教育者だったドラッカー
ピーター・ドラッカー。ビジネスの世界に身を置く人なら、その名を知らない人はいないでしょう。ドラッカーは、世界からマネジメントの父と称され、企業だけではなく、政府、 公共、非営利組織、医療機関、あるいは学校などの組織について、様々な研究を重ね、現場の人々にアドバイスをして、各組織が活動を通して、成果をあげることを助けてきました。
ドラッカー自身も企業に対するコンサルタントとしての活動だけではなく、30年以上にわたって大学の教授として教育に深く関わってきた人です。教育関係者をはじめ、多くの人がドラッカーの影響を受けました。私もまたドラッカーの影響を受けた一人です。
われわれは何をすべきか
「妥協をしない親が協調できない」(59歳男性)、「やる気のあるベテランさんたちと、忙しい若い主婦との間で、板挟みになった」(53歳女性)、「兄弟がいる人はしなくていい的な流れに怒りを感じた」(45歳女性)、「参加者が少なく無関心の人が多くモチベーション向上に苦労した」(男性68歳)。
これは、マイナビニュース読者に、PTAに参加した保護者からの声です。
※調査期間2019年10月11~12日
保護者の、少しでも今より良くしていきたいという献身的な思いが伝わってきます。私たちの社会は、このように真剣に物事に向かい合い、手を取り合って物事を良い方向に進めようとする人たちによって支えられていることをあらためて痛感します。また、保護者の方々に感謝の気持ちをおくると同時に、教職員の方々に敬意と念をおくりたいと思います。
保護者の方々、また、教職員の方々と同じ想いに立って、概念論にとどまらず、具体的に「何をどうすべきか」ということについて考え、お伝えさせていただきます。
PTAの使命は何か
日本におけるPTAとは、ご存じのとおり、各学校で組織された、保護者と職員による社会教育関係団体のことです。また、任意加入の団体であり、結成や加入を義務付ける法的根拠はなく、いわゆる生徒のためのボランティア活動です。
人が集まるということは、そこには必ず何らかの共通目的があります。
組織とは人の集まりです。したがいまして、共通目的を見失ってしまえば、人がまとまることなく、人と人が力を合わせることにも至りません。お互いに手を取り合うのではなく、お互いが向かい合てしまえば、片方は「言いたいことを言う」ことなり、もう片方は「言われるがまま」となるという関係になってしまいます。
本来、協力関係にあるはずのPTAのようなコミュニティは、「敵対関係」にすらなってしまう可能性を排除できません。
PTAとは、先程お伝えしたように、生徒のために組織された保護者と教職員による集団です。その一方で、保護者は保護者としてのものの見方があり、保護者は保護者としての理解があります。それぞれのものの見方、それぞれの考えがあって当然です。
教職員は教職員としてのものの見方があり、教職員は教職員としての理解があります。しかし、お互いが、それをぶつけ合ってしまえば、PTAという組織は、かえって大勢の人の不満を募るだけの場になってしまいます。それでは、本来の目的を果たせません。
生徒のために力を合わせて物事を良い方向に進めたいー。誰もが、そう願っているはずです。生徒のために、保護者と職員が手を取り合って活動を進めていくためには、どうすればいいのでしょうか。
教育者のひとりであり、保護者のひとりでもあったドラッカーは言っています。
あらゆる組織において、 共通のものの見方、理解、方向づけ、努力を実現するには、「われわれの事業は何か」を定義することが不可欠である。
ピーター・ドラッカー
ここでいう、「あらゆる組織において」とは、学校と言う組織も、もちろんPTAも含まれます。「あらゆる組織」だからです。
「事業」という言葉を聞くと、つい企業をイメージしてしまいがちですが、「事業」とは「お役にたてる何か」を意味するものであって、企業だけに使われる言葉ではありません。
また、「われわれ」という表現に注目したいと思います。PTAに置き換えるならば、「われわれ」とは「保護者と教職員のこと」です。「われわれの事業は何かを定義することが不可欠である」とは、「共通目的を明らかにしなければならない」ということです。 さきほど紹介したドラッカーの言葉を要約すると、
"保護者と教職員は、保護者と教職員の共通のものの見方を見出し、保護者と教職員による共通の理解をつくり出し、保護者と教職員による共通の方向づけを決め、保護者と教職員による努力を実現するには、共通目的をはっきりさせなければならない。"
ということです。保護者と教職員は、けっして、向かい合うのではなく、保護者と教職員は、ともに同じ方向を向かなければならないのです。それが、PTAという組織が機能するスタート地点ではないでしょうか。
次回は保護者と教職員が取り組むべきことについて、ドラッカーの教えを踏まえて解説します。
著者プロフィール: 山下淳一郎
トップマネジメント代表取締役
ドラッカー専門のコンサルタント。東京都渋谷区出身。経営者にドラッカーの研修を行なっている。著書に『新版 ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方』(ともに同友館)、『ドラッカー5つの質問』(あさ出版)などがある 。