資生堂がこの週末、4/13よりオープンする「S/PARK(エスパーク)」。同社が横浜・みなとみらい地区に新設した研究施設「資生堂グローバルイノベーションセンター」の1階と2階を、一般利用できる“美の複合体験施設”として開放する。本稿では、11日に行われたオープニングプレビューの模様をお届けする。
都市型ラボで狙うイノベーション
企業の研究所の多くはスペース確保の都合などから郊外に設けられているが、同施設は前述の通り、横浜の一等地に位置している。このロケーションによって、同社の研究員が国内外の研究所や大学、企業とのコラボレーションに取り組みつつ、顧客と直にコミュニケーションすることで、新たな価値を生み出すという狙いがある。
空間デザインも、そうした施設の理念を反映している。什器や照明など、館内の至る所に書類(紙)を模した形状がさりげなくあしらわれ、照明はフラスコの形だ。
空間の総合プロデュースは小山薫堂氏(ORANGE AND PARTNERS)、空間デザインは佐藤オオキ氏(nendo)が手がけた。
単に洗練された空間であるだけでなく、研究の場と地続きになっていることをひそかに伝える工夫が凝らされている。
自分の顔でタイムトラベル
1階エントランス奥にある白い箱が、資生堂の知見を生かして作られたデジタルコンテンツ「BEYOND TIME」。カップルや親子、友人などふたり一組でブースに入ると、カメラで顔認識を行い、体験者たちは顔立ちの経年変化を追体験できる。
資生堂が培ったエイジングサイエンス研究の知見をベースに、同社インフォマティクスチームが分析したデータを、米・NYのクリエイティブエージェンシー「R/GA」がデジタルコンテンツに仕立て上げた。このコンテンツは研究に活用する相貌の情報収集も兼ねており、来場者がコンテンツを楽しむことで、同社の研究がさらに推進されるという相乗効果もある。
現地で体験してみたが、加齢による変化のほうが一目で分かりやすく、自分の30年後の「顔」には皺、シミなどがそれらしく浮き出て、なかなかの衝撃だった。ブース内では、眼前のモニタに将来のこと、過去の思い出などにまつわる問いが表示され、お互いに対話するように案内される。体験終了後、「タイムトラベル」した写真はデータでダウンロードできるので、時間内には収まらなかった話の続きをすることもできそうだ。
自分の「肌」状態からコスメを作り出す
おなじく1階の「S/PARK Beauty Bar」は、好みのテクスチャや香り、パッケージを選んで「マイコスメ(化粧水と乳液)」を作成可能な「パーソナライズスキンサービス」を提供する。
肌診断やカウンセリングの結果からその人に適した成分を調合し、オープンになっているブース内で製造する様を見ることができる。料金は1万2,000円(税抜・解析とカウンセリング、化粧水170mL/乳液130mL、美容箋、お試し用コットン8枚、送料を含む)。
「パーソナライズスキンサービス」は1日2名と限られた枠だけあって、すでに予約は5月末まで埋まっている。既存のスキンケア製品から肌に合う物を選ぶのではなく、自分の肌質からフィットするコスメを導きだし作り出すというコンセプトが注目を集めている証拠だろう。
体験当日は解析のためメイクを落とす必要があるが、クレドポー・ボーテからインテグレートまで、同社が展開するコスメを試用可能となっており、半個室のブースでフルメイクをすることも可能となっている。
化粧の役割や歴史を学ぶミュージアム
2階は全体がミュージアムとなっており、化粧品が果たしている役割を示す体験型コンテンツや、同社の歴代パッケージが展示されている。
歴代パッケージの展示は同社の礎を築いた「オイデルミン」を起点に、平成初期のヒット商品から直近の製品まで見ることができる。化粧品や整髪料などカテゴリもさまざまなので、どれかひとつは「あの頃使った」物を見つけることができそうだ。
体を内から美しくする「食」と「運動」
資生堂は化粧品メーカーだが、商材だけにとらわれず、「美」の土台となる肉体にフォーカスし、健康的で楽しい食体験を提供するカフェ「S/PARK Cafe」と、エクササイズプログラムを提供する「S/PARK Studio」を開設。訪れた人が美を別の側面からも体験できるようなメニューやエクササイズプログラムを用意している。
同施設をひととおり体験し、共通して感じられたのは「先進性」。IoT技術を活用した化粧品や肌診断アプリなど、以前から資生堂が推し進めている美のデジタル化の延長線上に、いずれのコンテンツも位置づけられているように感じられた。
その象徴ともいえるのが、施設名の「S」を模した螺旋階段そばに設置された、世界最大(※2019年4月時点)の「Crystal LEDディスプレイシステム」。ソニービジネスソリューションが納入したもので、16K×4Kという超高解像度ディスプレイに、大自然を実物大の動物が闊歩するリアルなCG映像などを映し出す。
産業問わず、現状を打破するオープンイノベーションが叫ばれて久しいが、ここが資生堂の未来の価値を決める拠点となることは間違いなさそうだ。今後一般公開が行われることで生の声を取り入れ、どのように各コンテンツが変化していくのかも注目していきたい。
(杉浦志保)