日本の工場経営は決して容易なものではありません。新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るういま、より顕著にそれがあらわれていると言えるでしょう。工場が生き残っていくためにはどうすればよいのか、本稿では税理士でありながら幾つもの事業を立ち上げてきた連続起業家のSAKURA United Solution代表・井上一生氏が専門家と対談。

「工場再生と100年企業創り」というテーマで、職人の情熱とこだわりがつまった語れる商品を提供するメイドインジャパンの"工場直結"ファッションブランド・ファクトリエの山田敏夫氏に話をうかがってきました。

  • 未来創造対談:日本の工場再生と100年企業創り【前編】、(左)井上一生氏(右)山田敏夫氏


工場の再生が、日本の再生につながっていく

井上一生氏(以下、井上)――「山田さんは、年に100カ所以上のアパレル工場を回られているそうですね」

山田敏夫氏(以下、山田)――「はい。本物のブランドは、モノづくりからしか生まれないと思っていて。モノづくりの本質や原点があるのは、やっぱり工場です。だから、工場に足を運んで、そこで仕事をしている職人さんと話したり、表情をみたり、仕事ぶりをみることがとても大切だと考えています」

井上――「山田さんの会社が運営しているファクトリエは、コンセプトが面白いですし、なにより哲学を感じます」

山田――「ありがとうございます。ファクトリエでは、55のアパレル工場の商品をお客様にお届けしています。野菜の直売ってあるじゃないですか? あのアパレル版だと思ってもらえればわかりやすいかもしれません。職人の情熱とこだわりがつまった高品質な商品ですが、直売なので適正価格でお客様に提供できます。工場から手紙も届くんですよ」

井上――「それは良いですね。洋服をつくってくれている人の顔って、買って着る方からすると全然見えないのが普通。だけど、ファクトリエさんの商品だと工場から手紙まで届いちゃう。人と人の交流がある感じがして、温かいですよね」

山田――「アパレル工場は、有名ブランドの商品をつくっていたとしても、それを公言できないんです。工場が直接販売することで、お客様は有名ブランドと同等の品質のものを適正価格で購入できる。工場は有名ブランドの下請けよりも高利益体質になれる。そうすることで、工場の再生ができると思っています。そしてそれが、やがては日本の再生につながっていく。

私は、グッチのパリ店で修業していたんですが、幸運なことにメイドインジャパンの印象はすごく良いんですよ。フランス、イタリア、その次にジャパンの製品が挙げられて、3トップに入る。これは、先人たちのおかげです。

でも、段々とアメリカ流の価値観、コスト削減意識が高まってしまって、"表面的"なブランドになってしまった。そうではなくて、日本本来のモノづくり。本物のブランドを創っていきたい。そんな想いを持って仕事をしています」

洋服が幸せの総量を増やす

井上――「表面的ではなく、本物。本質。すごく重要なキーワードですよね。私は起業したとき、ボルボを買うことが夢だったんです。ボルボには、"信じられる車を""世界一安全なクルマ"というフレーズがあります。商品や相手を信用できることって、すごく大切なことだと思うんです。信頼感が満足感を与えてくれるから」

山田――「ウェルビーイング(well-being)という言葉がありますが、精神的・社会的に良好な状態であることは幸福につながっていくと思います。

片づけコンサルタントの近藤麻理恵さんの本がベストセラーになりましたが、『クローゼットをどう自分がときめくものにするか?』がお客様にとって大事で、いらない服はタダでもいらない。

洋服といういつも身につけるもので、いかに人を幸せにできるか。いかに幸せになれるか。そう考えたときに、自分ひとりでは幸せになれないんです。

自分だけでは幸せの総量は増えないから、だれかが幸せになる洋服を身にまとうことで自分も幸せになろうとする。工場の職人さんも、それを着るお客様も幸せになれる。そんな工場再生の形を目指していますし、それを目の当たりにすると私自身も喜びを感じますね」

100年続く工場創りのために

井上――「山田さんのお話を伺っていると、日本のモノづくりにすごく将来性を感じますね。ジャパンアズナンバーワンと聞かされた時代がありましたが、今は業績不振や後継者不在で廃業してしまう工場も多い。今回のコロナショックの影響で、廃業を決断した経営者の方も多いと思います。でも、私は60歳を超えて思うのは、"次世代に誇りを持てるなにかを遺したい"ということです。

私は税理士として多くの経営者の方と接してきましたが、税理士になりたかったわけではないんです。父親が経営者で、月末になると資金繰りで苦労する風景を小さいときからみていました。なぜお金が足りなくなるのかを知りたくて税理士になったんです。不幸を感じない経営を知りたくて税理士になった。

倒産しない会社づくり、100年企業創りの手伝いをしたい。日本中の社長と社長夫人を助けたいと思ったんです。山田さんと一緒に、工場再生を支援していきたいですね」

山田――「井上さんは、すごく熱い税理士さんですよね。プレジデントアイデンティティという変わった取り組みもされているとか?」

井上――「私自身が実験体になっています。プレジデントアイデンティティは、経営者ご自身や後継者のスタイリングをして経営課題を解決しようという取り組みです。

経営者の方って、洋服や身なりに無関心な人が多い。ときどき『だれか息子の結婚相手を紹介してくれないか?』と相談されることがあるんですが、未婚や晩婚の増加は日本企業の存続にもかかわるんです。

経営者こそ、会社の看板であり広告塔です。だから、洋服選びやヘアスタイル、ネイル、場合によっては美容整形などのトータルコーディネートをプロに任せちゃう。看板である社長が変われば、採用や顧客開拓にもつながるわけですから。ヨレヨレの服を着ている社長よりも、ピシッとしている社長の方が信用できるじゃないですか」

山田――「そんなことまで考えてくれる税理士さんっていないですよ(笑)。信用や信頼というのは、これからの時代、アフターコロナ時代でも極めて重要なキーワードだと思います。新型コロナの影響で、お客様へのアプローチの仕方が変わりますよね。

例えば、飛び込み営業なんて今は絶対にできない。すでに信用や信頼があること。信用や信頼の連鎖をつなげていくこと。そんな"つながり経済"の力がすごく重要になっていると感じています」

井上――「なるほど、つながり経済の力。今の時代にすごくマッチしていて、求められる力ですね。次回は、アパレル業界における信用や信頼について詳しく聞かせてください」

(次回に続く…)

執筆者プロフィール : 井上一生

税理士、行政書士、ロングステイアドバイザー。税理士でありながら、幾つもの事業を立ち上げてきた連続起業家。SAKURA United Solution代表(会計事務所を基盤に、国税出身税理士・税理士・社会保険労務士・行政書士・弁護士・銀行出身者などを組織化した士業・専門家集団)。SAKURA United Solutionのビジョンである「経営の伴走者 ~日本一の中小企業やスタートアップベンチャーの支援組織になる~」という言葉の基、"100年企業を創る"という壮大な目標をアライアンス戦略で進めている。