学生が就職前に、企業で就業体験をすることで様々な業界や職種研究に役立てる「インターンシップ」。現在会社勤めをしている人の中にも、経験したことがある人も多いはず。そんなインターンシップについての新しい試みが実施されたので取材してきた。

  • グループワークで話し合った意見を各チームごとに発表

"理想のインターンシップ"とは何か

この取り組みは、美容室用ヘア化粧品専門メーカー「ミルボン」(以下・ミルボン)と、学生が立ち上げたスタートアップ企業「dot」(以下・dot)のコラボにより、ミルボン本社で8月26・27日の2日間にわたって行われたもの。

現在、多くの企業でインターンシップが行われているが、既存のインターンシップに不満を感じている学生も多いという。参加してみたものの結局は単なる説明会になっていたり、架空のテーマで企画を考えることなどが多いため、なかなか具体的な仕事の内容がわからない、参加した学生と対応する社員の数が伴わずに、ちゃんと自分のことを理解してもらえているのか? という気持ちを感じる、等々。企業側の観点からは、限られた時間の中で仕事を理解してもらうことは難しく、自社のことが記憶に残るような内容ができているのか? 学生たちが本当の自分を出しているのか? といった漠然とした不安があるとのこと。

学生、企業共にそうした不安の中で名ばかりのインターンシップを行ってしまうのは、せっかくの貴重な機会がもったいない。そこで、双方の立場から「理想のインターンシップ」を作ってしまおう、ということで今回の企画が実現したそうだ。

300名のエントリーから選抜した23名の学生が参加

dot代表の冨田侑希氏によると、学生時代に100社ほどのインターンシップに参加したものの、1日だとなかなかその企業のことが理解できず、自分がそこで働くイメージができず悩んだという。そうした思いから、学生視点で自分たちが満足できるインターンシップは作れないものか? と大学3年生のときから活動を始めたという。実現に向けて、学生の声とミルボンの想いをすり合わせることから始め、学生たちで「理想のインターンシップ」を議論、dotとミルボンによりプログラムを仮設計。最終的にミルボン採用チームも議論に加わり内容をブラッシュアップしてこの日を迎えたという。

今回のインターンシップには、なんと約300名がエントリーしたそうで、その中から選抜された23名の学生が参加。参加する学生には私服で来てもらったり、お菓子を食べながら話ができるリラックスした環境を用意したという。この時点で、社会への第一歩的な、ちょっとお堅くて緊張感のあるインターンシップの現場とはだいぶ違うイメージを持った。これは、通常のインターンシップの懸念点として、どうしても学生側の緊張度が高くなってしまい、普段の自分を出せないまま終わってしまう場合が多いことが背景にあったという。いかにして学生が普段の自分を出せる状態で取り組めるか? 心理的な安全性に配慮した上で、こうした環境が用意された。また、「評価する側・される側」という区切りなく、社員も学生に寄り添いながら、ミルボンの課題と向き合い、一緒に解決策を楽しく導き出そうという要素も入れているそうだ。そのため、ミルボン側からは企業としての悩みも開示してもらっているという。

  • グループワークではお菓子を食べつつリラックスしてアイデアを出しあった

実際の内容についても、学生の声が反映されている。企業のインターンシップでは、その会社独自の部分は学べるものの、応用がきかないことも多く、そこに多くの時間を費やすことに抵抗があるという学生の意見があったという。そこで、しっかりと汎用性のある知識を得ることで、その知識をもとにミルボンの実際の課題から仕事の様子までを学べる内容にしたのだとか。その上で、2日間にわたり「新入社員として学ぶ」設定でプログラムが組まれた。1日目には会社説明にはじまり、「事業課題を理解しよう」「ペルソナとインサイトを考えよう」「競合サービスとその問題点を見つけよう」といった内容で、学生たちは6つのチームに分かれてグループワークを実施、19:00で終了となった。2日目は10:00より「ミルボンの営業を理解しよう」からスタート。ランチタイムでは、チームごとに分かれてミルボンの社員が1名ずつテーブルについて一緒に昼食をとりながら、学生と交流している姿が印象的だった。ランチ後には、これまで学んだミルボンの課題、研究したペルソナとインサイトからどんなニーズが見つけられたのか? について、グループごとに寸劇が発表された。美容室を舞台にした美容師とお客さんのやり取りなど、現実的なシチュエーションでときにユーモアを交えつつよりわかりやすく、ミルボンの課題、解決策が提示されていた。発表後には社員からのフィードバックも行われた。こうした取り組みは、まさに既存のインターンシップとは一線を画すものだと言えるだろう。

  • 2日目の午後にはグループワークの発表会が寸劇を交えて行われた

インターンに参加した学生たちが感じたこと

では、参加した学生たちはどのように感じていたのだろうか? 話を訊いてみた。

初めてインターンシップに参加したという山口航介さんは、企業で働いている人の雰囲気や、周りの学生にはどんな人たちがいるのかを知りたかったために参加したという。「来るときはめちゃくちゃ緊張していたんですけど、意外とアットホームな雰囲気でリラックスしてやりやすかったです。自分はまだどんな職業を目指すか決めていないので、インターンに参加することで色々な企業を知りたいですね。ランチタイムには、社員の方から転勤の有無など具体的な就業内容をきくことができてとても有意義でした」と感想を語ってくれた。

  • 初めてのインターンシップで最初は緊張していたという山口航介さん。アットホームな雰囲気で安心して参加できた様子

こちらも初めての参加だという岡戸理恵さんは、参加前にミルボンの下調べはしていたものの、思っていた会社と印象が違っていたそうだ。「ミルボンのキーワードとして、「コンセプトを売る」ことを全面に出していますけど、物を売らないと売り上げに繋がらないし、企業の成長に繋がらないので、「コンセプトを売る」こと自体に重きを置いていることがよく理解できていなかったんです。でも改めて企業の説明を聞いて、美容室の悩みなどに対してアドバイスをしてあげることで信頼関係ができて、ミルボンの製品を使ってみようというお店が増えることで、売り上げに繋がっているというところがとても良い会社だなと思いました」と、参加したことで企業のことを深く理解できた様子だった。

  • 「身近にあるものを作っている企業ということも参加したポイントでした」という岡戸理恵さん

これまで3つの企業のインターンシップに参加したことがあるという石井咲樹さんは、「美容室想定だったり、ミルボンさんに特化したワークを体験させてもらえた印象でした。他の企業さんだと、特に顧客の設定とかもなく、おおまかに「新しい事業を考えてみよう」とか、みんなで問題を解決するとか、その企業とは関係ないワークが多かったんです。今回のインターンシップでは、ちゃんと業界に特化した、求めているものが体験できました。それと、他の企業さんではワークがメインで学生に与えることを意識してやってくださってる感じだったんですけど、会社や業界のお話が少ないイメージだったんです。今回は2dayで企業の説明とこちらがワークをする配分のバランスがちょうどいいなと思いました。美容業界にすごく興味があったので、その知識が広がったのはとても良い経験になりました。私自身は、研究職を考えているんですけど、こういった機会で社会人になる前に会社全体の「こういう働き方をしている人がいるんだよ」ということをしっかり知ることができたので、広い視野で仕事を選べるようになったんじゃないかと思います」と、これまで経験したインターンシップとの違いも交えて語ってくれた。

  • 石井咲樹さんは、ミルボンが4回目のインターン参加。これまでとの違いも教えてくれた

企業にとっては事業内容をしっかりとアピールでき、学生にとっては働き甲斐のある企業のことをより深く知ることができたであろう今回の2日間。こうした有意義なインターンシップが、これから多くの企業に広まっていくのではないだろうか。

●information
「ミルボン」
東京都中央区京橋2-2-1 京橋エドグラン

著者:岡本貴之

1971年新潟県生まれのフリーライター。音楽取材の他、グルメ 取材、様々なカルチャーの体験レポート等、多岐にわたり取材・ 執筆している。好きなRCサクセションのアルバムは『BLUE』。趣味はプロレス・格闘技観戦。著書は『I LIKE YOU 忌野清志郎』(岡本貴之編・河出書房新社)」