新型コロナウイルスの影響により、働き方や価値観が大きく変わろうとしている今、その変化に不安や戸惑いを感じているビジネスパーソンも多いのではないだろうか。「これからは、わがままなくらいに、やりたいことや働き方を主体的に選んでいくことが大切になる」と、語るのは、独立研究者や著作家として活躍している山口周さんだ。

昨年、出版された『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)は、従来評価されてきた考え方(オールドタイプ)を捨て、新しい考え方(ニュータイプ)へのシフトチェンジへの重要性を説いており、「withコロナ時代を生き抜く参考になる」と、再び注目を集めている。

これからの時代、生き残っていくためには、どのような働き方をすべきか、改めて山口さんに伺った。

  • withコロナ時代時代の働き方に対応できますか?

内発的動機とフィットする場に身を置くこと

今、多くの企業がリモートワークにシフトしつつある。これまで以上に生産性が厳しく求められるビジネスパーソンは、どんな働き方を目指すべきなのか。

山口 「まずは自分が夢中になれる仕事を選ぶことです。いろんな調査結果から、仕事の生産性が高い人の特徴として、『好きな仕事をしている』ケースが挙げられます。書籍でも、『内発的動機とフィットする「場」に身を置くことが肝要だ』と言っているように、好きな仕事だと朝起きて、すぐに着手できますし、面倒なことでも集中して取り組むことができます」。

またリモートワーク主体の働き方になって、電車通勤から解放されたのも、生産性向上につながっているようだ。

山口 「人間の脳は起床直後が、最も効率よく働くと、医学的にも証明されています。これまで通勤で無駄遣いしていた『脳のパフォーマンス』を最大限活用できるようになり、好きな仕事をしている人は、ますます高い生産性を上げることができるでしょう」。

一方、仕事へのモチベーションが低い人は、上司や同僚とのコミュニケーションが希薄になり、周りの目(監視)や関係性によって、これまで維持してきた生産性を継続できなくなり、仕事をするのが相当苦しくなる、と指摘する。

  • 人間の脳は起床直後が、最も効率よく働くと話す山口さん

成長格差も生まれてくる

また、リモートワークが進むと、「学び(教育)」の面でも格差が生まれてくるようだ。

山口 「上司や同僚に自分の仕事が見えないリモートワークでは、周りからフィードバックも得にくくなります。そのため、自ら積極的に知識を収集したり、自分の仕事を客観的に振り返り、弱点などを改善したりすることが、これまで以上に必要になります。

これも仕事がつまらないとなかなか行動に起こせません。自分もそうだったのでよく分かります。やはり、好きだからこそ、成長しようと積極的に取り組み、仕事でも試そうと思えるのです。こうしたサイクルが回れば、仕事はさらに面白くなってきます」。

リモートワークだけでは視野が狭まる

ただ、リモートワークは良い部分だけでなく、気を付けるべきことが1つある。それは「セレンディピティ(ふとした偶然をきっかけに、ひらめきを得る力)が起こりにくいだ」と、山口さんは指摘する。

山口 「オンラインのやりとりだけでは、限られた範囲で活動しがちになり、自分のコミュニティの外側にいる人たちの問題に気付くことができず、イノベーションも起こせません。インスタントラーメンを発明した安藤百福さん(日清食品創業者)や、小型自動車を発明した実業家ラタン・タタさん(タタ・グループ会長)のように、イノベーションは偶然の出会いによる問題発見がきっかけになっています。リモートワークによって、そうしたチャンスを逃してしまうことになりかねません」。

それを克服するため、大事なのは「物理的に動くこと」だ、と言う。

山口「リモートワークでは物理的な移動による制約がなくなる分、居住空間でセレンディピティを求めることができます。極端な例かもしれませんが、例えばAirbnbを使って他の場所に住んでみるとか……そういった発想でこの状況をうまく活用すれば、さまざまな出会いを通じて、脳を刺激し、新たな発想を生み出すことも可能になります」。

皆が選ぶものがリスクになる時代

個人だけでなく企業にとっても、先の見えない、この時代を生き抜くために、どのような心構えが必要なのだろうか。

山口 「今後は、あらゆる意味でノーマルがなくなっていくと思います。コロナ禍によって人の行動が制限され、経済活動が縮小していけば、これまで『この業界は安定している』『この会社なら安心」といったことも言えなくなり、『皆が選ぶもの(ノーマル)に寄り添っていれば大丈夫』といったことも通用しなくなります。むしろ、そこに踏み止まって頑張ることがリスクにもなってきます。

これからは、やりたいことや働き方を主体的に選び、決断していくことが重要になってきます。このままだと危ないと思ったら、自分の判断(直感)で逃げる勇気も必要。そうすることで、先の見えないこの時代でも、自分らしい人生を創っていくことができるようになります」。


このwithコロナ時代は、多くの人にとって、働く意義や仕事について見つめ直す機会なのかもしれない。うまくいかないことを嘆いていても何も変わらない。山口さんのアドバイスをヒントに、まずはアクションを起こしてみる。次第に見える景色が違ってくるはずだ。

取材協力:山口周(やまぐち・しゅう)

1970年東京生まれ。独立研究者・著作家・パブリックスピーカー。World Economic Forum Global Future Council メンバー。電通、BCG等で経営戦略策定、組織開発に従事。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了。著書に『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』(ダイヤモンド社)など。