お酒を飲みはじめた大学生や留学生、フレッシュ世代の社会人など、20代の若者を対象にした体験イベント「二十歳からの日本酒2020 in 渋谷スクランブルスクエア」がこのほど、東京都・渋谷にて開催された。イベントでは、フリーアナウンサーで日本酒通の福澤朗氏をはじめとしたゲストを招き、セミナーやワークショップを実施。立食パーティでは利き酒なども行われた。
このイベントは、「國酒」と呼ばれる日本酒などを酒造する全国約1,750の蔵元が所属する業界団体、日本酒造組合中央会が主催したもの。蔵元と次世代の若者たちが交流し意見を出し合うことで新たな発見をし、楽しく学んだことを若者ならではの言葉で同世代に発信してほしいというねらいで実施されている。この日は定員の倍以上の申し込みがあったといい、若者への日本酒人気の高まりも感じられた。
第一部の日本酒セミナーには、フリーアナウンサーで日本酒に関する書籍も出版しているほどの日本酒通である福澤朗氏、参加者と同世代の20代で旅する酒造家の立川哲之氏、愛媛県の蔵元・石鎚酒造の越智浩専務取締役が登壇しクロストークを展開した。また、総合MCも酒匠(さかしょう)で日本酒学講師の資格を持つタレントの吉川亜樹さんが務め、日本酒好きの面々が集まった。
今が最も日本酒がおいしい時代
福澤氏によれば、日本酒は今が一番おいしい時代なのだという。今の20代はとても恵まれていてうらやましい限りだと話した。福澤氏が20代の頃は、正直あまり日本酒はおいしくなく、同じ安い価格帯のお酒であればワインなどのほかのお酒を選んでいた。そのため、若い頃は日本酒にはハマらなかったという。
そんな福澤氏を変えたのが奥さんとの出会いで、福澤氏の奥さんは初任給で一升瓶を買うほどの日本酒好き。そんな奥さんと一緒にお酒を楽しむようになり「ハマればハマるほど日本酒はおいしくなる」と、どんどん日本酒通になっていった。
そんな福澤氏の愛用品が、錫(すず)で作られたちろりやお猪口など。錫は日本酒をまろやかにしてくれるとのことで、味わいがワンランクアップするという。「一度買えば一生使えるものなので、ぜひ」と若者たちにお勧めしていた。
旅する酒造家と言われている立川氏は、冬は酒蔵に住み込みで働き酒造りをし、そのほかの季節は全国の酒蔵をめぐる旅をしており、現在19都道府県627蔵を訪れているという。
立川氏が日本酒に惹かれるきっかけとなったのは、岩手・陸前高田で震災のボランティアをしていたときのこと。陸前高田にあった酒蔵も流れてしまったが、ボランティアで祭の手伝いをした際に、地元の人に日本酒を勧められたという。
その当時、日本酒は臭くて嫌いだったが、勧められるままに飲んでみると、すごくおいしかったと明かす。そして「おらが町の酒が世界一うまい」と話すの地元民の姿がとてもカッコよかったと振り返る。酒蔵を含め、町が流されてしまっても、自信満々で勧められるのが日本酒で、日本酒は地域の誇りになるものだと感じたのだという。
しかしながら、酒蔵は平成30年の間に800ほど減少している。そんな現状を変えたいと思いつつ、自分自身が酒蔵のことを知らない。そのことが酒蔵巡りにつながっているとのこと。たくさんの酒蔵でお酒を味わってきたが、「カワイイ女の子を見ると忘れないでしょ?」とその特徴はしっかりと覚えていると話した。
石鎚酒造の越智氏は、造り手の立場から「日本酒は季節感を大事にしています」と日本酒の味わい方についてトークを展開した。日本には四季があり、食材にも旬がある。その旬に寄り添うお酒を酒蔵は造っており、春のお酒、夏のお酒と季節ごとに展開をしていると説明。また、日本にはたくさんの蔵元があるが、その土地ごとに、その土地にしかない食材がある。越智氏の蔵元がある愛媛県であれば「道後温泉を楽しんで、瀬戸内で獲れた鯛と一緒に」など、その土地ならではの楽しみ方を提案した。
日本酒の独特な香りについても言及し「よくフルーティーという言葉が使われるが、香りにもいろいろある」と解説。香りは微生物の働きにより生まれ、酵母が働きやすい環境を作るのが蔵元の仕事だと話した。そして、その土地の米の味わいがお酒に反映されていて、人間と同じですべて違う。その違いを若者たちにも楽しんでほしいと願った。
2020年は東京五輪も開催され、海外から多くの人が日本に訪れる。福澤氏は「日本人として、国の名前を背負った日本酒に詳しくないのは恥ずかしいこと。日本酒は神事や祭、暮らしや文化に密接にかかわっているものなので、ぜひ体験してアピールしてほしい」と若者にメッセージを送った。
日本酒の未来を考えるディスカッション
第2部では、集まった若者たちでグループを作って「日本酒の今と未来」についてディスカッションが実施され、それぞれの考えをまとめて発表した。
まとめられた意見の中には「洋菓子と日本酒、クラブでテキーラの代わりに日本酒など、自分たちの好きなものと日本酒をくっつけたらどうか」「日本酒の瓶は大きくて飲みきれないので、小さな瓶にして、その瓶をコレクションできるようなデザインにしてみたら」「3年後までにお気に入りの1本や、推しの1本を見つけたい」など、日本酒への提案やそれぞれの決意表明など、さまざまな意見があがっていた。
ディスカッションの後は、それぞれにお猪口を構えて利き酒や料理とのマッチングなどを体験した。
各ブースでは香りを4タイプに分けた「日本酒と香りの体験」や「蔵元交流コーナー」「フローズン酒コーナー」など、さまざまな趣向で日本酒を試飲。また、「りんごのムースの生ハム巻き りんごジャム添え」や「八角香る 焼豚の生春巻き」など、日本食以外の料理とのペアリングなども試食できた。
吟醸香とスパイスやハーブの香りとのマッチングなど、参加者たちは、香りの違いや意外な味わいに感嘆の声をあげながら日本酒を楽しんでいた。