奇しくも同時期にフルモデルチェンジしたトヨタ自動車「ヤリス」(2月10日発売)とホンダ「フィット」(2月13日発売)。Bセグメントのコンパクトハッチバックという“クラス”だけでなく、ガソリンとハイブリッド(HV)という2つのパワートレーンを採用している点も全く同じ構成で、さながら「小型車の頂上決戦」(?)の様相を呈している。この2車種を同時期に、ほぼ同じルート(東京都内~千葉県の富津岬)で試乗できたので、エクステリアやインテリア、走りや使い勝手などを項目ごとに比較し、それぞれの特徴を探ってみた。
エクステリア:テーマは「黒豆」対「柴犬」
両車の全長×全幅×全高を見ると、ヤリスが3,940mm×1,695mm×1,500mmであるのに対し、フィットは3,995mm×1,695mm×1,515mmとこちらの方がわずかに大きい。一方、ホイールベースはヤリスの方が20mm長い2,550mmとなっている。
両社のデザイナーに開発イメージを聞くと、ヤリスは「黒豆」でフィットが「柴犬」。ルーフ後方をギュッと絞り、リアフェンダーを張り出すというスポーティーなスタイルをとるヤリスに対し、フィットは無駄のないワンモーションスタイルを踏襲している。ボディスタイル同様にアグレッシブな顔つきのヤリスと見比べると、ワンコのような優しさを感じさせるフィットの顔つきには癒される。近年のホンダは“つり目”のクルマが多かったが、その点でもフィットは新鮮だ。
インテリア:革新の視界に衝撃を受けたフィット
ドライバーズシートに座って、思わず「おーっ!」と声が出たのはフィットの方。フロントピラーが、ガラスを支えるための細い「Aピラー」と衝突荷重を受け持つ「A’ピラー」の2本柱になっていて、その2辺が上で交わり、大きな三角窓を形成する独創的な構造になっている。その結果、ドライバーの水平方向の視界は従来モデルが69度だったのに対し、新型は90度へと一気に広がった。インストルメントパネルは水平・直線基調で、ガラス下端が横一文字に仕切られる。さらにワイパーは収納されていて見えないので、景色の見え方はまことにすっきりしている。
フィットの室内はリラックスできる空間になっている。柔らかな布製パッド、初代「シビック」を思わせる2本スポークのステアリング、バイザーレスメーターなど、シンプルで凹凸の少ない各パーツはセンスのいい仕上がりで、視界の良さにもリンクする。樹脂製マットが骨盤から腰椎まで支えてくれるフロントのボディスタビライジングシートはもちろん、足元広々で厚く柔らかなパッドが使ってあるリアシートも座り心地がいい。90度近くまで開くドアで乗降性も文句なしだ。
一方のヤリスは、抑揚のあるダッシュボード、双眼鏡のような形状のメーターパネル、奥行きのあるドアノブ部など、エクステリア同様にスポーティーでオリジナリティのあるデザインを採用している。37cmの小径ステアリングと従来型より約20mm低い位置にセットされたドライバーズシートにより、ポジションはピタリと決めることができる。大きく傾斜したAピラーと相まって、ちょっとしたスポーツカーのような雰囲気だ。
調整幅があって余裕のある前席に対し、後席は座るとひざ前に余裕がなく、狭いサイドガラスによって閉塞感を感じてしまう。とはいえ、足先を前席のシート下に滑り込ませることができるので、「耐えられない」というほどではない。2+2的な使い方が多いユーザーを対象とした割り切った設計と言えるだろう。
マニュアル式ながらドライバーのポジションを記憶するイージーリターン機能付きフロントシート(Zモデルに標準装備)や、女性や高齢者に優しいターンチルトシート(乗降時に回転させられるシート Z以外にオプション設定)など、フィットにはない機能が付いたシートを選べるのはヤリスの強みだ。