NHK連続テレビ小説『エール』(総合 毎週月~土曜8:00~ほか ※土曜は1週間の振り返り)で、窪田正孝演じる主人公・古山裕一のレコードが初めてリリース。妻の音(二階堂ふみ)も音楽学校のオペラ公演である『椿姫』のヴィオレッタ役に選ばれ、めでたしめでたし。その背景では、村野鉄男(中村蒼)と元恋人の希穂子(入山法子)との切なすぎる悲恋が描かれ、2人を想いながら最終選考に挑んだ音の美声は、視聴者の琴線をも震わせた。

  • 『エール』音役の二階堂ふみ

主人公・裕一は、全国高等学校野球大会の歌「栄冠は君に輝く」や阪神タイガースの歌「六甲おろし」などで知られる福島県出身の作曲家・古関裕而(こせき・ゆうじ)氏がモデル。二階堂ふみが演じる妻・音のモデルは、歌手の古関金子(きんこ)氏で、2人が夫婦二人三脚で、波乱万丈の音楽人生を生きていく。

ヴィオレッタ役の大本命と言われていたライバルは、最年少で帝国コンクールの金賞を受賞した音楽学校きっての逸材で、すでにソロリサイタルを開ける実力の持ち主、夏目千鶴子。幼少期からすべてを音楽に捧げてきたと胸を張る千鶴子は、友達と群れることもない孤高の美少女だ。

「私の全てを懸けて、プリマドンナを勝ち取ってみせる」と、音に宣戦布告をしたシーンでも大いに気迫が伝わってきた。演じるのは、令和時代を担う、才能あふれる若きミュージカル女優、小南満佑子である。

小南も千鶴子と同様に、名門であるジュリアード音楽院声楽オーディションで最優秀賞を受賞するなど、若いころから歌で頭角を現してきた。その後、プロになってキャリアを重ね、2017年の『レ・ミゼラブル』30周年記念公演でのコゼット役で、初のプリンシパルキャストも務めている実力派だ。小南のスキルの高さは、番組内でも実証済みである。

絶対的エースにしてお嬢様キャラという凛とした佇まいの千鶴子。『エースをねらえ!』でいえば、主人公である岡ひろみが憧れるお蝶夫人こと竜崎麗香、『ガラスの仮面』でいえば、北島マヤの好敵手となる姫川亜弓的なポジションである。

だが、ライバルキャラは、いつの日か敗れ去る、もしくは主人公を応援する側に回るという場合が多い。視聴者が感情移入し、絶大なエールをもらえるのは、岡ひろみや北島マヤであり、最終的においしいところを全部持っていくのだ。『エール』の音についてもしかりである。

余談だが、最終選考の審査を務めた世界的オペラ歌手・双浦環役の柴咲コウは、『ガラスの仮面』におけるマヤの師匠にして往年の大女優、月影千草を彷彿とさせた。二次選考が終わったあと、環は音に向かって「正直言うと、あなたの歌には、惹かれるものがなかった。何も伝わらなかったの」と、相手を凍りつかせるような厳しい言葉を投げる。でも、結果的には、それが音を奮い立たせるムチになったわけだから。

音は、環の言葉からヒントを得て、男女の恋愛における機敏を学ぶためにカフェーで働き始め、そこで先輩の女給である希穂子と交流していく。そして希穂子と鉄男が昔、恋仲だったことを知るのだ。

『椿姫』が、薄幸の娼婦と青年貴族との許されない悲劇の恋を描く物語ということで、それが、鉄男と希穂子の悲恋とシンクロしていく。音は、愛し合っていながらも結ばれない2人を想い、胸が張り裂けそうになって涙する。そして “審判の日”となる最終選考日、あふれる想いを歌に込めたのだ。

ちなみに、山崎育三郎や小南など、さまざまなミュージカル俳優が出演している『エール』だが、オペラのハイトーンを、吹替えではなく自身で披露した柴咲に続き、二階堂の歌にも絶賛の声が上がっている。アーティスト活動もしている柴咲の実力は言うまでもないが、窪田正孝とともにドラマの看板を背負って立つ二階堂にとっては、まさに面目躍如の歌唱シーンとなった。

応募者2802人というガチなオーディションで、音役に選ばれた二階堂。自らボイストレーニングを積んで挑んだという彼女だが、演技だけではなく、歌においてのポテンシャルも高かった。

大河ドラマ『西郷どん』では、西郷(鈴木亮平)の2番目の妻となった奄美の島娘・とぅま(愛加那)役を演じていたが、劇中で披露した「島唄」が、多くの視聴者の心を揺さぶったのは記憶に新しいところだ。当時、二階堂自身が「心の状態が丸裸になるんです」と言っていたが、それはスキルというよりは、ハートで歌い上げられたものだったと思う。

むしろそれは、歌唱力というよりは、表現力の高さなのだろう。だからこそ『エール』でも、魂を込めた二階堂の歌が、視聴者の心をつかんだのではないだろうか。今後の歌唱シーンも心待ちにしたい。

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