自動車での採用が進むBLE

自動車業界では、近距離無線接続に関して独自のワイヤレス技術からBluetooth Low Energy(BLE)などの標準化された技術へと移行するはっきりとしたパラダイムシフトがみられます。

BLEのユビキタス性は、今日では文字通りすべてのものがスマートフォン(スマホ)に接続されていることを意味します。これは当然のことながら自動車にも当てはまります。いまやスマホは急速に車載システムの一部になりつつあり、BLEのような標準的なワイヤレス技術が車内に存在する必要があることを意味します。

  • BLE

    図1 車載で浸透しつつあるBLEでスマホと接続するイメージ

利用するワイヤレス技術の選択肢にひろがりがあるとはいえ、タイヤ空気圧監視システム(TPMS)やスマートエントリーキーなどのアプリケーションに対する技術的な要件は以下のように存在します。

  • 通信における高い信頼性があること
  • 動作や通信の遅延が短いこと
  • 動作時の通信電力で極めて低いこと
  • 待機時にもバッテリー消費が極端に少ないこと

BLEはこれらの要件を満たしており、車載用途における強みはスマートエントリーキーアプリケーションを例にとって説明することができます。

スマートエントリーキーは小型で持ち運びに便利なため、通常は何年もの長期間のバッテリー寿命が求められます。スマートエントリーキーは、ほとんどの時間は「何もしていない」ように見えますが、実際にはスリープモードになっており、必要なときに車と通信できるようになっています。そのため、超低消費電力のワイヤレス操作が不可欠です。また車のドアのロックを解除するためにボタンを押しても、ユーザーがコントロールしていると感じられるように、遅れを感じることなくすぐにロックを解除しなければなりません。さらに、Bluetoothのユビキタス性は、従来のスマートエントリーキーの代わりにスマートフォンを使用するという手段も提供することができます。 

BLEがもたらす高信頼性通信

現代のスマートキーシステムは、車両のドアロックの開閉に使用されるだけではありません。広い駐車場で車両の位置を特定したり、寒い冬の日に暖を取るために遠隔操作で車両を始動させたりすることもできます。所有者は常に車両のすぐ近くにいるわけではないため、スマートキーと車両の間の通信は、人や車両、その他の障害物によって部分的に遮断されている場合を含め、長距離にわたって信頼性の高いものでなければなりません。BLEは見通し数十mの通信範囲を持っており、一般的な駐車場では十分な範囲をカバーしていると言えます。

信頼性のもう1つの側面は応答性です。利用者は、ほぼ瞬時の応答を期待しているため、BLE通信が低遅延で動作する必要があります。ドアロック解除ボタンを押してから車両のドアがロック解除されるまでの時間差は、ドライバーには気づかれないものでなければなりません。BLEは非常に低い遅延で動作しますが、これはBLEシステムにおいて、接続されているデバイスが事実上常にオンになっていることに起因しています。使用されていないときは、低電力状態(スリープモード)に入ることがありますが、そこから動作を開始することができるので、オフの状態から電源を入れるよりもはるかに速く動作します。しかし、待機時にオンである利点で消費電力を犠牲することはできません。

  • BLE

    図2 BLEを用いた高信頼性通信のイメージ

BLEが実現した低消費電力

Bluetooth Low Energyはその名の通り、超低消費電力の無線通信仕様です。電池駆動の民生機器分野での成功を考えると、自動車分野への展開されることも大いに期待されます。

スマートキーの場合、平均1日に20回の動作があり、1回の動作時間は約6.2ミリ秒で、1日の総動作時間はわずか124ミリ秒です。それ以外の時間は受動的な低電力状態スリープモードになっています。この状態では電池を消費しないように消費電力を最小限に抑える必要があります。さらに、動作時においても(通常は)3Vのコイン電池の寿命を延ばすために消費電力を可能な限り抑えなければなりません。車両に搭載されたバッテリーは大容量ですが、車にエンジンがかかっていない停車中は、このバッテリーからの電力でスマートキーによりドアロック開閉されます。この状態ではバッテリーの充電ができない時間帯なので、システムには待機時電流が流れていることになります。時計やエンジンコンピュータの内部メモリ、ラジオのプリセットなど、車が走っていないときにバッテリー電流を消費する他のシステムと同様に車内のスマートキーの受信側もまたその待機時消費電力を小さくなるように設計する必要があります。

BLEがもたらす通信の安全性

BLEのSoCは、現在では多くのグローバル半導体サプライヤーによって製造されており、比較的容易に入手できるようになっています。このことはBLEが近距離無線通信用の独自仕様のSoCに比べて、低コストの標準ソリューションであることを意味しています。さらに、BLEは小型で軽量な実装も実現しています。

自動車業界でBLEが採用されるようになったもう1つの重要な要素は、セキュリティです。ペアリングや鍵の生成からデータの交換まで、BLEは最初からとても安全な無線通信手段を提供するように設計されています。なぜなら、他人のスマートキーやスマートフォンで自分の車のドアロックを解除されたくはないでしょう。

これらすべての利点を兼ね備えたBLEは、車載用アプリケーションにおける近距離無線通信のためのとても好ましい選択肢となっています。

オン・セミコンダクターの「NCV-RSL10」は、車載品質基準の認定を受けたBluetooth 5認証SoCです。ピーク受信およびディープ・スリープ・モードにおいては業界でトップクラスの低消費電力を提供します。3V電源における動作時のディープ・スリープ(I/Oウェイクアップ)の消費電力は25nAです。この低消費電力性能により、NCV-RSL10は、車両のメインバッテリ待機時の消費を最小限に抑え、車両およびスマートキー両方のバッテリ寿命を延ばし、キー側のバッテリの小容量化によるスマートキーサイズの小型化を実現します。また、そうした特性から車載用TPMSでのエネルギーハーベスティング(環境発電技術)利用も実現可能とします。

  • BLE

    図3 自動外観検査を可能にするウエッタブル・フランクめっき技術採用のNCV-RSL10のQFNパッケージ

車載用アプリケーションで使用されるデバイスにおけるその他の重要な注意点は、セキュリティ機能・厳しい安全基準と高い信頼性の要件を満たすことです。NCV-RSL10の7mm×7mm QFNパッケージの電極には、ウェッタブル・フランクめっき技術が採用されており、メーカーやOEMは一般的な生産フローである自動外観検査を利用することができます。また、このSoCは機密データを保護するためのAES128暗号化アクセラレータを内蔵しており、-40℃から+105℃までの温度範囲をカバーするAEC-Q100グレード2の認定を受けています。

  • BLE

    図4 オン・セミコンダクターの車載用途向けBLE SoC「 NCV-RSL10」のパッケージイメージ

著者プロフィール

Shola Slough(ショラ・スラウ)
ON Semiconductor
プロダクトマーケティング・スペシャリスト