トヨタ自動車とソフトバンクが共同出資で設立したMONET Technologies(モネ・テクノロジーズ、以下:MONET)は先日、同社の今後の方針や新たな取り組みなどを説明する「MONET サミット」を開催した。全国の地方自治体や企業に向けたメッセージを発信するイベントだったのだが、ホンダとの提携など、驚きのニュースも飛び出した。
MONET サミットには、全国の自治体関係者約280名および企業関係者約320名の計約600人が参加。同社の今後に対する高い関心がうかがえた。まもなく訪れる自動運転社会に向けて、MONETはどのような展望を描いているのだろうか。
今後のプラットフォーム開発を占う2大ニュース
MONET サミットの冒頭では、宮川社長の呼び込みに応じ、トヨタの豊田章男社長がサプライズで登場し、会場を沸かせた。
豊田氏は「私はよくサプライズを演出しますが、今回は本当にサプライズ」と会場の笑いを誘うと、続けて「(2018年の)10月4日に(ソフトバンク会長の)孫さんと(MONET設立を)発表させていただいて、本日、こうしてサミットが開かれるということで、本当にありがとうございました。また、自動車業界にとって、オープンな形での第一歩になったのではないかと思います」と述べた。
豊田氏が語った「オープンな形での第一歩」とは、この日発表された2つのニュースを指している。
まず1つ目は、日野自動車およびホンダとMONETによる資本・業務提携の締結だ。日野とホンダは今後、それぞれ2億4,995万円を出資し、MONETの株式を9.998%ずつ取得する。これによりMONETは、これまでトヨタから提供を受けていた約170車種のデータ(ログ)と同様に、日野およびホンダからも情報を取得できることになる。
具体的には、日野のトラックやバスから得られる人や物の移動に関するデータと、ホンダの乗用車などを活用したモビリティサービスから得られるデータが手に入る。これにより、MONETのプラットフォームはさらに進化する。「日本で走っているクルマの全てのログが1つのプラットフォームに集まってきて、それらを共有することが最終目標」というのが宮川社長の考えだ。
目標の実現に向けては、さらなる日本企業の参画を呼びかけていく方針。すでにトヨタと協力関係にあるマツダやスバルなどは、今後の参加が有力と見られる。日産自動車や三菱自動車工業がどう動くかも気になるところだ。
そして2つ目が、MONETコンソーシアムの設立だ。MONETはモビリティイノベーションの実現に向けた「なかまづくり」の一環として、同コンソーシアムを設立。2019年3月28日現在で、すでに88社が参加している。
中でも特に注目したいのが、宮川氏が「ベストパートナー」と強調したJR東日本との連携だ。「一次交通」と呼ばれる鉄道とMONETのような「二次交通」がシームレスに連携できれば、街作りの新たな可能性が広がるという。
宮川氏は、「MONETは20年後の日本で最も役立つ会社でありたい」とし、「これから始まる『MaaS』(Mobility as a Service)の世界において、MONETがプラットフォーマーの中心となれるよう、一歩一歩、会社を育てていきたい」と展望を述べた。
「MaaS」時代の主役に? MONETの挑戦
かつて、10余年というわずかな期間で、主たる移動手段が馬車からクルマに置き換わった。自動運転車の登場・普及は、「移動」にとってクルマ自体の誕生に次ぐ大事件となるかもしれない。自動運転技術は、クルマの在り方はもちろんのこと、さまざまな分野におけるサービスの形を一変させそうだ。
耳にする機会も多くなった「MaaS」という概念は、その最たる例といえる。これまで、多くの人はクルマを所有することで移動の自由を手に入れていた。しかし、MaaSの登場により、人と移動の関係性は変化する。さまざまな交通手段を1つに統合し、利用者にとって最適な組み合わせ、“サービスとしての移動”を提供するというのが、MaaSの根幹をなす思想だ。
近年、若年層を中心に、クルマに対する意識が“所有するモノから使うモノ”へと変化する中で、こうした考え方は広がっていくものと見られている。そして、自動運転車の登場は、この動きをさらに加速させることになりそうだ。
そうした流れの中でMONETは、MaaSからもう一歩踏み込み、「Autono-MaaS」の実現を目指していくという。これはトヨタの造語で、自動運転とサービスを組み合わせたプラットフォームの提供を指す。トヨタが次世代EV(電気自動車)コンセプトとして2018年に発表した「e-Pallet」(イーパレット)が、その中核を担うことになる。
例えば、商品が欲しいと思った場合、今は店舗に出向いて購入するか、インターネットショッピングなどを利用し、商品を自宅まで送ってもらう必要がある。だが、e-Palletの場合は、店舗自体が自宅までやってきてくれる。必要とされる場所に移動して、必要とする人に商品を届けるという意味では、無人移動販売車と呼べるようなサービスだ。
車両、利用者、サービス提供者の3つを結びつける役割を担おうとしているMONETだが、山本圭司MONET取締役はこの新たなビジネスについて、「自治体や企業、サービサーの皆さまとの接点を広げ、まずはオンデマンドサービスの展開を図りながら、必要な基盤を整え、2023年にはサービスの1つとしてe-Palletを市場投入したい」とロードマップを明らかにした。
2020年には道路交通法の改正が予定され、まずは高速道路から自動運転の開始が見込まれる。今後は予想もしていないようなサービスが誕生するかもしれない。
そうした状況を踏まえ宮川氏は、MONETのプラットフォーム開発について、「現在、作り込んでいるシステムのバージョンアップは、自動運転が始まる直前まで続くと思います。しかし、その間に培ったノウハウを活用すれば、来るべき自動運転社会の中で、必ず役に立つプラットフォームを作れるはずです。また、20年後の日本でも、これはやっぱり、あってよかったなと思っていただけるものにしたいと思っています」とコメントした。
新たな元号「令和」の下で迎える自動車新時代。時代の転換期にクルマと人の関係がどう変わるのか、注視していきたい。
(安藤康之)