中高年の女性に起きる全身倦怠感やホットフラッシュなどは、更年期障害の代表的な症状としてよく知られている。だがこの更年期障害、実は男性でも発症する可能性があることをご存じだろうか。
男性も加齢とともに男性ホルモンの分泌が減少し、女性の更年期障害と同じような症状が出現するケースがある。これを「男性更年期障害」、正式には「LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)」と呼んでいる。発症しない人もいるが、男性ホルモンの分泌が減少し始める40歳以降なら、誰でも更年期障害になる可能性があると言われている。
そこで今回、男性更年期障害について、Dクリニック東京メンズ/男性更年期外来担当医の辻村晃医師にうかがった。
男性更年期障害の症状
辻村医師は、男性更年期障害は大きく3つの側面において症状が出現すると指摘する。
「1つめは『心(精神)』で、『やる気がしない』『集中力が続かない』『楽しめない』などの症状が出てきます。2つめは『疲れやすい』『筋力が落ちた』『ビール腹になった』『眠れない』などの『身体』の変化です。最後の3つめは『性』の変化で、『性欲がわかない』『朝勃ちしない』などの症状が現れます」
男性更年期障害の症状は女性更年期障害の症状とほとんど同じだが、女性とは異なり、性力の低下が症状として現れるケースも多いそうだ。
「精神的な症状が出る方が40%、身体的な症状が出る方が40%、性的な症状が出る方が30%となっています」
また暑さが残る今の時期は、「身体がだるい」「やる気が出ない」などの夏バテの諸症状と男性更年期障害の症状を混同してしまう恐れがある。これらの症状が長引くようならば、原因は男性更年期障害にあるかもしれない。
男性更年期障害の原因
男性更年期障害の原因は、男性ホルモンの中でも最も重要なホルモンであるテストステロンの低下。これは加齢やストレスが原因で引き起こされる。
「テストステロンは通常ですと10代から急激に増え始め、20代をピークに減少の一途をたどると言われています。成年男性でフリーテストステロン(男性ホルモン)が8.5pg/mlを下回ることが『男性更年期障害』の目安と言われていますが、日本ではフリーテストステロンが8.5pg/mlを下回る成年男性が600万人に上るという説もあります。国際的には血中の総テストステロン値が320ng/mlを下回れば治療を要すると考えられています」
なお、テストステロンの低下が進行すると、糖尿病やうつ病、メタボリックシンドロームへのリスクにもつながると言われている。中高年のビジネスパーソンに糖尿病やメタボの人が少なくないのも、テストステロンの減少が関与しているからと言えるだろう。
男性更年期障害になりやすい特性
男性更年期障害の発症はテストステロンの多寡に起因するわけだが、男性としては「どのような人が男性更年期障害になるのか」が気になるところだろう。以下に男性更年期障害を発症する人の主な特徴をまとめたので参考にしてほしい。
■元気がなく精神的にストレスを抱えている
■デスクワークや事務系の仕事に従事している
■身体は中高年へと変化していくが、若かった頃のイメージが残っており無理しすぎてしまう
■親の介護、子どものことなど、今までとは違う悩みに直面している
「また奥さんに怒られたり、仕事がうまくいかなかったりすることによりストレスを感じ、男性ホルモン値が低下することも、発症の原因となリ得ます。睡眠不足、運動不足の方も男性ホルモンの低下につながる可能性が指摘されています」
実践可能な男性更年期障害の予防法や対策
一般的に、ホルモン量は運動をすると分泌されるため、適度な運動が予防には効果的だ。ただし、マラソンやトライアスロンなどの過度な運動は、男性ホルモン値を下げてしまうので逆効果。睡眠を十分取ることも重要とのこと。
「『気分が高まること』『面白いと思えること』『好きなこと』『社会に関わること』も男性ホルモンの分泌を促すので、デートをしたり趣味に没頭したりする時間も大切です。また、食べ物は『まめ類』『ごま』『わかめ』『やさい』『さかな』『しいたけ』『いも』の頭文字を取って『まごわやさしい』を合い言葉としたバランスのよい食事を心がけましょう」
一般的な居酒屋・ビアガーデンでも、「サラダ」や「冷や奴」「刺身」「ほっけ」など、よくみると実は多くのメニューが『まごわやさしい』に該当する。パートナーと晩酌時のメニューの参考にしてみるのもいいだろう。
男性更年期障害の治療法
同クリニックにおける男性更年期障害の治療は、まず「男性力ドック」を受診し、その結果をもとに診察を行っていく。
「男性力ドックの検査項目は、ホルモン量、血管年齢、骨年齢、筋年齢といった健康診断のようなメニューのほか、利き手の人差し指と薬指の長さを測る2D:4D検査、陰茎にメーターを巻きつけて夜間時の勃起力を測るエレクトメーターによる性機能年齢などがあります」
このドックの結果をもとに、「ホルモン注射」のほか、「オリジナルのアンドロゲンゲル(男性ホルモンゲル)」といった処方薬やサプリメントなど、それぞれの患者に合わせた最適な治療法を提供しているという。
「なんとなくだるい」「眠れない」「食が細くなった」「性欲が減退した」などの体調不良を感じたら、一度、男性更年期障害を疑ってみるのがよいかもしれない。また、ひとりで思い悩むよりも、気になるようなら早めに専門の医療機関を受診したほうがよさそうだ。
※写真と本文は関係ありません
取材協力:辻村晃(つじむら・あきら)
順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科教授。Dクリニック東京メンズ/男性更年期外来担当医。
国立病院機構大阪医療センター勤務後、ニューヨーク大学に留学し、細胞生物学臨床研究員を務める。大阪大学医学部泌尿器科准教授などを経て、順天堂大学医学部泌尿器科学講座先任准教授。特に生殖医学、性機能障害の治療に注力し、現在ではテストステロンに着目し、男性力を上げる治療を提供。