前作、最終回の視聴率が42.2%を記録するなど、社会現象となったドラマ『半沢直樹』。7年の歳月が経過したものの、新シリーズもスタートから高視聴率を記録し、作品の力をまざまざと見せつけている。そんな『半沢直樹』の生みの親であり、シリーズ最新作『アルルカンと道化師』を9月17日に刊行する原作者の池井戸潤氏は、「今回のドラマが成功しているのは、俳優の演技力にあると思う」と分析。ドラマ成功の要因を自身の視点で語ってくれた。
■主演・堺雅人の芝居を絶賛「より演技力が際立っている」
「半沢直樹」シリーズが最初にドラマ化されたのは2013年。演出を務める福澤克雄氏から熱烈なオファーがあり、プロジェクトは動き出した。原作の魅力をしっかりキャッチし、真摯に作品に向き合ってくれる日曜劇場のスタッフを信頼してドラマ化を快諾した池井戸氏。
映像化に際して、求められればアドバイスは送るものの、作品の持つ世界観を崩さなければ基本的に口を挟むことはなく、「ドラマはテレビ局のもの」という認識でキャスティングなどにも意見を言うことはない。
ところが、主人公である半沢直樹を堺雅人が務めると聞き、驚いたという。
「映像化の前から『半沢直樹』は書いていたのですが、あるとき堺さんの映画を観て、ふと半沢直樹をこの人がやったらハマるんだろうなと思ったんです。でも僕はキャストに関して口を挟むことはないので、『堺さんで』というリクエストは出さなかったんですが、キャスティングについての打ち合わせで、『半沢は堺さんにお願いしようと思っています』と言われて驚きました。こんな偶然もあるんだなって」。
半沢を生み出した池井戸氏と、製作陣が考えた主人公像が一致していたことを鑑みても、日曜劇場のスタッフと池井戸氏の相性の良さが伺える。
実際、前シリーズで堺が演じる半沢について舌を巻いたという池井戸氏だが、第2シーズンを迎えて、さらに堺の芝居に脱帽したようだ。「より演技力が際立っていると思います。悪党たちを一喝するときの目なんてすごいですよね。さすがだなと思います。特に接近戦に強い」と絶賛する。
■「ドラマの黒崎は大好き」「香川さんのアドリブは抜群」
また、堺だけではなく、その他の俳優たちの芝居も作品が成功している大きな理由の一つだと池井戸氏は語る。「堺さんはもちろんですが、他の役者さんの演技力もすごいですよね。その根底にあるのは舞台で培われた技術だと思うんです。(副頭取の三笠洋一郎を演じた)古田新太さんを始め、悪役たちも舞台を中心に活躍されている名優たちばかり。顔の表情の繊細さはもちろん、なによりセリフが聞き取りやすい。他のドラマを観ていて『いま何て言った?』ということがよくあるのですが、『半沢直樹』に関しては一切そういうことがないんです」。
魅力的なストーリーに加え、それをしっかりと演じ切る実力派の俳優たち。池井戸氏も一視聴者として作品を楽しんでいるという。「僕が好きなのは(片岡愛之助演じる金融庁の)黒崎駿一ですね。ドラマの黒崎は大好きです。でも股間掴みみたいな描写は、僕は書いていないので、あれは福澤さんの趣味じゃないですか」と笑う。原作の『ロスジェネの逆襲』や『銀翼のイカロス』に登場しない香川照之演じる大和田に対しても「香川さんのアドリブは抜群ですね。原作には出てこないキャラクターなので、ああいう風に自由に存在感を発揮して作品を盛り上げてくれるのは、とてもいいと思います」と楽しんでいるようだった。
1963年岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒。‘98年『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー、2010年『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、2011年『下町ロケット』で直木賞を受賞。主な著書に「半沢直樹」シリーズ、「下町ロケット」シリーズ、「花咲舞」シリーズ、『空飛ぶタイヤ』『ルーズヴェルト・ゲーム』『七つの会議』『陸王』『民王』『アキラとあきら』『ノーサイド・ゲーム』などがある。最新作は9月17日刊行予定の単行本『半沢直樹 アルルカンと道化師』。
池井戸潤による企業を舞台にした痛快エンタテインメント小説。主人公の半沢直樹が銀行内外の敵と戦い、数々の不正を暴く。『オレたちバブル入行組』(2004)、『オレたち花のバブル組』(2008)、『ロスジェネの逆襲』(2012)、『銀翼のイカロス』(2014)のシリーズ4冊は、メインタイトルを『半沢直樹』と改題の上、講談社文庫より刊行された。そして今年9月17日にシリーズ最新作『半沢直樹 アルルカンと道化師』を刊行。最新作はシリーズ第1作『オレたちバブル入行組』の前日譚となる。
左から『半沢直樹 アルルカンと道化師』(9月17日発売)、『半沢直樹 ロスジェネの逆襲』、『半沢直樹 銀翼のイカロス』