IoTを支えるインフラは、現在では十分に確立されており、目に見えない多数のサーバやデータセンタをはるかに越えて広がり、家庭、オフィス、工場の中にまで入り込んでいます。

エッジにはセンサが設置されており、実用的な方法でデータを収集してクラウドサービスに転送して、あるいはローカルで処理しています。これらのセンサはビルのスマート化に不可欠であり、人の介入を必要としない方法で私たちの環境を制御しています。こうした動きの主な推進力になっているのが利便性と経済性です。自律型のビルならば、最後の1人が部屋を出る時に照明を消し忘れることは決してありません。

例えば、在室検知や温度測定を使用して暖房や照明のレベルを設定するなど、比較的単純な制御システムとして始まったことが高度化し発展しました。ユーザの観点からビルのスマート化が進んでいるのと同じように、それを可能にするシステムもスマート化が進んでいます。

人工知能(AI)を利用することにより、最終的には人がスマートビルのスケジュールをプログラムする必要はなくなるでしょう。広い範囲のおおよその在室状況を検知する単純なセンサは、個人を認識してパーソナル化された方法で制御できる、より高機能のイメージセンサに置き換えられるでしょう。個人を特定できない動き検出器(人感センサ)は、個人の顔だけでなくジェスチャや気分さえも認識できるイメージングシステムに道を譲ることになるでしょう。スマートスピーカやバーチャルアシスタントを通じて実現されている音声制御も、急速に人気が高まっている重要な機能です。

ビルのスマート化が進むにつれてその機能は拡大し、入退出管理などのセキュリティ機能を備えた、よりパーソナル化された体験を提供するようになります。これは、部屋に誰もいない時に消灯することでエネルギー利用の最適化を図るだけでなく、権限を持つ人だけが部屋に入ることができるようにしたり、部屋の中にいる時に個人がセキュアなネットワークにアクセスするのを自動的に承認したり、さらには品物の所在を探すのを手助けしたりすることにまで拡大していきます。

インテリジェントなエネルギー利用につながるスマートビル

現在、施設管理上の2つの側面、つまり照明と暖房がエネルギー消費量の約40%を占めています。在室検知や環境光レベルを人工照明のレベル調整に利用するという考え方では、インターネットが十分活用されません。この方法が長年使用されてきましたが、今ではコネクテッド照明が優勢となり、IoTを支え進化させているコネクテッド照明技術が全面的に採用されています。

その重要な要素の1つが通信です。ワイヤレス・メッシュネットワーキングの登場により、スマート照明器具の接続が、はるかに容易で信頼性の高いものになりました。Power over Ethernet(PoE)の継続的な進化により、LED技術によってもたらされた大幅な省電力化と相まって、今や1本の低電圧イーサネットケーブルで照明の電源供給と接続を行うことが可能になり、コネクテッド照明を設置するために電気工を雇う必要がなくなっています。

単なる照明器具であったこれらのコネクテッド端末が、これからは、はるかに多くなるのです。各照明器具は、例えば屋内ナビゲーションのためのビーコンとして効果的に機能を果たすことから、スマートビルのネットワークに不可欠な部分を形成しています。また、照明器具に在室検知、資産追跡、環境モニタリングなどの付加機能を搭載することもずっと簡単になります。これらの機能はすべて、複数のセンサによって実現されており、現在では単一のコネクテッドデバイスに統合することができます。

もちろん、このような開発により、ビルは在室者にとってより便利になるでしょうが、最終的にはよりスマートな方法で運用することによってエネルギーを節約できることが最大のメリットになります。

よりスマートなビルの構築

スマートビル・システムのトポロジは、図1に示すようにセンサとアクチュエータに依存しています。

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    図1:スマートビル・システムのトポロジの一例

システムの心臓部にあるマイクロコントローラまたはデジタル信号プロセッサ(DSP)は、多くのセンサとアクチュエータを調整する役割を果たします。これには、在室検知、環境モニタリング、入退室管理に使用されるものなどがありますが、アクチュエータには、照明の点消灯に使用する電気機械式リレーまたはソリッドステートリレーの他に、ドアや窓の開閉を行うブラシ付き、またはブラシレスのDCモータなどが含まれる場合があります。

PWMなど何らかの形態の電力調整を使用して光量を可変でき、MCU/DSPがこの役目を担います。コネクティビティは、有線と無線を組み合わせたものになり、この点で使用される可能性があるプロトコルが増加しています。この中には、インターネットで使用されているものと同一のプロトコルに対応しており、そのため直接アクセスできるものもあれば、ゲートウェイを必要とするものもあります。

また、今や超低電力システムの領域に入りつつあり、MCU、センサ、アクチュエータの場合によってはすべてが、光や熱など環境から得たエネルギーによって電力供給される可能性もあります。これによって、実質上自立型の制御システムの可能性が生まれます。

スマートビルのインフラの背後にある通信ネットワークを開発する際に考慮すべき重要な要素は、距離、電力、レイテンシです。これら各要素の重要性は実際のアプリケーションによって異なりますが、暗い部屋に入ってから照明が点灯するまでに顕著な遅れがあれば、在室者は明らかに気づくことでしょう。これは低レイテンシが重要である理由を示すほんの一例にすぎません。

一般に、ローカル処理は、クラウド処理だけに頼ってローカルの意思決定を行うよりもレイテンシを低減できます。入室する人が照明レベルを上げる必要性を感じた際に、センサがそれ自身で判断できると、全体的により良いユーザ体験を生み出すことができます。

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    図2:スマートビルの通信インフラを開発する際に考慮すべき主な要素

図2に、これらの要素が有線/無線技術の選択にどのように影響を与えるかを示します。単純でも堅牢なメッシュネットワーキング(図3)を実装することにより、照明器具、ファンなどの資産を含むコネクテッドデバイスの小規模なネットワークを構築することができます。メッシュネットワーキングは単一ノードの到達範囲をはるかに越えてネットワークを拡張する手段を提供するだけでなく、ネットワークに冗長性を構築し、接続されたノードの任意の組み合わせを使用してメッセージがネットワークを通過できるようになります。これはローカルでの干渉によってメッセージが照明器具をウェイポイントとして使用するのを妨害されても、ネットワークが自動的にリルートしてくれることを意味します。このため、現在ほとんどの最新無線プロトコルは、メッシュネットワーキングを採用しています。

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    図3:メッシュネットワーキングによるネットワークの拡張とルーティングの冗長性