働き方改革の影響で、パートタイムや契約社員、派遣社員など、さまざまな雇用形態の従業員が混在している会社は少なくありません。そんな中、仕事内容は同じなのに、正社員と給与などの待遇が異なるのはおかしいという不満の声もあるようです。

このような不均衡を是正するため、2020年4月から「同一労働・同一賃金」(パートタイム・有期雇用労働法)が施行されます。非正社員の働き方や待遇はどのように変わるのか、その内容を確認してみましょう。

  • 2020年施行の「同一労働・同一賃金」で非正社員の待遇はどう変わる? ※画像はイメージ

パートタイム労働者の待遇、これまでどのように保護されてきた?

普段働いていると意識することは少ないかもしれませんが、会社などに雇用される際、労働者は雇用者との間に労働契約を締結しています。

「仕事をする場所と仕事の内容」、「始業・終業の時刻や所定時間外労働の有無、休憩・休日・休暇」、「賃金」、「退職に関する事項」など、さまざまな労働条件を契約の中で明示することが、労働基準法によって雇用者に義務付けられているからです。

このルールは正社員だけのものではなく、パートタイム労働者にも適用されます。しかしながら、パートタイム労働者は労働時間が短いせいか、正社員と比べてさまざまな待遇面で不均衡となるケースも多くなりがちです。そのため、働き始めた後に労働条件に関して疑問が生じ、トラブルになることも少なくありません。

そこで、これらを是正する目的で「パートタイム労働法」が1993年に制定・施行されました。その後、2008年、2015年と2度の改正があり、現状としては主に下記の4つを労働者に明示することが、雇用者に義務付けられています(口頭ではなく文書の交付が必要。労働者が希望した場合には電子メールやFAXでも可)。

・昇給の有無
・退職手当の有無
・賞与の有無
・相談窓口(※)

※組織であるか、個人であるかを問わないが、パートタイム労働者からの相談に応じ、適切に対応するための必要な体制を整備(例えば相談担当者を決めておくなど)する必要がある

「同一労働・同一賃金」導入の背景と流れ

政府が"働き方改革"として、労働環境や雇用条件の改善などのさまざまな取り組みを行っていることは、ご存じの人も多いでしょう。2019年4月1日からは、「働き方改革関連法」が順次施行されており、例えば残業時間の上限が定められたり、年次有給休暇取得が義務付けられたりしています。

この流れの中で前述の「パートタイム労働法」も改正され、2020年4月から(中小企業は2021年4月から)、正規・非正規雇用労働者の不合理な待遇差を禁止する「同一労働・同一賃金」が導入されることになったのです。

またこれまでの「パートタイム労働法」では、対象者を正社員よりも働く時間が短い「パートタイム労働者」に限っていましたが、今回の改正で「有期雇用労働者」にも対象を拡大。

名称も新たに「パートタイム・有期雇用労働法」※となり、正社員と働く時間の変わらない契約社員や派遣社員も、法律で守られることとなりました。

※正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」

「同一労働・同一賃金」の具体的な内容は?

そもそも「パートタイム労働法」が正社員との待遇差を是正する目的で制定されたものであることは前述したとおりです。しかし実際の労働現場では、労働状況が同様であっても、正社員と非正社員では賃金や福利厚生などの待遇差はいまだにあるのが実情です。

例えば、顧客に対して何らかの職務上のトラブルがあっても、「契約社員だから」という言い訳は許されない場合がほとんどでしょう。つまり職務に対する責任は同じです。にもかかわらず、例えば基本給などが異なれば、それは不合理であると言わざるを得ませんね。

そこで法律の改正に合わせ、どのような待遇差が不合理にあたるのか、具体例を示した「同一労働同一賃金ガイドライン」が策定されています。

例えば基本給の決め方については、下記のように記されています。

「基本給が、労働者の能力又は経験に応じて支払うもの、業績又は成果に応じて支払うもの、勤続年数に応じて支払うものなど、その趣旨・性格がさまざまである現実を認めた上で、それぞれの趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない」。

正社員であっても、非正社員であっても、基本給を定める基準において同じ条件を満たしていれば、支給額は同一にしなければならない、としているのです。

もちろん全ての労働現場で当ガイドラインの例が当てはまるとは限りませんが、雇用主はこのガイドラインを参考に、基本給や各種手当、賞与基準等を整備していくことになります。

なお雇用主は、雇用時に労働者と結ぶ労働契約の中で、労働条件や待遇に関する事項を明示する必要がありますが、その決定や待遇差について労働者から質問された場合には、内容や理由を説明することも義務付けられます。

もちろん、その説明を求めた労働者に対して、その後の不利益となる取り扱いをすることは禁止されています。

「同一労働・同一賃金」の導入で非正社員が得られるメリットは?

同一労働・同一賃金の導入によって、パートや派遣、契約社員などで働く多くの人にとっては、さまざまなメリットが期待できそうです。

例えば、これまで非正社員に対する賃金基準を「一律○○円」としていた企業で働いていた人にとって、職務の内容や成果、意欲、能力または経験に基づいて給与などが決定されるようになれば、働く意欲はさらに上がるでしょう。

また、教育訓練も正社員と同様に実施されることになります。職務遂行上必要な研修や教育訓練を従業員に対して提供する会社は多いですが、今後は非正社員にも同様に実施しなければいけません。

働く側にとってはスキルアップが期待できそうですね。例えば経理業務に就くケースでは簿記研修が行われる場合がありますが、同じポストに就く非正規社員にも同様に実施されることになります。

他には、これまで配慮義務とされていた福利厚生施設の利用が、改正後は義務規定に強化されます。このように、今回の改正は非正社員の労働に関するさまざまな面で改善につながりそうですが、労働者自身もより良く働く意識はしておきたいものです。

待遇面で均衡を求める場合、職務内容や責任、働く姿勢や意欲なども正社員と同様のものが求められるのが「同一労働・同一賃金」の考え方とも言えます。働き方改革で多様な働き方が可能になりつつある中で、雇用形態にかかわらず活き活きと働くために、自分自身の働き方を磨いていってください。

著者プロフィール: 續恵美子

女性のためのお金の総合クリニック「エフピーウーマン」認定ライター
ファイナンシャルプランナー(CFP)

生命保険会社で15年働いた後、FPとしての独立を夢見て退職。その矢先に縁あり南フランスに住むことに--。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。生きるうえで大切な夢とお金のことを伝えることをミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などで活動している。エフピーウーマンでは、女性のための無料マネーセミナー「お金の(学び場)」を無料開講中!