●「ライブ配信」ならではの課題と怖さ

――これからの公演も楽しみです。そんな中ではありますが、今回のライブ配信を経て、来年以降の『AD-LIVE』もオンライン上での展開をやっていこうと思いましたか?

もし来年もやれるのであれば、この事態が収束していることを願っています。やっぱり、演劇っていうのをまたやりたい。「ステージを目の前で見たい」という声も多かったですからね。だから、次回はお客さんを入れた舞台劇をベースに考えたいと思っています。

今回、配信という形が実現したので、「両方やれば?」という意見も恐らく出てくるでしょう。しかしながら、『AD-LIVE 2020』の配信のクオリティを保ちつつ、お客さんを入れた状態の舞台劇もやるのは、残念ながら無理です。

――先ほどカメラワークのお話がありましたが、ただカメラを置いて配信すればいいということではないと『AD-LIVE 2020』を見ていて感じました。

そうですね。今回は、求めているカメラワークを技術的に叶えられる方々にお願いできたというのも大きいです。反対に言えば、今回のような映像を撮るためには、それだけ人手も、その映像を撮ることを考えられる脳みそを持つカメラマンの方も必要ということ。

つまりは、ものすごく人件費がかかるんです。技術的なものを高めようとすると、どうしても予算や人手が必要なんですよね。コストに対する売上をどうやって立てるか、よりシビアに考えなければいけません。

――今回のようにクオリティの高いものを作るには、それなりのコストも必要となってくる。

そうなったときに、配信には課題があるんです。通常の舞台であれば、チケッティングを先にやって、席数分だけチケットを売ります。つまり上限があるから、売上の見込みが立ちやすいんですよね。一方の配信はというと、前もってチケットを買ってくれる人が少ないので見込みが立てづらく、最終的に赤字という結果を招く恐れがあるんです。

皆さん、配信の場合は当日にチケットを買うんですよね。これは決して、責めている訳ではありません。何せ、僕もそうですから。自分が興味のあるライブを発見したら、「こんなのあるんだ」とリマインドしておいて、当日チケットを買っていました、当たり前のことだと思うんです。でも、それだと、予算の見込みって全然立てられないんです。そうなると、どれくらいコストをかけたり、グッズなどを作ったりすればいいのかも分からなくなる。売上の面から考えても、簡単に「配信にすればいい」にならないことは、今回身をもって知りました。

――両立もなかなかできない。

もちろん、両方できたらベストなんですけどね。とはいえ、何かしらの仕掛けは計画中です。虎視眈眈とやるので、具体的な内容についてはまだ秘密にしておきますね(笑)。とにかく、色々な対策をしながらモノづくりをやっていかないといけない世の中なので、頑張っていきます。ただ、この記事を読んでくださった皆さんにお願いしたいのは、好きなアーティストや舞台が配信で何かをやる場合、前もってチケットを買ってあげてくださいということ。

僕が関わっているコンテンツ以外でもぜひお願いします。そうすると、スタッフが本当に喜びます。「当日、いっぱい見てくれた」というケースはもちろんありますが、それはギャンブルでしかないので。

――そういう意味では、グッズやBlu-rayなどの収益も大きな収入源となると思います。

これはもうエンターテイメント全体の問題だと思っています。今後、興味あるものに関して皆さんがそういうアプローチをしてくだされば、エンターテイメントが救われる気がします。

●人にはそれぞれ意味がある

――色々とお話を聞いてきましたが、鈴村さんが『AD-LIVE 2020』を通じて伝えたいメッセージを教えてください。

今年に関しては、「どうやってエンターテイメントを止めないか」ということは、大きいテーマだと思ってます。正直、新型コロナウイルスの急速な感染拡大により外出自粛となったとき、「この仕事、やばいな」と思いました。そもそもエンターテイメントって、最低限の生活をするうえで最初に切られるものでしょうし、日頃から覚悟して生きてはいます。

生活を維持するために、まずは衣食住にお金をかけるのは当然。その上で『AD-LIVE』をやる意味は何なのかはすごく考えましたし、悩みました。ただ、エンターテイメントが止まってしまったことで、僕の周りにいる人たちが経済的な面で危機的状況にあったんですよ。それが少しでも救えたらという思いもあって、開催に踏み切ったという側面もあります。

――そのためにエンターテイメントを止めたくなかった。

そうですね。それに、本当にここで止まってしまうと、エンターテイメントが死んじゃうと思ったんです。ライフラインしかない人生や生活、そういう国になりかねないとすら感じました。極端に考えすぎかもしれませんが、実はこういうことが崩れていくのって、過去の歴史からみても簡単なんですよね。

危機的状況から脱しても「もう一回作るのしんどいよね」、「もう一回立ち上がるのは大変だよね」ってなるのは、よくあることですから。そういう意味では、どんな形でもエンターテイメントを繋いでいかなければならない、止めてはいけないと、僕は思ったんです。色々と言ってきましたが、最終的にはやっぱり「今年しかできない『AD-LIVE』をご覧ください」ということが、一番伝えたいメッセージではあります。

危機的状況だからこそ、前向きて楽しく、「この年でしか見られなかった」と思えるモノが作れたら、それはハッピーなことだと思うんですよね。

――誰かと接することがなかなかできなくなった状況で救ってくれたのは、それでもエンターテイメントだったと個人的には思っています。それがエンターテイメントの力であると。

エンターテイメントに関わる人間として、それは嬉しいお言葉です。

――エンターテイメントへの熱い思いがある鈴村さんにとって、エンターテイメントとはどういう存在でしょうか?

僕の視点だけで言うと、もう人生です。この世界に入ってから26年ぐらいで、間もなく半世紀を生きようとしていますが、そのうちの半分は、エンターテイメントの世界にいるんですよね。

一番長くいる場所になりました。僕は、人にはそれぞれ意味がある、意図があると思っています。僕はこういう仕事に就くという意図をもって、自らエンターテイメント業界に足を踏み入れました。そしてこの仕事をひたすら一生懸命やっています。それを見てくれる人がいて、そして、喜んでくれる。目の前にあることをひたすら一生懸命やることが、何かの役に立っているに違いない。そう思いながら生きています。

エンターテイメントだから、「誰かのためにやる」とか「こういう風にやったらいいんでしょ」ということはあまり考えません。今までやってきたことを蓄積してやっていかないと、色々なことがブレちゃうんじゃないかな。今はメディアも発達して、情報も集めやすい世の中です。ともすれば、お客さんが求めてるものは何かを調べて、それを継ぎ接ぎしてモノを作ることも可能だとは思います。

ただ、それをやると、誰かのモノになっちゃう気がするんですよね。「売れてるものだから作ったけど、売れなかったね」になるのは絶対に嫌だし、「売れてるから作ったら、やっぱり売れました」というのも、先人の模倣をしただけになってしまう。僕はそうじゃないもの作りたい。

それが、真のエンターテイメントだと信じています。これからも、自分が何をしたいかということを考え、その先にちゃんと見てくれている人がいるっていうことをイメージしながらモノを作っていきたいですね。自分が作りたいと思ったものが、最終的には結果に繋がると、強く信じています。

●「AD-LIVE 2020」配信チケット発売中
10/24:木村昴 ・ 仲村宗悟
10/25:浅沼晋太郎 ・ 日笠陽子
11/21:蒼井翔太 ・ 浪川大輔
11/22 :鳥海浩輔 ・ 吉野裕行


●「AD-LIVE 2020」Blu-ray&DVD
発売日:2021年2月24日
第1巻(森久保祥太郎×八代拓)/第2巻(津田健次郎×西山宏太朗)
発売日:2021年3月24日
第3巻(高木渉×鈴村健一)/第4巻(小野賢章×木村良平)
発売日:2021年4月28日
第5巻(木村昴×仲村宗悟)/第6巻(浅沼晋太郎×日笠陽子)
発売日:2021年5月26日
第7巻(蒼井翔太×浪川大輔)/第8巻(鳥海浩輔×吉野裕行)

【通常版】
仕様:本編ディスク2枚組
価格:各7,500円(税抜/Blu-ray/DVD共通価格)
特製ブックレット/オーディオコメンタリー(夜公演)/特典映像(CM、PV) ※各巻共通

【アニメイト限定セット】
仕様:通常版+特典DVD
価格:各8,000円(税抜/Blu-ray/DVD共通価格) ※特典DVDの収録内容は後日発表

公式HP:https://ad-live-project.com/
公式Twitter:@ADLIVEProject(https://twitter.com/ADLIVEProject)

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