千日手指し直しの末、菅井竜也八段を破る。最年少タイトル挑戦記録の更新へ一歩前進

第91期ヒューリック杯棋聖戦決勝トーナメント(主催:産経新聞社)の準々決勝、菅井竜也八段-藤井聡太七段戦が、3月31日に関西将棋会館で行われました。10時に始まった対局は、18時24分に千日手が成立。千日手指し直し局はその30分後から始まり、22時36分に藤井七段が勝利を収めました。藤井七段は初のタイトル挑戦へあと2勝としています。

千日手局は振り駒で藤井七段が先手番になり、菅井八段の四間飛車穴熊対藤井七段の左美濃という戦型になりました。盤面中央で戦いが起きると、大駒を取り合う激しい展開に。藤井七段の玉は金銀4枚の銀冠ですが、竜・馬・角ににらまれ不安な恰好。一方菅井八段の玉は金銀2枚ながらも穴熊で、王手のかからない形です。

絶対に詰まない形を生かし、菅井八段は馬を切って藤井玉に食いつきます。深く囲われている菅井玉に攻めが届かないとみた藤井七段は、金銀を埋めて受けることを選択しました。こうなると、千日手は回避できません。18時24分に131手で千日手が成立しました。残った持ち時間は、藤井七段3分に対し、菅井八段は1時間32分でした。

指し直し局は30分の休憩をはさんで18時54分からスタート。千日手になった際、残り時間が少ない側の持ち時間が1時間を切っている場合は、1時間になるように調整が入ります。藤井七段は残り時間が3分だったので、57分が両者に追加されました。指し直し局の持ち時間は藤井七段1時間に対し、菅井八段は2時間29分です。

先後を入れ替えて先手番になった菅井八段の戦型選択はまたしても四間飛車穴熊でした。先ほどは左美濃で迎え撃った藤井七段でしたが、今度は居飛車穴熊に囲います。相穴熊の将棋は争点を見出しにくく、手詰まり模様になりがちです。本局もなかなか戦いの起きない、じりじりとした展開となりました。

2度目の千日手やむなしか、と思われた局面で、菅井八段が果敢に打開します。局面の膠着状態を解く一手で、相手に仕掛けの隙を与える大胆な選択でした。もちろん、この隙を見逃す藤井七段ではありません。歩をぶつけて本格的な戦いが勃発しました。菅井八段は馬を作って香を入手。その間に藤井七段は桂を入手して相手の穴熊の上部から攻めかかりました。

ともに穴熊の金銀をはがし合う激しい戦いのさなか、藤井七段に飛車取りがかかりました。しかしこれを藤井七段は放置。脇目もふらずに穴熊攻略を続行しました。これが好判断で、結局この飛車を取っている余裕は菅井八段にはなく、終局図まで飛車取りがかかったままでした。

さらに藤井七段の攻めは激しさを増します。今度はなんと自玉を守っている銀取りも放置。どんどん相手の穴熊をはがしていきます。菅井八段も金銀を埋めて必死の抵抗。千日手局同様、ここでもまた千日手になるのかと思われました。

しかし、これを寄せ切ってしまうのが藤井七段です。拠点を清算するのではなく、攻め駒を盤上から切らさないように攻めていきます。最後、藤井玉に必至がかかりましたが、そのタイミングでぴったり菅井玉を詰まし上げてしまいました。

終局は22時36分。千日手指し直し局の手数は146手でした。2局合わせて277手の激戦を制した藤井七段は、これで準決勝進出です。相手は郷田真隆九段-佐藤天彦九段戦の勝者となります。

様々な記録を更新してきた藤井七段。この棋聖戦は最年少タイトル挑戦記録を更新するラストチャンスの棋戦です。現在の記録は屋敷伸之九段の17歳10カ月ですが、どうなるでしょうか。一方、最年少タイトル獲得記録を保持しているのも屋敷伸之九段で、18歳6カ月。こちらは棋聖戦以外にも王位戦、王座戦、竜王戦で更新の可能性が残されています。

また、本局で藤井七段の2019年度の対局はすべて終了しました。年度成績は53勝12敗で、勝率8割1分5厘。勝ち数と勝率で1位となったほか、史上初の3年連続勝率8割以上を達成しました。

王将戦であと1勝でタイトル挑戦まで迫った2019年度。ますますの活躍が必至の2020年度の藤井七段の戦いから目が離せません。

2019度も大活躍だった藤井七段。2020年度のさらなる飛躍が期待される
2019度も大活躍だった藤井七段。2020年度のさらなる飛躍が期待される