1年後に延期となっている東京オリンピック・パラリンピック(TOKYO2020)のちょうど1年前となる7月23日、開会式開始時刻の20時に合わせ、オリンピックスタジアムからメッセージを発信するプログラム「一年後へ。一歩進む。~+1(プラスワン)メッセージ~ TOKYO2020」が行われた。オリンピックを目指すアスリートのひとりとして、競泳の池江璃花子選手が登場し、1年後の未来に向けたアスリートとしての胸中を世界に向けて発信した。

  • 「一年後へ。一歩進む。~+1(プラスワン)メッセージ~ TOKYO2020」に登場した競泳の池江璃花子選手 Photo by Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI

    「一年後へ。一歩進む。~+1(プラスワン)メッセージ~ TOKYO2020」に登場した競泳の池江璃花子選手 Photo by Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI

オリンピックスタジアムからメッセージを発信

同プログラムではスタジアムに観客を入れず、配信で世界中の人々が視聴できるようになっていた。

観客のいないオリンピックスタジアムに、輝くような白い衣装で、青々とした芝生に立ったのは、競泳の池江璃花子選手。TOKYO2020での活躍を期待されながら、白血病の発症により当たり前の環境が一変してしまったアスリートだ。「今日は、一人のアスリートとして、そして一人の人間として少しお話させてください」と、静かなスタジアムの真ん中で語り始めた。

  • スクリーンに映し出された「TOKYO2020」の文字  Photo by Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI

    スクリーンに映し出された「TOKYO2020」の文字 Photo by Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI

池江選手もTOKYO2020大会への出場を夢見た選手の一人であり、その目標が突然消えてしまったことはアスリートにとってとても大きな喪失感だったと話し、コロナ禍と自身の白血病による経験を重ね「思っていた未来が、一夜にして別世界のように変わる。それはとてもキツい経験でした」と、ゆっくりと言葉を紡いでいく。

続けて、医療従事者への大きな感謝と、一日でも早く平和な日常が戻ってほしいという心からの願いに触れ、スポーツが勇気や絆を与えてくれるものだと池江選手は話す。

「闘病中、仲間のアスリートの頑張りにたくさんの力をもらいました。今だって、そうです。練習でみんなに追いつけない。悔しい。そういう思いも含めて、前に進む力になっています」と現在の胸中を明かした。

これからの1年をただの延期ではなく“プラスワン”と考えることは、とても未来志向で前向きな考え。今のような時世にスポーツについて話すことに否定的な声があることにも理解を示しつつ「逆境から這い上がっていく時には、どうしても希望の力が必要」で「私の場合、どうしてももう一度プールに戻りたい。その一心でつらい治療を乗り越えることができました」と、希望の力の大きさを、実感を込めて話した。

そして、最後に「一年後の今日、この場所で希望の炎が、輝いていてほしいと思います」と結び、一年の未来へ思いを馳せた。その表情には大きな決意と溢れてくるさまざまな想いをこらえているようにも見えた。

  • スタジアムに立つ池江選手 Photo by Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI

    スタジアムに立つ池江選手 Photo by Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI

「+1」に込められた想い

「+1」は、“希望を胸に1歩前に踏み出す”という想い込めて、大会延期後にSNSなどで広まった表現。この日、発信された映像では、池江選手がスタジアムに向かって歩いていく背中とともに、医療現場で頑張っている人々などが映し出され、改めてスポーツが人々の心に希望の光を灯すものであること。そして、一年後となったオリンピック・パラリンピックに向けて努力を続けている世界中のアスリートたちの想いに寄り添った内容となっている。

池江選手は今回のプログラムへの出演にあたり「オファーを頂いた時は私でいいのかなと思いました。このような大役を自分にできるのかという不安もありましたが、話が進んでいくにつれ、こんな機会はもうないかもしれないと思い、すごく楽しみだなという気持ちで引き受けさせて頂きました」とコメントしている。

  • 聖火が入ったランタン Photo by Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI

    聖火が入ったランタン Photo by Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI

プログラム前のブリーフィングでは、池江選手の起用について、本プログラムを担当したさまざまなCMなどを手掛けるクリエイティブ・ディレクターの佐々木宏氏は「もう一度、頑張ろうというアスリートの一人として、強いメッセージを発する適役」としてオファーし、「池江さんが元気になった姿を見ると希望を持てたし、同じようにオリンピック・パラリンピックを楽しみにしていた方たちが、もう一度その思いを思い起こしていただけるきっかけになれば。ささやかだけれども、心に届くアスリートからのメッセージ」になればと話した。

また、「私自身、(新型コロナウイルスにより)毎日怖がって家の中でテレビのニュースだけを見ていた」と、昨今の事態に動揺していたといい、今スポーツを語ることについて「肯定的になれない方が多く、普通そうだろうな、と思う。私だけがすごくポジティブというわけではない。しかしながら、気持ちが滅入ってしまうと、そういう方向に向かってしまう方も多い。いろいろな心配事が山ほどある中で、スポーツやエンタメを話すことが不謹慎になる時期もありました」と、ネガティブな声にも理解を示した。

そのうえで、さまざまなスポーツが少しずつ復活の方法を模索し形になっていく中で「希望があれば、まだ頑張れる。暗い気持ちで家で過ごして、なんの目標もないのとはずいぶん違う」と、希望があることの大切さに触れつつ、「そう簡単なことではない、ということを考えながらも、同時に楽しいことも考えていきたい。もう少しハッピーな、幸せなことを考えながら頑張れるように」と話した。

演出としては「思いがストレートに伝わるのが一番。デザインが前に出すぎないようにプレーンな白の衣装で、美しく凛とした彼女の想いや強さを伝えたかった。余計な演出はせずに淡々と映像を繋いでいる」という。

配信された映像は、東京2020オリンピック・パラリンピック公式サイトで視聴できる。