NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は10月14日から16日にかけて、「NTT Communications Digital Forum 2020」というオンラインイベントを開催した。本記事ではその中から、「テレワークの先にある未来『バーチャルワーキング』」と題するDXセミナーの内容を紹介する。

講演者は、同社プラットフォームサービス本部アプリケーションサービス部主査の津田勇気氏。同セミナーでは、同社が新たに掲げた「Digital Twin Working Platform」という概念の紹介と、それが今後ビジネスをどのように変えていくのかについて語られた。

  • 講演者の津田勇気氏

    講演者の津田勇気氏

テレワークの現状

2014年からxR領域に関する事業に携わっているという津田氏は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で社会情勢が変化してxRの技術が求められる状況が進み、多くの企業から多様な依頼を受けていると、現状を説明する。

同社ではVR(仮想現実)やAR(拡張現実)を用い、離れた場所にいる人たちが同じものを見ながら多様な作業をする仕組みについてさまざまな支援をしてきたが、Digital Twin Working Platformという概念は、その先に少し進んだものだという。

その概念の解説に先立ち、津田氏はテレワークの現状について、パーソナル綜合研究所の調査結果を引き合いに出した。

テレワークの実施状況は、緊急事態宣言の解除によりやや減少したが、2020年6月の時点では2月と比べて10ポイント以上上回る35.2%だったという。

  • コロナ禍におけるテレワークの現状

同調査ではテレワークにおける課題も調べており、津田氏はその中でも「テレワークでできない仕事がある」や「仕事に適した机や椅子がない」などの6点に、「すごくわかりやすい課題がある」という。

作業環境に関しては「通常のオフィスにいる時と少し違う環境があるので仕事がしにくいという点はあると思う」(津田氏)と指摘する一方で、「チームに一体感が感じられない」という課題について、「組織やチームの一体感を、フェイス・トゥ・フェイスになっていないため感じづらいと思う方が増えている」と津田氏は見る。

  • テレワークにおける課題

仕事のバーチャル化による解決

現在のリモートワークはリアル+テレワークの組み合わせになっているという津田氏は、その課題解決として、仕事のバーチャル化を考えているという。

これは、現状リアルの部分をバーチャルに変えて、バーチャルの3D空間の中で全ての仕事をできるようにしようという、Digital Twin Working Platformの概念だ。その手法として、「Virtual Office」と「Virtual Working Tools」の2つを津田氏は挙げる。

  • 仕事のバーチャル化による解決

Virtual Office、すなわちバーチャル空間で実現する新世代の職場環境とは、リアルの世界とバーチャルの世界が同時に存在する状況だ。

これは、リアルの作業空間とほぼ同じ空間をCGなどの技術でバーチャルに作成し、リアルと同一のメンバーを3Dアバター化するというもの。このリアルとバーチャルの空間は相互作用しているため、いずれかで仕事をするともう一方にはそのデータが無いという形では無く、どちらでも仕事ができるようにするという概念だと、津田氏は解説する。

  • バーチャル空間で実現する新世代職場環境

「遠隔でも変わらない作業空間が提供されますし、メンバーも遠隔で変わらないので、『バーチャルで仕事してもいいじゃないか』という状況が、今までのテレワークよりも強くなることを目指しています」(津田氏)。

将来的にはVRやMRのデバイスの使用を想定しているものの、現状では普及率が高くはないため、当面はPCやスマートフォンなどを使用することになるとのことだ。

NTT Comが手掛けてきたxRビジネス

続いて津田氏は、同社が手掛けてきたxRビジネスを紹介する。

同社はVRやARを使用するソリューション多く手掛けており、例えば、イベント用のVRコンテンツの提供や、現在ニーズが非常に多いという研修・教育用のVR、またテレイグジスタンスというAR技術を使用した、コロナ禍に対応する受付システムなどを提供しているという。これらのソリューション提供により、同社はxRビジネスの知見を多く持つとのことで、「とりわけ、研修・教育用のVRに関する知見が貯まっています」と津田氏は語った。

  • NTT ComのxRビジネス

その同社の課題解決策は、オフィスと同じ環境をデジタルで再現し、その中で仕事をすれば、リアルとバーチャルの差が無くなるという考え方が基になっているという。

津田氏は、テレワークではオフィスコミュニケーションが少なくなるため、一人で考えていてもいい案が出にくい、また一体感を感じられず孤独だという問題が生じやすいとの課題を指摘する。

バーチャル空間でオフィスと同様の空間を実現すると、オフィスコミュニケーションの欠如による発想力不足が解決し、また、ブレイクタイムでの雑談や休憩時に同じゲームを楽しむなどして、団結力が向上すると津田氏は語る。

その目標を津田氏は、「リアルはそのままちゃんと実現しつつも、もっといいものを作るというところを目指しています」と紹介した。

  • バーチャルオフィス

バーチャルワーキングツール

続いて話題は、バーチャルワーキングツールに移る。これは、リモートでオフィスコミュニケーションを実現した場合、そこからアイディアや仕事が生まれた際にどのようなツールが必要かを同社が考え、着手したものだという。

その1番目のVirtual Conferenceは、現在さまざまな会議ツールが広く使われている。

2番目のVirtual Eventについて、津田氏はユーザー企業各社から課題を聞き、ニーズを受けていると語る。イベントをリアルな空間で開けない状況が続く中で、「よりリアルに近い状況でイベントを開催できる、この3D空間のプラットフォームを作ろうと思っています」(津田氏)という。

3番目のVirtual Trainingは、同社が既に得意としている領域とのことだ。これはバーチャルな空間でのトレーニングであり、従来は現地へ出向いて実施していた研修や訓練がバーチャル空間の中で完結するもので、津田氏は「リアルでもバーチャルでも同じ経験ができるので、それでいいと思っています」と語る。

4番目のVirtual Storeは、バーチャル空間に設けた店舗だ。ストアやショッピングモールをバーチャル空間に構築し、従来の商慣習を表現して商品を購入可能なプラットフォームを検討しているという。

  • バーチャルワーキングツール

バーチャルオフィスにこれらのバーチャルワーキングツールを組み合わせることで、より多くの仕事や作業を在宅しながらバーチャル空間の中で、従来のオフィスでの業務と遜色なくできるようにしたいと考えているとのことだ。

「これでも足りないものがたくさんあると思います。もっと作っていき、ほとんどの方をテレワークできる状況にしたいというのが私どもの望みであり、1つずつ作っているところです」と津田氏は語った。

仮想空間における行動履歴

リアルとテレワークでの仕事の環境を同じにするだけでは、デジタルを生かした感じが無いと指摘する津田氏は、仮想空間における行動履歴について解説する。

これは、3Dのバーチャル空間で実際に使うことで変わるものとのことだ。従来も行動ログは記録できたが、今後はVRやMRのゴーグルを装着して作業するため、リアルのイベントよりも詳細に記録でき、また視線のログも取得できるため、従来とは異なるマーケティングデータとしての活用方法を見出すことができるという。

  • 仮想空間における行動履歴

津田氏はその価値を、「より顧客を理解し、実際に働いている従業員を理解し、どういうことが向いているか、どういうものを提供すればいいかというのがわかっていきます」と紹介した。

バーチャル空間でのイベント

津田氏によると、同社のxRビジネスの中で最初に着手したのは、バーチャル空間でのイベントだという。その理由は、イベントを開けずに困っている開催者が多いためだとのこと。

リアルのイベントの場合、遠方での開催であれば平日には参加しづらく、週末であっても旅費を使って出掛ける価値があるかなどの判断から、参加をためらっていた場合があるのではないかと津田氏は指摘する。

イベントをバーチャル空間で開催できれば、VRゴーグルの装着により、場所や時間の制約を受けず、現実と同じ感覚で参加できると津田氏は語る。

さらに、現在のコロナ禍の状況下では、バーチャル空間でのイベントでは感染リスクを抑えることも可能であり、リアルでは開催が難しい数千人や数万人規模のイベントも開催できるという。

  • バーチャル空間でのイベントのメリット

津田氏によると、バーチャルイベントプラットフォームは2021年度の第1四半期頃の提供を考えているとのことだ。

その際、映像のクオリティは少なくとも最低限許容される範囲で担保し、操作性についてはゲームなどに慣れていない初心者でもすぐに利用できることにこだわっていくという。 実現のために、パートナー企業と協力しつつ開発を進め、しっかりとしたイベントプラットフォームを提供しようとしていると津田氏は語る。

  • バーチャル化の価値提供におけるこだわり

xRビジネスにおける独自色

xRビジネスにおける同社の独自色として、津田氏はAI(人工知能)エンジン、コミュニケーションエンジン、新体験講演の3点を挙げる。

AIエンジンは「COTOHA」、コミュニケーションエンジンはWeb RTCの「SkyWay」を使っていくという。

新体験講演は、2019年に開催したNTT Communications Digital Forum 2019において、野村万作氏の狂言を、VRゴーグルを装着すれば場所を問わず3Dで見られるという展示を実際に行ったとのことだ。

  • NTT Comの独自色

津田氏によると、同社では比較的早期からテレワークが普及しており、コロナ禍以前でも週に2度ほどはテレワークを実施していたという。コロナ禍を機に、3月から一般にもテレワークが浸透し始めたものの、未解決の課題を残したままテレワークが進んでいると津田氏は語る。

製造業を例に取り、設計した物を実際に見ることができないままで本当にテレワークが可能なのかと疑問を呈す。

テレワークはリアルのオフィスと比べてデメリットがあるかも知れないが、今後はデメリットの無い完全なテレワーク、同社ではバーチャルワークと呼ぶスタイルに変革していきたいと考えているという。

  • コロナ禍を起点とする新たな仕事のスタイル

実現に向けたステップとしては、まず手始めにバーチャルイベントプラットフォームを提供し、続いて、求められるものを早めに作るとのこと。会議や研修などが考えられるが、津田氏は研修のニーズが非常に多いため、研修を先に作ることになるのではと見ている。

バーチャルイベントプラットフォーム、ワーキングツール、デジタルワーキングプラットフォームを全て提供することによって、1つのバーチャル空間の中に入るとコミュニケーションも仕事も全部可能という、同社がデジタルツインワーキングプラットフォームと呼んでいる空間を実現することで、バーチャルワーキングの概念を達成しようと考えていると津田氏は語った。

しかしながら、同社の力だけでは難しい部分もあるという津田氏は、「一緒にこちらを構築していってくださるパートナーの企業の方々を募集しています」と呼びかけて講演を締めくくった。