俳優・生田斗真主演できょう12日にスタートするドラマ『俺の話は長い』(日本テレビ系、毎週土曜22:00~)が業界内で話題になっている。その理由は、プライム帯の連ドラでは異例の“30分×2話”だから。
このところ日テレは、2クールの長編ミステリー『あなたの番です』のほか、10日間をほぼ1話1日ペースで描いた『3年A組―今から皆さんは、人質です―』を手がけるなど、大胆な構成のドラマを手がけてきたが、“30分×2話”の異色さは飛び抜けている。
どのような狙いや勝算があり、業界にどんな影響を与えるのだろうか。
■「ハイテンポ1時間」はハードルが高い
同作を手がける櫨山裕子プロデューサーは、“30分×2話”の理由に「世の中のテンポはすごく早くなっていて、他にもメデイアがいっぱいある中で、1時間ドラマを見る視聴者側の覚悟に、腰の重さがあるんじゃないかと思ってるんです。30分って丁度いいサイズで、気軽な感じの見やすさがある」を挙げた。
確かに、ネットの普及やSNSの浸透、エンタメの多様化と細分化などによって人々の目にふれる映像コンテンツが増えた結果、気軽に見られる短尺を選ぶ人は少なくない。中には「テレビ番組は長すぎて見られない」「1時間も使いたくない」という厳しい声もあるくらいだ。
その傾向はYouTubeなどのネット動画のヘビーユーザーだけでなく、テレビドラマが好きな人にもジワジワと広がりつつある。たとえば、『あなたの番です』を「反撃編」から見た人の中には、伏線を散りばめたミステリーであるにもかかわらず、ホームページにアップされた各話の「5分でわかるダイジェスト」だけを見て放送に追い付いた人も多かったという。
また、櫨山プロデューサーは「テレビドラマのテンポは、かつてに比べてずいぶん早くなっている」とも語っている。実際、スマホやパソコンとの“ながら視聴”が増えるなど、「テレビ画面への集中力が落ちている」と言われる中、わかりにくい人間の感情よりも、わかりやすい展開の変化を優先させたハイテンポの作品が大半を占めるようになった。
ただ、「次々に展開が変わるハイテンポなドラマを1時間見るのは疲れる」という視聴者も少なくない。言わば、見る前の段階からハードルの高さを感じてしまうのだろう。一方でテレビ局としては、現在の番組表を考えたとき、かつてのような30分番組は作りにくくなっている。だからこそ“30分×2話”がほどよい落としどころになるのではないか。
■短尺コンテンツは中高年層にもおなじみ
「短尺の映像コンテンツに慣れているのは若年層だけ」と思われがちだが、テレビ番組に関しては若年層から中高年層までの幅広い世代になじみがある。
たとえば、現在放送されているもので言えば、1話15分のNHK朝ドラ、1話20分のテレビ朝日系昼ドラ(帯ドラマ劇場)、『サザエさん』『ちびまる子ちゃん』(フジテレビ系)や『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』(テレビ朝日系)などのアニメ。これらを長年親しんできた人々は多いだけに、中高年層にとって“30分×2話”は「むしろ懐かしい」と感じるかもしれない。
とりわけ『サザエさん』などのアニメは1回で複数話放送される上に、家族をモチーフにしているという2点で、コンテンツとしてのベースは『俺の話は長い』と似ている。日テレにしてみれば、「『サザエさん』などのように家族そろって気軽にみてほしい」の思っているのではないか。
その意味で『俺の話は長い』の鍵を握っているのは、家族の会話劇。31歳ニートで「屁理屈の天才」の岸辺満(生田斗真)を中心に、満の母で2人の子どもを女手一つで育てた岸辺房枝(原田美枝子)、満の姉・秋葉綾子(小池栄子)、綾子の夫・秋葉光司(安田顕)、綾子の娘・秋葉春海(清原果耶)の5人が、30分の中でどんなかけ合いを見せるのか。
主に家が舞台となるだけに、小劇場のような距離感でのタイトな芝居が期待できそうだ。
■『監察医 朝顔』『今日から俺は!!』との共通点
前述した『サザエさん』のような「1回で複数話を見せる」という観点で他のドラマに目を向けると、昨秋に放送された『深夜のダメ恋図鑑』(テレ朝系)のような深夜帯の作品がほとんど。また、同じく深夜帯に放送された『ラブラブエイリアン』(フジ系)がFOD(フジテレビオンデマン)で先行配信されたように、動画配信サービスと連動させる作品も多い。
日テレの系列会社であるHuluで先行配信され、地上波でも深夜帯に放送された『架空OL日記』『ニーチェ先生』なども、はっきり分けてはいないが、事実上「1回で複数話を見せる」ような構成の作品だった。
つまり「1回で複数話を見せる」という構成は、深夜帯やネットで見るドラマとしてはすでに定着していたのだが、『俺の話は長い』の挑戦によって、その波がいよいよプライム帯にも押し寄せたことになる。
ただ、実はプライム帯のドラマでも、はっきりと複数話に分けているわけではないが、それに準ずるような構成の作品もいくつか放送されている。
たとえば、先月まで放送された『監察医 朝顔』(フジ系)は、法医学モノでありながら事件をテンポよく約30~40分で解決させ、残りの10~20分で家族パートをじっくり描いていた。はっきりと分けてはいないが、法医学パートと家族パートの2本立てだったのだ。
日テレのドラマで言えば、昨秋に盛り上がった『今日から俺は!!』の構成も見逃せない。表面上は1つの作品なのだが、その内容はツッパリパート、アドリブギャグパート、恋愛パートの3本立てにも見えた。
「今後プライム帯で短尺×複数話のドラマが増えるかどうか」は、『俺の話は長い』の結果と評判次第だろう。しかし、同作の結果と評判に関わらず、『監察医 朝顔』『今日から俺は!!』のような複数のパートを見せるドラマは増えていくのではないか。
刑事、医療、弁護士、科捜研などの60分1話完結に偏るなど、多様性を失いつつあるドラマ界にとって、『俺の話は長い』の“30分×2話”が素晴らしいトライであることに疑いの余地はない。まずは他局とは一線を画す日テレの挑戦を称えるべきだろう。
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。