日本のアニメやキャラクターIPが、国内だけでなく海外でも大きな存在感を放つようになっている。配信サービスやSNSの普及によって、日本で生まれた作品が世界中のファンにほぼ同時に届く時代になった今、放送局にとってもIPビジネスの重要性はますます高まっているのだ。

そうした中、テレビ東京は、IPプロデュース事業を展開するMintoとの資本業務提携を発表した。この提携は、テレビ東京がMintoの第三者割当増資を引き受けて出資するもので、両社は今後、アニメやキャラクターをはじめとしたIPの国内外展開を強化していく。

本稿では、「なぜテレビ東京が今、Mintoと手を組むことを決めたのか」に迫る。

今回の提携の狙いや、東南アジアにおけるIPビジネスの可能性、さらに「シナぷしゅ」やアニメ作品の海外展開について、テレビ東京 取締役 アニメ、国際事業担当の廣部琢之氏とMinto 代表取締役の水野和寛氏に話を聞いた。

  • 左からテレビ東京 取締役 アニメ、国際事業担当の廣部琢之氏とMinto 代表取締役の水野和寛氏

    左からテレビ東京 取締役 アニメ担当の廣部琢之氏とMinto 代表取締役の水野和寛氏

テレビ局の枠を越え、コンテンツの価値を最大化する

テレビ東京グループは、長期ビジョンとして「テレ東 VISION2035」を掲げている。その中で重要な柱となっているのが、コンテンツ価値の最大化だ。

廣部氏は「どうしても放送局は、放送番組を作ることを中心に考えがちである」とした上で、「これから求められるのは、番組を作って終わりではなく、その作品やキャラクターをどのように広げ、長く楽しんでもらうかという視点」だと語る。

同社では「CaaS」という考え方を掲げている。これは「Contents As A Service」の略で、コンテンツを起点に、放送、配信、商品化、イベント、海外展開などへ広げていく戦略だ。

「テレビ番組だけにこだわるのではなく、コンテンツを作り、プロデュースしていく力を高めていきたいと考えています。どのメディアで届けるのか、どのサービスとして展開するのかにこだわらず、楽しんでもらえるものを作っていきたいです」(廣部氏)

  • テレビ東京のIPビジネスについて語る廣部氏

    テレビ東京のIPビジネスについて語る廣部氏

一方で、すべてを自社だけで担うことは難しい。特に海外展開やデジタル領域では、現地の市場感覚や運用ノウハウを持つパートナーの存在が欠かせない。そこで白羽の矢が立ったのがMintoだったのだという。

Mintoに感じた「作品とファンに寄り添う姿勢」

Mintoは、マンガ、アニメ、キャラクターなどのIPを起点に、企画・プロデュース、ライセンス、マーケティング、海外展開まで幅広く手掛ける企業で、タイ・ベトナム・中国にも拠点を持ち、東南アジアを中心としたIP展開に強みを持つ。

廣部氏は、Mintoの魅力について「企画からプロデュース、コンテンツの運用まで、多岐にわたってものづくりをしている点」を挙げる。テレビ東京自身も、作品づくりを大切にしてきた会社のため、両社には近い価値観があったという。

さらに印象的だったのは、Mintoが「ビジネスのため」だけでなく「作品のため、ファンのため」に向き合っているように見えたことだという。

「Mintoの方が登壇するセミナーを聞いたことがあるのですが、すごく作品に寄り添っていると感じました。単にビジネスとして広げるのではなく、作品やファンに対して純粋に向き合っている。その姿勢が、テレビ東京が大切にしているものと近いのではないかと感じていました」(廣部氏)

配信とSNSが変えた海外展開 #「シナぷしゅ」は東南アジアでどう広がる?

かつて日本のテレビアニメを海外で届けるには、現地の放送局に番組を販売し、放送枠を確保する必要があった。つまり、作品が海外のファンに届くまでには時間も手間もかかり、間口も限られていた。

しかし、廣部氏によると「現在は状況が大きく変わっている」という。

配信サービスの普及によって、日本で放送された作品を、海外のファンが大きな時差なく楽しめるようになったことや、WebニュースやSNSを通じて、作品に関する話題も同じタイミングで世界中に広がっていくという変化があった。

このような背景から、日本アニメの海外人気は、大きな広がりを見せており、その流れは東南アジアにも波及しているという。

「日本の作品を、日本とそれほど時差なく楽しめる環境が整ってきました。番組だけでなく、WebニュースやSNSを通じて、話題が海外のお客さまにも届きやすくなっている。それが、さまざまなチャレンジの背中を押してくれています」(廣部氏)

今回の提携で、注目されているのが乳幼児向けIPである「シナぷしゅ」の海外展開だ。テレビ東京はすでに、東南アジア向けにSNSマーケティングを開始している。

「シナぷしゅ」は、乳幼児向け番組として日本国内でも独自の立ち位置を築いてきており、子どもだけでなく、育児をする親に寄り添うコンテンツであることも特徴だ。

  • 「シナぷしゅ」のイメージ

    「シナぷしゅ」のイメージ

東南アジアでは、乳幼児向けの日本発キャラクターIPはまだ多くない一方で、日本とは異なり、子ども人口や若年層の厚みがある国も多い。

テレビ東京では「シナぷしゅ」は「親子向けIPとして、今後広まっていく可能性は大きい」と期待を寄せているという。

「たくさん広げる」より「熱量を届ける」

水野氏は、IPを扱う上での課題として「熱量の分散」を挙げる。

多くのIPを預かり、展開する数が増えれば増えるほど、ひとつひとつの作品に向き合う熱量が薄れてしまうことがある。だからこそ、今回のテレビ東京との提携では、単に数を追うのではなく、作品ごとに丁寧に向き合うことを重視したいという。

「たくさんやることももちろん大事ですが、それ以上に、ちゃんと熱量が届けられるようにしたい。ライセンスもブランディングも、キャラクターごとにしっかりやっていくことが大事だと思っています」(水野氏)

  • 日本におけるIPビジネスについて語る水野氏

    日本におけるIPビジネスについて語る水野氏

近年では、各放送局がアニメやIPビジネスに力を入れる動きが強まっている。これについて廣部氏は「危機感もあるが、チャンスでもある」と語る。

かつてアニメは、ドラマやバラエティとは少し違う特別なジャンルとして見られることもあった。しかし現在では、アニメは国内外で広く楽しまれる一般的なエンターテインメントになっている。

日本のIPビジネスを牽引してきたテレビ東京としては、他局がアニメに注力することで、業界全体の注目度が高まっていることをチャンスと捉えており、テレビ東京社内でもアニメへの期待がさらに高まっているという。

既存IPを広げ、新しいIPも生み出す

今後、テレビ東京とMintoは、既存IPの展開だけでなく、新たなIP開発にも取り組んでいく考えだ。

廣部氏は、既存のコンテンツを「5を10にする」「10を20にする」ように広げていく作業と、「ゼロから新しいIPを生み出す作業」を両輪で進めたいと話す。

Mintoが持つキャラクター開発やマーケティング、デジタルプラットフォームの知見は、その両方に生かせる可能性があるという。

テレビ局として培ってきたコンテンツ制作力と、Mintoが持つIPプロデュース力、海外展開力、デジタル運用力。この組み合わせによって、テレビ東京のIPビジネスは新たな段階に入ろうとしている。

放送番組を作るだけでなく、作品を育て、ファンとつながり、国内外で長く楽しんでもらう。今回の提携は、テレビ東京が放送局の枠を越えて、IPプロデュース企業として進化していくための一手である。

作品をどう広げるか。そして、ファンの熱量にどう応えるか。テレビ東京とMintoの挑戦は、これからの日本発IPビジネスのあり方を示すものになりそうだ。