これから梅雨入りまでの時期は、秋とともにモーターサイクルがもっとも心地よい季節。そこで、4月に開催された日本自動車輸入組合(JAIA)の輸入二輪車試乗会で乗った中から、この季節に乗りたい“ナイスミドル”なマシンたちを紹介しよう。

欧州メーカーが提示する充実の「ミドルクラス」

今は死語扱いされているであろう“ナイスミドル”という言葉を使ったのは、今回紹介するマシン選びに、この言葉から連想される2つの意味を込めたからだ。

ひとつは本来の意味でもある“カッコいいミドルエイジ”に乗ってほしいモーターサイクルであるということ。もうひとつは、私たち日本人でも持て余さない“ナイス”なボディサイズに、輸入車ならではの個性的なデザインや走りを秘めた車種であることだ。

欧州のモーターサイクルは、日本人より基礎体力のある彼の地のライダー像を反映してか、モデルチェンジのたびに排気量を拡大する車種が多い。ただ、それはフラッグシップモデルについていえること。合理主義が根付いた欧州では、扱いやすい車体に600~900ccあたりのエンジンを積んだミドルクラスが注目を集めている。

というわけで今回は、試乗会に用意された数多くの車両の中から、このクラスにターゲットを絞り、デザインや走りが魅力的に感じた4台を紹介する。

ドゥカティ「スーパースポーツS」

ドゥカティはイタリアンバイクの代表格。我が国での販売台数も米国のハーレーダビッドソン、ドイツのBMWに次ぐ3位に付ける。最近はレトロデザインの「スクランブラー」が車種を増やしているが、ドゥカティと言えばフルカウルのスポーツモデルを思い浮かべる人が多いだろう。

頂点に位置するのはドゥカティ唯一のV型4気筒エンジンを積む「パニガーレ」。しかし、伝統のL型2気筒を搭載する「スーパースポーツ」の人気も根強い。性能は控えめだが、そのぶん力を使い切れる上、価格が約100万円も安いからだ。

ドゥカティの「スーパースポーツ S」。価格は 183万9,000円

もうひとつ、パニガーレと違うのはライディングポジションだ。見た目とは裏腹に前傾はほどほどで、ステップとの位置関係は身長170cmで胴長の自分にもしっくりくる。おかげで一体感も感じる。日本人にあったポジションだ。

試乗車は装備が充実した「スーパースポーツ S」。900ccのLツインエンジンは81kWを発生する。重量は183キロだからダッシュは強力で、回せばその名にふさわしい速さを発揮。Lツインらしい弾けるようなサウンドがその気にさせる。それでいて、細いパイプを溶接で組み上げた伝統のパイプフレームは、硬すぎない乗り心地と素直なハンドリングを届けてくれる。

スーパースポーツはデザインも魅力だ。ツインマフラーの出し方、リアサスペンションの見せ方、「S」に用意される日本限定カラーのマットチタニウムグレーなど、さすがはイタリア、見せ方を熟知している。

見せ方を熟知したイタリアメーカーらしいバイクに仕上がっている「スーパースポーツ S」

BMW「F750GS」

販売台数でドゥカティの上を行くBMWは、下は310cc単気筒から上は1600cc並列6気筒まで、クルマのBMWに負けないワイドバリエーションを誇る。イメージリーダーは1923年以来の伝統を持つ水平対向2気筒エンジン搭載車だ。

今回紹介する「F750GS」は、「F850GS」とともに、この水平対向エンジンのひとつ下を受け持つ車種だ。どちらも850cc水冷並列2気筒エンジンを積む。F850GSはエンジンが高性能になるオフロードタイプ。自分が駆るなら57kWのF750GSで十分だし、シートが同クラスの日本車より低いほどなので、こちらを選んだ。

BMWの「F750GS」。価格は129万6,000円

試乗車はリアに3つのケースを装着していて、このままツーリングに行きたくなるような姿だ。またがると液晶メーターはカラーで、左右のグリップまわりにはヒーターやクルーズコントロールなど、多彩な装備が用意してあって至れり尽くせりだった。

昔のBMWモーターサイクルは質実剛健といった感じで、クルマでいえばかつてのメルセデス・ベンツに近い雰囲気だったのだが、F750GSのエンジンは2気筒らしいパルスを伝えながら、軽快なレスポンスとともに吹け上がっていく。

しかし、それ以外の部分は昔から変わらぬBMWテイストだ。乗ってすぐにコーナリングを楽しもうという気にさせる絶大な安心感は、毎度のことながら「どうしてなんだろう?」と思う。乗り心地も快適で、走りについてはとにかく模範的だ。モーターサイクルでの移動をいかに疲れず、ピュアに楽しめるか。その点を真摯に追求する姿勢がジワジワ伝わってくる。

絶大な安心感を得られる昔ながらのBMWテイストを味わうことができた「F750GS」

モト・グッツィ「V85TT」

イタリアには日本以上に多くの二輪車ブランドがある。その中での最古参は、1921年創業のモト・グッツィだ。現在はスクーターの「ベスパ」などとともに、ピアッジオグループの一員になっている。特徴は空冷V型2気筒エンジンを縦置きし、チェーンではなくシャフトで後輪を駆動するというメカニズムで、こちらは1965年から使い続けている。

ここで紹介するのは、今年発売されたばかりの「V85TT」だ。クルマでいえばSUVに相当する人気のアドベンチャーツアラーに属するが、伝統をいかしたクラシックな造形を取り入れ、イタリアらしい鮮烈なカラーコーディネートが施されているおかげで、孤高の存在になっている。車体は大柄だが、片足なら問題なく地面に届く。カラー液晶メーターやクルーズコントロールが付くなど、装備は旅バイクらしく充実している。

モト・グッツィの「V85TT」。価格は142万5,600円

850ccのVツインに火を入れてスロットルを捻ると、車体が右に倒れようとする。シャフトドライブなので、エンジントルクの反力で車体を動かすのだ。最初は驚くかもしれないが、かつて1981年式の「850 ル・マンⅢ」というモト・グッツィを所有していた自分は、昔のしぐさが残っていることに嬉しくなった。

その後の走りは、Vツインらしいパルスとパンチを感じさせつつ、回り方は滑らかで、デュアルヘッドランプ上のスクリーンは首から下の風を効果的に逃してくれる。乗り心地はかなり快適な部類。重心が高めであることを頭に入れればハンドリングは素直だ。個性と洗練を絶妙に両立した走りに老舗の技を感じた。

個性と洗練が絶妙なバランスを見せる「V85TT」

ハスクバーナ「ヴィットピレン701」

昨年の日本上陸以来、モーターサイクルファンの注目を集めているのがこのバイクである。ハスクバーナは100年以上の歴史を持つスウェーデンのブランドで、オフロードに強い。そのノウハウを活用したシンプルなロードモデルが「ヴィットピレン」だ。

実車を目の前にして、モーターサイクルは見た目が9割かもしれないと思ってしまった。無駄を徹底的に省いて機能美を突き詰めたフォルムは、北欧だから実現できたのかもしれない。タンクとマフラーの色分けのラインを合わせるなど、細部も手抜きなし。丸いヘッドランプがクラシックな雰囲気を醸し出すが、同じ丸型のメーターはモダンでクール。とにかく見ていて飽きない。

ハスクバーナの「ヴィットピレン701」。価格は135万5,000円

低くて幅広いハンドルと高めで角ばったシートによるライディングポジションは、それなりに前傾となる。キツイと思う人にはハンドルが高めの「スヴァルトピレン」という車種もある。

エンジンはオフロードマシンにも積まれている700cc単気筒。クルマにはあり得ない形式だ。アイドリングはジェントルだが、加速に移るとダダダッと路面を蹴り上げながら進むような感触に、思わず笑みがこぼれる。それでいて、3,000回転から上はむしろスムーズで、回して乗りたくなるシングルでもあった。

車両重量は250cc並みの157キロ。でも、ヒラヒラしすぎることはなく、700ccらしい落ち着きも感じる。高速道路の直進性も満足できるものだった。美しいからと飾っておくだけではもったいないマシンだと実感した。

「ヴィットピレン701」は700ccという排気量にしては軽量なモデルだが、ヒラヒラしすぎることはない

明示しておいた価格からもお分かりの通り、今回取り上げた4台はさほど高価なバイクではない。これも、ミドルクラスならではのメリットだ。軽自動車とさほど変わらないプライスで、欧州の個性的なデザインと走りが、多くの日本人に扱いやすい車格とともに手に入る。初めて二輪車に乗る人にもオススメしたいマシンたちだ。

(森口将之)