに行われています。
深センではフォーラムやイベントが頻繁に開催されている
深センで開催されているフォーラムやイベントは、新しい会社が生まれるきっかけになっています。イベントのひとつである事業プラン発表会では、BATH出身の人が多く登壇し、新しい事業のきっかけになることも多いです。
いま会社に勤めている人でも、深センにいることで起業のチャンスが多いことから、長く会社に勤めることよりも起業を行うことで、人材が流動しやすくなっています。
深センにスタートアップカフェが数多く存在
深センにはスタートアップカフェが数多くあり、利用のハードルが低いです。スタートアップカフェへと意識の高い人が自然に集まり出会うことから、新たなアイデアが誕生しやすく、創業のチャンスにつながっています。中にはBATHが運営しているコワーキングスペースもあるなど、会社もカフェの利用を促進しており、積極的に人材交流しやすい環境です。
BATH出身者が出会って共同創業する機会が多い
BATHをはじめとする深センにある会社には、中国中から優秀な人材がたくさん集まっています。BATHの中の異なる会社に勤めていても、スタートアップカフェなどで優秀な人同士が出会い意気投合してアイデアを出し合うことで、結果的に共同創業することも多いです。
革新的な会社がたくさん生まれやすい環境にある
深センでは、挑戦することをよしとされています。失敗に寛容であるため、失敗を恐れずに済みます。BATHのような大きな会社に一度就職しても会社にとどまることにこだわらないので、転職したり創業したりすることも多いです。
新しいアイデアがあっても挑戦しやすい環境にあることから起業する人も多く、結果的に革新的な会社がどんどん生まれています。
中国の中でもとくに勢いがある企業集団であるBATH。バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイの4社からなっており、アメリカのGAFAに迫る勢いで成長しています。
BATHの成長に大きな影響を与えているのは、中国政府から経済特区に指定された深センの地域柄です。改革を推奨して失敗に寛容であることや、正確さよりもスピード感を大切にすることなどが、現在の発展につながっています。
深センには多数のスタートアップカフェがあることが、BATH内部での人材交流やBATH出身者同士での共同創業がさかんな理由です。カフェにプレゼンテーションスペースがあり、アイデアを発表する機会に恵まれ、資金調達もしやすくなっています。
どんどん革新を続けるBATHには、今後も注目していきましょう。