「ハイ! メルセデス」と呼びかけることで、クルマとの対話から空調の調節、ナビゲーションの目的地設定などが可能なメルセデス・ベンツの新型「Aクラス」に、ディーゼルターボエンジン車「A 200 d」が追加となった。このところ高値傾向が続くガソリン価格を考えると、軽油で走れるAクラスの登場には、魅力を感じた方もいるのではないだろうか。Aクラスとディーゼルエンジンの相性を試乗して確かめてきた。
さらに向上したクルマとしての成熟度
「A 200 d」が新たに搭載したディーゼルエンジンは、先に「Cクラス」が採用したものと基本的には同じだが、Cクラスが後輪駆動であるのに対しAクラスは前輪駆動なので、エンジンの搭載方法が異なる。進行方向に対してAクラスではエンジンが横置きとなるので、それにより、補器の取り付け方に若干の違いがあるのだ。
また、Cクラスより後の発売となったことにより、2020年に欧州で実施される排ガス規制を先取りした後処理技術を採用しているので、排ガス浄化性能はCクラスのディーゼルエンジンよりも進化している。
新型Aクラスのガソリンエンジン車には、今年の1月に試乗している。その際に印象的だったのは、前型に比べ上質になった乗り味と、一段と高まった室内の静粛性だった。運転感覚としては、メルセデス・ベンツらしい確かな手ごたえを伝えてきて、信頼と安心を覚えさせた。一方で、今回のディーゼルエンジン車と同じ寸法の偏平タイヤを装着した仕様では、タイヤの硬さが乗り心地にも影響を及ぼし、路面の凹凸に車体が跳ねるような感触もあって、仕上がりはいまひとつと感じたのも事実だ。
さて、ここからは今回試乗したディーゼルエンジン車「A 200 d」についてお伝えしたいが、まず、今回の試乗車は、エンジンがガソリンかディーゼルかを論ずる以前に、クルマとしての仕上がりが非常によくなっていた。ガソリンエンジン車の試乗から5カ月ほど経過しているが、その間、このクルマを生産する工場での熟練度が増し、生産の精度が高まったのではないかと想像する。タイヤの銘柄こそ違っていたが、同じタイヤ寸法の偏平タイヤを装着して走っても、乗り心地や運転感覚が見違えるようで、文句のつけようのない仕上がりであった。
それに伴い、後席の座り心地もよくなっていた。座席と床の差が少ないことによる座りづらさこそ変わらないが、突き上げるような振動がなくなったことにより、快適さが改善していると思う。室内の静粛性は、ディーゼルエンジンになっても悪化している印象はなかった。
その騒音については、同じエンジンといいながらも、Cクラスで試乗したときよりもAクラスの方が静粛性に優れていると感じた。Cクラスでは室内にいてもディーゼル音が耳に届き、振動も感じられた。しかしAクラスでは、車外で聞けばディーゼルエンジンだと分かるものの、車内ではディーゼルであることをほとんど意識させなかった。
ディーゼルエンジンらしさを覚えさせたのは、渋滞中の発進・停止の繰り返しの際だった。アイドリングストップからエンジンが再始動するとき、また、クルマが止まろうとしてエンジンがアイドリングストップのために停止しようとするときに、「ブルンッ」と大きな振動がある。ガソリンエンジンであれば、この振動はもっと穏やかで、気付かないほどだろう。
逆にいえば、今回の試乗でディーゼルエンジンの弱点を意識したのは発進・停止を繰り返すシーンくらいで、ほとんどの時間は低回転から大きなトルクを発生するディーゼルエンジンの俊足ぶりを味わって過ごすことができた。アクセルペダルの踏み込みに対する応答も素早く、的確に速度にのせていく。ガソリンエンジンに比べ車両重量が100キロ以上重くなっているが、そうとは思わせない力強さをディーゼルエンジンが発揮していた。小柄なAクラスの俊敏な運転感覚を存分に楽しめる仕上がりだ。この爽快な運転感覚は、生産の錬度が増したことによるAクラスそのものの進歩とみることもできるだろう。