メルセデス・ベンツが小型の4ドアモデルを相次いで発売した。4ドアセダンの「Aクラスセダン」と4ドアクーペの「CLA」だ。今や活気を失ってしまったセダン市場に、なぜ2台のクルマを相次いで投入したのか。メルセデスの狙いを考えてみた。
小型セダンとしての役割も担ってきた「CLA」
メルセデス・ベンツが2019年8月27日に発表した2代目「CLA」シリーズは同社の最新モデルだ。同シリーズは流麗なスタイルとスポーティーな走りを重視したスペシャルティカーで、4ドアクーペ「CLAクーペ」とステーションワゴン「CLAシューティングブレーク」の2種類からボディタイプを選べる。価格はCLAが472万円~534万円、CLAシューティングブレークが482万円~544万円となる(共に消費税10%)。
最大の特徴は、その流麗なスタイルだ。「CLSクーペ」や「Aクラス」と同様、シャークノーズのフロントマスクを持つ新世代デザインを採用。アグレッシブかつファッショナブルなスタイルに仕上げている。
新型CLAクーペは兄貴分となるCLSクーペとそっくりなスタイルとなり、迫力を増した。一方で、先代の持つシャープさや軽快さが薄れてしまった点はやや残念にも思う。先代同様、ベースとしているのはAクラスで、プラットフォームなどの基本的な部分を共有している。
先代CLAはコンパクトなボディを売りにしていたが、新型はボリュームアップしている。クーペが全長4,688mm×全幅1,830mm×1,439mm、シューティングブレークが全長4,688mm×全幅1,830mm×全高1,422mm(共に「200d」というグレードの本国参考値)となり、全長と全幅が約50mmも拡大しているのだ。車幅だけでいえば、新型CLAは「Cクラス」を超えている。もはや、コンパクトなメルセデス・ベンツとは言いづらいサイズだ。
パワートレインは2種類。エントリーモデルとなるのが、クリーンディーゼルの「200d」だ。搭載する2.0L4気筒ディーゼルターボエンジンは、最高出力150ps、最大トルク200Nmを発揮。デュアルクラッチタイプの8速ATを備える前輪駆動車だ。上級グレードとなる「250 4MATIC」は、ガソリン仕様の2.0L4気筒ターボを搭載し、最高出力165ps、最大トルク350Nmを発揮する。こちらはデュアルクラッチタイプの7速ATを備える4輪駆動車となる。
インテリアは基本的にAクラスと同じだが、細やかな演出で差別化を図っているようだ。対話型音声認識で話題となったインフォテイメントシステム「MBUX」も標準化している。また、ボディがワイド化したことでキャビンのゆとりも増した。
CLAクーペはスタイリッシュな4ドアクーペというキャラクターだが、メルセデス・ベンツの小型セダンとしての役割も担ってきた。ところが、その状況は一変することとなる。新型CLAの発表を目前に控えた7月22日に、新型AクラスをベースとするAクラスセダンが登場したからである。
「Aクラスセダン」の登場で「CLA」が独自路線へ?
Aクラスセダンはセダンであるとはいえ、デザインはAクラスのハッチバックモデル譲りということもあり、そのスタイリングは若々しい。サイドシルエットもクーペライクだ。テイストが異なるとはいえ、Aクラス セダンもCLAも、同じAクラスをベースとした4ドアモデルである。この両車はバッティングしないのだろうか。
Aクラスセダンは、まさにAクラスのセダン版であり、乱暴な言い方をすれば、5ドアハッチバックの後部を切り取り、トランクを加えたクルマだ。そのため、デザインはAクラスのものを内外装ともに受け継いでいる。トランクが加わっただけで、あれだけアグレッシブに思えたスタイルもフォーマルになったような感じがするのは、バランスのいいフォルムを持つセダンスタイルならではだ。
装備内容についてもAクラスに準ずるので、Aクラス セダンにCLAと劇的に異なる部分があるわけではない。あくまで演出の違い程度だ。ただ、パワートレインを見ると、Aクラス セダンにはAクラスハッチバックとの違いがある。
ディーゼルエンジン搭載車をラインアップするAクラスハッチバックとは異なり、Aクラスセダンはガソリン車のみの設定となっている。グレードとしては、最高出力136ps、最大トルク200Nmを発揮する1.33L4気筒ターボエンジンとDCTタイプの7速ATを組み合わせた「A180」と、最高出力224ps、最大トルク350NmにDCTタイプの7速ATを組み合わせた4輪駆動車「A250 4MATIC」がある。価格は344万円~485万円だ(消費税10%)。
Aクラスセダンの最大の強みはボディサイズだろう。全長4,549mm×全幅1,796mm×全高1,446mm(A180欧州参考値)と、新型CLAよりもずっとコンパクトなのだ。価格としては、排気量の小さいガソリン車「A180」をエントリーグレードとして用意するAクラスセダンの方が、いくらか手が届きやすい。ただ、小型セダン好きのアッパー層を考慮して、Aクラス ハッチバックにはないパワフルなエンジンを備える4WDの「250 4MATIC」も設定している。より幅広い層を狙う仕様となっているのだ。
その中でもメインとなるターゲットは、やはり年齢の高いユーザーだろう。具体的には、国産セダンから乗り換える人や、長年にわたるメルセデス・ベンツの愛用者たちだ。コンパクトなハッチバックが主流となり、同クラスから乗り換えようと思っても、セダンの選択肢は限られる。そんな条件下で、同等サイズもしくはダウンサイズを図りつつセダンに乗り換えたい人にとって、Aクラスセダンはかなり魅力的なクルマだと感じられるはずだ。
どのメーカーでも同じだが、クルマは時代の流れとともに大型化している。一方で、自動車を取り巻く環境、つまり道路や駐車場などはこれまで同様だ。国産車でもサイズアップが進み、小さな高級車というカテゴリーは失われてしまった。また、旧世代のメルセデス・ベンツ愛用者にとってみれば、新世代はあまりにも大きくなりすぎたと映る部分もある。Aクラス セダンが狙うのは、まさにそのニーズなのである。つまり、現代の「小ベンツ」なのだ。
CLAは引き続き、メルセデス・ベンツの初心者を中心に幅広い世代の需要を狙う。ファッショナブルなキャラクターをいかし、欧州他社ブランドのユーザーや女性ユーザーも強く意識している。実際、小さく洒落たメルセデス・ベンツとなったCLAシリーズは、都心でもよく見かける車種の1つで、女性がステアリングを握っているケースも多い。
Aクラスセダンが登場したことにより、CLAは個性を際立たせる方向へと進化していけるようになった。デザインやサイズ、走りのキャラクターなどで、独自路線を突き進めるようになったわけである。
CLAシューティングブレークは今後も、エントリーワゴンとしての重要な役割を果たしていくだろう。セダンよりもスタイリッシュなクルマを求めつつ、実用性にもこだわる人たちがターゲットだ。
このように、AクラスセダンとCLAクーペは、意外なことに、あまりバッティングしないのではないかというのが私の結論だ。無論、数が売れるのはCLAだろうが……。これが、取りこぼしなくユーザーを取り込んでいくためのメルセデスの手段なのである。