日本半導体製造装置協会(SEAJ)および国際半導体製造装置材料協会(SEMI)が12月3日に発表した2019年第3四半期の半導体製造装置市場は、前四半期比12%増149億ドルとなった(前年同期では6%減)。前四半期比でプラス成長となるのは2018年第1四半期以来、6四半期ぶりとなる。

地域・国別トップは台湾

地域・国別では、台湾が前四半期比21%増の39億ドルとなり、前四半期1位の中国を抜いて、2四半期ぶりに1位に返り咲いた。前四半期3位の韓国は同15%減の22億ドルにとどまり、同47%増の24億9000万ドルと大きく伸びた北米に抜かれ、4位に後退した。

韓国が4位以下となるのは、2016年第2四半期以来20四半期(5年)ぶりとなるほか、北米が3位以内となるのは、2015年第2四半期以来17四半期(4年3カ月)ぶりとなる。また欧州は、売上規模を落とし続けているほか、日本は、前年同期比では30%減となったものの、やはり前四半期比では21%増と回復傾向が見えてきた。

ちなみに、この統計はSEAJが日本市場を、SEMIがそれ以外をカバーし。共同で世界80社以上の半導体製造装置メーカーから毎月提供されるデータを集計したものである。

  • SEMI

    2019年第3四半期における地域・国別の半導体製造装置市場 (出所:SEMI/SEAJ、2019年12月)

IntelのCPU不足が引き起こした北米の躍進

北米が台湾、中国に次ぐ規模となった点は注目に値される。北米の事情に詳しい業界関係者によると、Intelが14nmプロセスのCPU(MPU)の増産に向け、設備投資額を増額したのが主因らしい。なぜ最先端の10nmではなく14nmへの投資を増強したのか。

米Dell TechnologiesはじめPCメーカー各社はIntel製の法人向けおよび個人向けCPUチップが潤沢に入手することが困難な事態を受け、2019年通期のPC売り上げ見通しを引き下げ始めている。Intelの最先端プロセスとなる10nmの製造歩留まりが思うように向上していないために計画通りの出荷数量に達していないことが背景にある。世界的にPC需要は伸びてはいないので、需要の増加による品不足ではなく、Intelからの出荷数量が需要を満たすほどに達していないということである。

歪みSi、High-k/Metal gate(HKMG)、Trigate(FinFET構造)などの新材料や構造を他社に先駆けて量産に適用し、14nmプロセスまでプロセス微細化の先頭を走っていた同社だが、10nmプロセスでも他社に先駆けでBEOL(多層配線工程)の一部配線にCo、バリアメタルにRu/Coを採用したものの、これらの新材料を用いた工程で予想外のトラブルが発生して長期にわたり歩留まりが上がっていないと業界関係者は見ている。

そこでIntelは、先端となる10nmプロセスを使って製造する予定だったCPUの多くを、習熟曲線に乗って歩留まりが極限まで向上している14nmプロセスに振り替えて製造する方向へと戦略を転換した。このため、14nmラインに対する設備投資の増額を決定、積極的な増産体制の構築を図ってきた。このような事情が今回の北米地域における半導体製造装置の売上高が増加を引き起こすこととなったと考えられる。

Intelは、14nm CPUの一部を外部の大手ファウンドリに製造委託することを検討しているとも伝えられているが、同社が微細化競争で先頭を走れなくなれば、最新技術の秘密を守れるIDMのメリットが生かせず、シリコンバレーのほかのロジックIC企業同様にファブレス(あるいはファブライト)になってもおかしくはないとみる向きもある。

先行き不透明の韓国半導体メモリメーカー

一方、地域・国別で4位に転落した韓国をけん引してきた2大メモリメーカーは、2018年秋のメモリバブル崩壊により、売上高、利益とも大きく落ち込む状況に陥り、設備投資を積極的に進める状況ではなかった。

2019年末の現在、前四半期比の売上高は回復の兆候を見せているものの、IntelのCPUが不足している影響を受けて、PCメーカー各社が予定通りのPC製造を進められていないことをから、併せて必要となるDRAMやNANDの需要も伸びない可能性があり、米中貿易摩擦の悪影響と相まって、メモリビジネスの先行きの不透明さが増す事態になっている。そのため、市場調査会社などの報告では、半導体メモリ市場は2020年には回復すると予想されているが、韓国のメモリメーカー各社は設備投資に対して慎重なスタンスを示しているという。

日本のマスコミの一部には、日本政府による半導体およびディスプレイの製造に必要な材料3品目の輸出厳格化を、韓国メモリメーカーの業績不振の原因に挙げる向きもあるが、韓国では日本に頼らないサプライチェーン構築し始めているうえに、3品目ともすでに経済産業省から輸出許可が出ており、輸出規制の影響はでていないと見るべきである。

韓国政府が進める「素材・部品・装備(製造装置と設備を指す)国産化」というのは、決して日本企業を敵に回すのではなく日本を含む外資企業の韓国内生産を含んでいる。先日の台湾GlobalWafers傘下のMEMC韓国第2工場(300mmシリコンウェハ量産工場)竣工式へわざわざ文大統領が参列したことを見れば、そうした意図を見て取れる。今後は、韓国政府の日本半導体製造装置・素材メーカーの誘致がさらに活発化する見込みであり、すでに韓国に進出している日系を含む外資系半導体素材メーカーの韓国子会社や合弁企業(薬液、フォトレジスト、エッチングガス、透明フィルム、シリコン基板、部品など)は増産体制を敷きつつあるという。

なお、台湾が半導体製造装置市場でトップに返り咲いたが、これはTSMCが好調な7nmプロセスの増産に向けて設備投資を進めたほか、2020年の商用生産が始まるEUVリソグラフィ装置(オランダASML製、1台150億円程度ともいわれている)を本格導入した5nmプロセスの準備のための設備投資によるものと思われる。