同僚に「お金はもっと稼ぎたいけど、あまり働きたくはないんだよね」と言ったら、「それはまさに、トレードオフだね」とひと言。「トレードオフって何?」って聞いたら笑われてしまった。そこで今回は、カタカナビジネス用語「トレードオフ」についてお話しします。
トレードオフの意味
トレードオフは、「取り引き」「商い」「貿易」などの意味を持つ英語【trade】と、「離れる」「去る」といった意味の英語【off】から成るカタカナ用語です。
直訳すると、「取り引きが無くなる」となります。どんな取り引きでも、売る側も買う側も大きく儲けたいと思うものですね。大抵は両者が納得できる条件で折り合いをつけるものですが、両者が一歩も引かなければ交渉決裂となってしまいます。
こういった状況から転じて、日本語では「何かを手に入れるためには、何かを手放さなければならない」「一方を成し遂げるために、他方を犠牲にしなければならない」「あちらを立てれば、こちらが立たぬ」といった「両立不可能な関係性」を表す言葉として用いられています。
トレードオフの実例
では、「両立不可能な関係性」とはどういうことを指すのでしょうか。
日常生活におけるトレードオフ
日常生活の中にも、トレードオフの関係は存在します。例えば、「甘いものが食べたい/痩せたい」「タバコを吸いたい/健康でいたい」「勉強していい成績を取りたい/遊びたい」「仕事を頑張りたい/プライベートを充実させたい」といったように、二つの欲求を同時に満たすのが困難な状況が「トレードオフ」です。
誰にでも、一つは思い当たるものがあるのではないでしょうか。
ビジネスシーンにおけるトレードオフ
ビジネスシーンでは、まず「高品質/低価格」が挙げられます。顧客は質の高いものを好む一方で、低価格のものを求めようとしますね。しかし、実際に高品質で低価格なものが市場に出回れば、買う側は得をしますが、売る側は大損してしまうでしょう。それでは商売は成り立ちません。
社内でも同様に、一方からは「もっと高機能・もっと高品質のものを作れ」と言われ、他方からは「これ以上コストをかけるな」と言われることがあると思います。
「低コストで低価格、かつ高品質」という商品は、基本的には存在しません。それだけに、それぞれに最適なバランスを上手く取れるかどうかが、ビジネスの成功を左右すると言えるのではないでしょうか。
経済学におけるトレードオフの考え方
「何かを手に入れるためには、何かを手放さなければならない」というトレードオフの概念は、経済学の基本ともいえるものです。経済学におけるトレードオフの代表的な事例といえば、「失業率の低下と、物価の上昇」「福祉政策の強化と、国民の税負担の増加」「経済成長と、環境破壊」などが挙げられます。
また、私たちは常に何かを選択しながら生活しているわけですが、その多くに経済的な要因が関わっています。どこで働くのか(賃金)、何を作るのか(コスト)、どこに住むのか(生活費)……人々がどのような選択をしながら生きているのかを考えるのも、経済学における主要な目的の一つなのです。
機会費用とは
ここで、トレードオフを語る際によく登場する経済用語「機会費用」について、少し触れたいと思います。機会費用とは、「あるものを獲得するために放棄した利益」のことを指します。つまり、何かを選択したときに、選ばなかった方を選択していたとしたら得られたであろう利益のことです。
例えば、「もっと働いていたい/育児に専念したい」というトレードオフにおいて育児を選択した場合の機会費用は、働き続けていた場合に得られたはずの生涯賃金とキャリアが該当します。
トレードオフの関連語
世の中には、「トレード」がつく言葉が他にもあります。代表的なものをいくつか紹介しましょう。
フェアトレード
直訳すると、「公平・公正な貿易」。開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することにより、立場の弱い開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す「貿易のしくみ」のことを指す言葉です。最近では、スーパーなどでも目にすることが多くなりました。
トレード・シークレット
企業の財産的価値のある秘密情報のこと。具体的には、顧客情報やノウハウ、会計情報など、企業に経済利益を与えるような情報のことを指し、機密事項として管理されるものです。
トレード・タームズ
直訳すると、「貿易条件」。貿易取り引き契約で売り主と買い主で定型化された価格と共に使用される取り引き条件のこと。
トレード・マーク
一般的にトレード・マークといえば、ある人物を特徴づけているものを指しますが、ビジネスでは、登録した会社だけが使用する「商標」のことをいいます。
トレード・マネー
スポーツ界でよく使われる言葉で、選手の移籍金のことを指します。
プライベートでもビジネスでも、人生には、一大決心となるようなトレードオフを経験することが少なからずあるでしょう。
「どちらをどの程度優先させるべきか」「他方を選択した場合の機会費用は」など、さまざまな角度から両者をじっくり比較することが大切です。適切な妥協点を上手に見極め、後悔しないような選択をしていけたらいいですね。