忌野清志郎をご存じでしょうか?

「知ってるに決まってんだろ!」「ていうか、しょっちゅう聴いてるから」という人は、失礼しました。しかし、まったく知らない、というサラリーマンの方もいることでしょう。ですが、毎日セブンイレブンのCMから聴こえてくるあの歌声、といえば「ああ~、知ってる知ってる」となるはずです。

  • 忌野清志郎【(C)阿部高之】(写真:マイナビニュース)

    忌野清志郎【(C)阿部高之】

今年5月4日の東京・日比谷野外音楽堂にて、満員の観客を集めて行われた「忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー 日比谷野外大音楽堂 Love&Peace 2019年5月4日~FINAL~」のニュースをテレビやWEBサイトでご覧になった方は多いのではないでしょうか。

2009年に逝去してから10年となるミュージシャン、忌野清志郎を敬愛するアーティストたちによる、一夜限りのライヴ・イベントです。RCサクセション時代からの盟友・仲井戸麗市をはじめ、Char、鮎川誠、矢野顕子、宮本浩次、村越弘明、斉藤和義、山崎まさよし、シークレットゲストの木村拓哉といった、そうそうたる顔ぶれが次々と清志郎の曲を歌い、大いに盛り上がりました。10年も経てば、世の中も変わります。しかし、忌野清志郎という稀代の個性的な人物の歌と存在は、時代の変化を経てもなお、人々の心の中に輝き続け、力を与え続けている。この日のイベントは、そのことを証明していたと思います。

いったい、どこにその魅力があるのでしょうか? そこで今回は、筆者が編者として上梓させていただいた書籍『I LIKE YOU忌野清志郎』の内容から、働く人々の力になるような清志郎のエピソード、言葉を紹介しようと思います。

仕事への徹底したこだわり

1970年代に、デビュー当時のRCサクセションのライヴを観ていたというグラフィックデザイナーの太田和彦さんによると、清志郎さんをはじめとするメンバーたちは、ライヴ開始前の音調整にものすごく時間をかけていたそうです。「19時開始のライヴに30分も平気で調整してる。その間挨拶なんかしない。それで調整が終わるといきなり「ガイーン!」。それはそれは素晴らしいものだった」(※1)。自分の表現における自信、仕事への徹底したこだわりが、若き清志郎の音楽活動を支えていたことがわかります。お膳立てされた状況に頼らず、自分の力で仕事を完遂するという力強さと、ときにはワガママなぐらいに自分のやり方にこだわることも大事であることを教えられます。

誰に対してもフラットな姿勢で接する

80年代後半から楽器担当スタッフとして清志郎の側で活動を支えてきた山本キヨシさんによると、清志郎さんは、みんなに対してフラットな姿勢で接していたといいます。アルバム『THE TIMERS』収録曲「偉人のうた」には、こんな歌詞があります。〈もしも 僕が偉くなったなら 偉くない人達や さえない人達を忘れないさ〉。長年会社に勤めていると、社内で立場が上になるにつれ、ついつい周囲に横柄な態度をとってしまったりすることがでてくるかもしれません。そんなときは、どんな人とも平等に接するという、清志郎の姿勢を思い出してみると良いかもしれません。

先のことばかり気にしない

2006年に喉頭癌の治療のため活動を休止していた清志郎は、2008年2月10日に日本武道館にて行われたワンマンライヴ〈忌野清志郎 完全復活祭〉にて復活を遂げます。長年、清志郎のライヴ制作に携わってきた蔦岡晃さんは、武道館ライヴへ向けてリハーサルを重ねる日々の中、ふと体調がキツくないか尋ねたそうです。すると清志郎はこう答えたそうです。

「君はね、そんな事は考えなくていい。それから、武道館とか先のことばっかり気にしてちゃダメだよ。俺は明日どんな曲を練習しようかなとか、そんなことしか考えてないんだから。それをやっていけば、やがて武道館の日の朝になってるんだよ」(※2)

「来週のプレゼン、上手く行くかな?」「この先、仕事は発展していくのだろうか? 」等々、我々は、ふと先々のことを考えて、まだ起こってもいないことで不安に駆られてしまったりします。清志郎の、武道館に集まったお客さんの前で、「良い演奏をする、良い歌を歌う」ことだけを考えて前に進んで行くいう姿勢からは、1日1日を大切に楽しんで生きることが、良い結果を生む近道であるということを教えられます。

いかがだったでしょうか? きっと、サラリーマンとして企業に勤める方や、お店を経営している方、個人事業主の方等、仕事をする上で役に立つヒントがあるのではないでしょうか。

後編では、人々の力になるような忌野清志郎の楽曲を紹介しようと思います。

※1、2は書籍文中より引用

岡本貴之(オカモト タカユキ)

1971年新潟県生まれのフリーライター。音楽取材の他、グルメ 取材、様々なカルチャーの体験レポート等、多岐にわたり取材・ 執筆している。好きなRCサクセションのアルバムは『BLUE』。趣味はプロレス・格闘技観戦。

『I LIKE YOU 忌野清志郎』(岡本貴之編・河出書房新社)

日本が生んだ偉大なミュージシャン・忌野清志郎が虹を渡って、早や10年。 清志郎と共に時代を生き、影響を受けながら現在も各界で活躍する人たちが、あふれる熱い思いを語った単行本『I LIKE YOU 忌野清志郎』

若い世代へとバトンを渡すべく登場してくれた、のん、渡辺大知(黒猫チェルシー)のほか、3人時代のRCサクセションの目撃者である太田和彦、日本で唯一のザ・ローリングストーンズ・オフィシャル・フォトグラファーの有賀幹夫、清志郎ファンにはおなじみの高橋 Rock Me Baby、清志郎のレコーディング&ライヴを深く知る山本キヨシ、蔦岡晃、サウンド・エンジニアzAk、ディレクター佐野敏也、今では音楽業界の重鎮となったプロデューサーたち―宗像和男、森川欣信、近藤雅信も登場。さらに、清志郎が憧れた漫画家・手塚治虫の長女でありプランニングプロデューサーの手塚るみ子、初代YMOマネージャーとしても知られる手相観の日笠雅水、スタイリスト高橋靖子、直木賞作家の角田光代まで、それぞれが好きなキヨシローへの熱い思いがギッシリと詰め込まれている。

そして書籍の締めくくりには、消しゴムハンコ作家の百世のインタビューを収録。初めて父・忌野清志郎についての思いを語っている。それぞれが語るエピソードは、そのまま、清志郎の音楽が持つ豊かさそのもの。忌野清志郎を知る人も知らない人も、是非お手に取っていただきたい、総勢17名による愛のある一冊となっている。