月周回有人拠点「ゲートウェイ」への物資補給業者が決定

米国航空宇宙局(NASA)は2020年3月28日、月周回有人拠点「ゲートウェイ」への物資補給を民間企業に委託する計画について、イーロン・マスク氏率いる「スペースX」を実施業者として選定、契約を結んだと発表した。

これにより、民間の宇宙ビジネスを振興するとともに、2024年から予定されている有人月探査や、さらに将来の有人火星探査が、効率よく進むことが期待されている。

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    ロケットから分離され、月へと向かう「ドラゴンXL」の想像図 (C) SpaceX

ゲートウェイに物資を運ぶ新型ドラゴン補給船

ゲートウェイ(Gateway)は、NASAが国際協力で月を回る軌道に建造を予定している宇宙ステーションで、2024年末までに月に米国の宇宙飛行士を着陸させ、その後も持続的な月面探査を行うことを目指した「アルテミス」計画の拠点として使うとともに、2030年代の有人火星探査の実現に向けた足がかりとすることを目的としている。

ゲートウェイの運用は、NASAをはじめ各国の宇宙機関が担うものの、コスト削減や民間の宇宙ビジネスの振興を目的に、各モジュールの打ち上げや物資の補給の一部は、民間企業に委託することが計画されている。すでにNASAは、国際宇宙ステーション(ISS)の運用においても物資補給を民間に委託しており、大きな成果を出している。

そして今回、NASAは、物資補給を民間に委託する計画「ゲートウェイ・ロジスティクス・サービシズ」に基づき、その実施業者の一社としてスペースXを選定、契約が結ばれた。スペースXはISSへの物資補給を担う企業の1つでもあり、その実績が評価された。

スペースXはゲートウェイへの補給のために、「ドラゴンXL(Dragon XL)」という新型の無人補給船を開発するとしている。同社は、ISSへ補給を補給する無人補給船「ドラゴン」を開発、運用しており、その技術やノウハウをもとに、さらに発展させた補給船になるとしている。

ドラゴンXLの詳細はまだ明らかになっていないものの、与圧・非与圧貨物を搭載するための区画をもち、また自動でドッキングができるNASAドッキング・システムをもつ。従来のドラゴンとは異なり、地球への帰還は想定されていないため帰還カプセルはない。ただ、将来的に月からのサンプル・リターンなどを行うために、帰還能力を追加する可能性はあるという。

打ち上げには世界最大のロケットのひとつである「ファルコン・ヘヴィ」を使い、これによりドラゴンXLは、与圧・非与圧貨物、科学実験装置など、計5t以上の物資をゲートウェイへ運ぶことができるという。その後、ゲートウェイに6か月から12か月滞在するミッションになるとしている。

  • ファルコン・ヘヴィ

    ドラゴンXLを打ち上げることになるファルコン・ヘヴィ(写真はアラブサット6Aの打ち上げ時の時のもの) (C) SpaceX

スペースXのグウィン・ショットウェル社長は「月に舞い戻り、そして将来のさらなる宇宙探査をサポートするためには、大量の貨物を手頃な価格で配送することが必要不可欠です。スペースXは2012年以来、NASAとのパートナーシップに基づき、国際宇宙ステーションにさまざまな物資を送り届けてきました。そしていま、地球の軌道を越え、アルテミス計画のための物資をゲートウェイに運べることを光栄に思います」とコメントしている。

契約額は最大で70億ドルの予定

ゲートウェイ・ロジスティクス・サービシズでは、1社あたり最低2回の補給ミッションを行うことを予定。契約額は最大70億ドルになるという。なお、Spaceflight nowの報道によると、当初はスペースX以外にも複数の企業と契約を結ぶことも考えられていたものの、最終的にはスペースXのみとの契約に落ち着いたという。今後、追加で他社と契約する可能性はあるものの、具体的な計画はまだないとしている。

NASAの深宇宙ロジスティクス計画のマネージャーを務めるMark Wiese氏は「これは人類の探査にとってエキサイティングな新章です。民間の宇宙セクターがもつ革新的な考え方を、ゲートウェイへのサプライチェーンに取り込み、宇宙飛行士たちの活動を確実にサポートしたいと考えています」と語る。

ゲートウェイの建設は2022年開始を予定

現時点で、ゲートウェイの建設は2022年から始まることになっており、電力やスラスターをもったモジュールをはじめ、宇宙飛行士の居住や研究活動に使うモジュールや、物資を保管しておくモジュール、また月に着陸するための着陸船などを次々と結合していくことで造られていく。

そして2024年末までに、「アルテミス3」ミッションで、ゲートウェイを拠点に、アポロ計画以来となる有人月着陸を実施することが計画されている。ただ、最近の検討では、2024年の最初の有人月着陸においては、ゲートウェイを使わないプランも考えられているという。

さらにその後は、月へ行って帰ってくるだけだったアポロ計画とは異なり、月にとどまり続け、持続的な探査を実施。そして、ゲートウェイの運用や月面での探査活動で得たノウハウをもとに、将来的には有人火星探査のためのモジュールも開発。ゲートウェイを使って試験飛行を行ったのち、2030年代には実際に火星へ向けて飛び立つことが計画されている。

一方スペースXは、独自に有人月探査や火星探査計画を進めており、移住のための巨大ロケット「スターシップ」の開発が進んでいる。今回の契約により、その開発や試験のために必要な資金の一部を獲得すると同時に、月へ宇宙機を飛ばすノウハウを、実際の運用を通じて得ることになる。

参考文献

NASA Awards Artemis Contract for Gateway Logistics Services | NASA
SpaceXさんはTwitterを使っています 「SpaceX will launch a variant of Dragon, optimized to carry more than 5 metric tons of cargo to Gateway in lunar orbit / Twitter
https://spaceflightnow.com/2020/03/27/nasa-picks-spacex-to-deliver-cargo-to-gateway-station-in-lunar-orbit/

鳥嶋真也(とりしましんや)

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。

宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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