諭旨解雇という言葉、ニュースなどで聞く機会がありますが具体的にどのようなものなのでしょうか。また退職勧奨や懲戒解雇との違いは何なのでしょうか。この記事では諭旨解雇となった場合の退職金や失業保険についても解説します。
諭旨解雇とは
諭旨解雇の読み方や意味、混同されやすい言葉との違いを見ていきます。
諭旨解雇の意味や読み方
諭旨解雇は「ゆしかいこ」と読みます。諭旨とは「趣旨や理由を言い聞かせること」という意味で、解雇とは「雇用者が一方的に労働者をやめさせること、首にすること」という意味です。
つまり諭旨解雇とは、本人を諭して反省を促し、自ら退職を申し出るようにすることを指します。何らかの違法行為があったときに下される処分です。
なお、諭旨解雇は法律用語ではありません。会社の就業規則によって諭旨解雇の意味付けが違うことを押さえておきましょう。
諭旨解雇は英語で「dismissal」
諭旨解雇を直訳できる英語はありませんが、近い表現は「dismissal」で、解雇を意味します。
諭旨解雇と諭旨退職の違い
諭旨解雇のほかに諭旨退職という言葉もありますが、ほとんどの場合、同じ意味で使われていると捉えてよいでしょう。諭旨解雇が法律用語ではないことから、会社によって呼び方が異なっていると考えられます。最終的には会社の就業規則にどのように規定されているかによります。
諭旨解雇と退職勧奨の違い
諭旨解雇と混同されるものに、退職勧奨があります。解雇が「雇用者が一方的に労働者をやめさせること」であるのに対し、勧奨とは「(辞めることを)すすめること」という意味です。
労働契約が終了するケースは大きく以下の3つに分けられますが、こうすると両者の違いもはっきりしてきます。
【労働契約が終了する3つのケース】
「自己都合」によるもの
転職など、労働者の自由な意思決定によって労働契約が終了することです。「退職勧奨」によるもの
雇用者が労働者に「辞めてほしい」などと退職を勧め、労働者がそれに応じることをいいます。実際に退職するかどうかは労働者の自由意思によります。雇用者の意向を受けて労働者が自由意思により退職する場合には問題ありませんが、自由意思を妨げるように強引な退職勧奨は違法とされる可能性があります。「解雇」によるもの
雇用者が一方的に労働契約を終了させることをいいます。しかし雇用者はいつでも自由に解雇できるわけではありません。「服装がだらしないから」「態度が気に入らないから」などといった理由だけで解雇することはできず、相応の合理的な理由がある場合のみ解雇することができます。
労働契約法第16条では以下のように定められています。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」
諭旨解雇にあたる事例とは
諭旨解雇となるケースには、以下のようなものが考えられます。
- 業務上の立場を利用した不正行為(経理部の社員による横領、営業部の社員による架空取引など)
- 会社の名誉を著しく貶める犯罪行為(強盗、殺人など)
- 長期間にわたる無断欠勤(正当な理由なく長期間無断欠勤をする、出勤命令を拒否し続けるなど)
- 会社の度重なる指導でも改善されず、違反行為を繰り返す
解雇の種類とは
諭旨解雇のように「解雇」が付く言葉には以下のようなものもがあります。処分の軽いものから重いものへ、順番に紹介します。
普通解雇
普通解雇とは、ある理由から労働契約の継続が困難であると判断されたときに下される処分のことです。
- 勤務成績が著しく悪く改善の見込みがない
- 健康上の理由で長期間復帰が見込めない
- 業務に支障をきたすほど著しく協調性に欠けて改善の見込みがない
これらの理由が当てはまります。ただし上長の独断で判断されるようなことはなく、合理的な理由が必要です。
整理解雇
整理解雇とは、会社の業績悪化によりやむなく行う人員整理のことです。「リストラ」とも呼ばれます。解雇の種類の中で、唯一、労働者に責任のない解雇だと言えます。
労働基準法では、整理解雇では次の4点のいずれも満たすことが必要だとしています。
1.整理解雇することに客観的な必要があること
2.解雇を回避するために最大限の努力を行ったこと
3.解雇の対象となる人選の基準、運用が合理的に行われていること
4.労使間で十分に協議を行ったこと
懲戒解雇
懲戒解雇とは、労働者に悪質な不正行為やルール違反が認められた際、「懲戒」のために解雇することです。懲戒とは「こらしめ、いましめること」という意味。懲戒解雇は懲戒処分の中で、最も重い処分です。
諭旨解雇と懲戒解雇の違いとは
諭旨解雇と懲戒解雇は混同されやすい言葉ですが、どちらも懲戒処分とされ、懲戒解雇が最も重い処分、その次に重い処分が諭旨解雇となります。
悪質な不正行為やルール違反があった場合、懲戒解雇では一方的に解雇されますが、諭旨解雇の場合は雇用者の酌量によって話し合いの場がもたれ、両者納得の上で解雇処分がすすめられます。
懲戒解雇では退職金が支払われないことがありますが、諭旨解雇では一部支給されるなど若干優遇されることがあります。
諭旨解雇の補償
諭旨解雇となった場合の補償はどうなっているのでしょうか。詳しくみていきましょう。
諭旨解雇の退職金
退職金制度のある会社の場合、懲戒処分では退職金が減額される、または全く支払われないといった対応がとられます。
個々の事例によってまちまちですが、懲戒解雇のケースには全く支払われないことがあるのに対し、諭旨解雇では自己都合退社と見なされ全額支払われる、あるいは減額して支払われることが多い傾向にあります。問題行動の内容やこれまでの会社への貢献度などが考慮されます。
諭旨解雇の失業保険
諭旨解雇の場合でも、雇用保険に一定期間以上加入していたなら失業保険を受け取ることができます。失業保険の申請手続きには会社が発行する離職票が必要ですが、諭旨解雇の場合でも離職票はもらえます。
諭旨解雇や懲戒解雇は自己都合退職として扱われます。そのほかの場合と支給の開始や支給期間などが変わってくるので、確認しましょう。
諭旨解雇の解雇予告手当
雇用者が労働者を解雇する場合、労働基準法では少なくとも30日以上前から解雇予告をしなげればならないと定められています。解雇予告をせずに解雇する際に支払わなければならいのが解雇予告手当です。諭旨解雇や懲戒解雇の場合も同様に支払われます。
ただし、諭旨解雇や懲戒解雇のような懲戒処分では、労働基準監督署長に認定されると解雇予告をしなくてもよいと判断されることがあります。この場合、解雇予告手当は支払われません。
諭旨解雇から転職する際の注意点
諭旨解雇されてから転職活動を行う場合の注意点とは何でしょうか。
諭旨解雇を履歴書に明記する義務はない
転職活動時の履歴書に、諭旨解雇について書かなければならないという義務はありません。面接においても、こちらから諭旨解雇について先方に伝える義務はありません。
ただし、退職理由などについて詳細に聞かれた場合は正直に答えたほうがよいでしょう。嘘をついてしまうと、後になって経歴偽証罪に問われる可能性もあるためです。
諭旨解雇を伝える義務はないが嘘は禁物
諭旨解雇について解説してきました。諭旨解雇は懲戒解雇と同じ、懲戒処分に当たります。退職金は会社の規定に則って支払われますが、諭旨解雇の場合は減額支給の可能性があります。失業保険は受け取れますので、会社から離職票をもらうようにしましょう。
諭旨解雇されてから転職活動を行う場合、こちらから諭旨解雇について知らせる義務はありません。ただし、面接などで退職理由を詳細に聞かれた場合には、できるだけ正直に話す必要があります。