SEMIの業界調査・統計部門のディレクターであるClerk Tseng氏は、昨年12月に東京で開催されたSEMICON Japan 2018併催のマーケットフォーラムにて講演し、2019年の半導体業界の製造装置投資動向についてSEMIの調査結果に基づき説明を行なった。

世界半導体統計(WSTS)によれば、半導体の市場規模は2017年に前年比21.6%増、2018年も同15.9%増と驚異的な成長を遂げたが、2019年は同2.6%増に留まると見ている。半導体市場調査会社各社の2019年予測も前年比5%増から1%減までばらついており、WSTSの予測もそれらの中間に位置していることからも分かるように、メモリバブルが去ってしまった今年の成長率は1桁台の下のほうというのが大方の見方である。

米中貿易摩擦やハイテク覇権争いの影響は不透明で、半導体産業の今後の動向予測を難しくしているが、短期的には景気の落ち込みはあるものの、長期的に見れば、半導体は今後も成長を続けていくのは間違いない。

このような状況下で、2019年の半導体業界の設備投資はどうなるだろうか?

中国の半導体投資ブームは2020年へ先延ばし

SEMIは、2019年の地域・国別の半導体製造装置投資額について、韓国がメモリへの投資抑制により前年比35%減となるのとは対照的に、台湾がプロセスの微細化を目指したファウンドリによる投資の復活で同20%増となるとみており、全体としては2017年レベルとなると予測している。

SEMIの2018年夏の予測では、2019年の中国における半導体設備投資額は180億ドル程度にまで増加するとしていたが、今回の予測では投資額を2018年並みにまで引き下げ、中国の半導体投資ブーム到来を2019年から2020年へと1年先送りする修正をした。この結果、2019年の韓国、台湾、中国の設備投資額は、ほぼ拮抗することになりそうで、2019年の半導体産業設備投資総額は前年比4%減の600億ドル弱となる見込みである。

なお、SEMIは2019年の日本の投資額は昨年並み、米国は3%増、欧州と東南アジアはともに同5%減と予測している。

また、2020年は、2019年に投資が手控えられた反動で、同20%増となる700億ドル超となるとしており、中国勢の投資ブームがけん引役になると予測しているが、現在、中国は米国との貿易摩擦や国内経済減速などの問題が顕在化し始めており、先行きは不透明である。

  • 地域国別の半導体設備投資額の推移

    地域国別の半導体設備投資額の推移。2019年、韓国は前年比35%減に対して台湾は同20%増、中国や日本はフラット (出所:SEMI統計)

2019年の設備投資:メモリは減少、ロジックは増加

2019年のメモリ向け設備投資額は、DRAM、NANDともに前年比で大きく減額されるため、生産能力が増強されるのは、2019年後半から2020年にかけてになるとSEMIでは見ているほか、新たな投資があるとすれば、微細化(1Y nmや1Z nm)対応の製造に必要な最先端の製造装置への投資になるだろうとの見通しをSEMIでは示している。

一方のファウンドリやロジックデバイスへの設備投資は、順調に増加する見込みである。先端製造ラインへの投資は、7/10nmプロセスの拡充や5/7nmプロセスへのEUVリソグラフィ導入がけん引する見通しだが、先端ではないレガシーの製造ラインでは、28nm製品の供給過剰が生じていることから、設備投資が減額される見込みだという。

パワーおよび化合物半導体ファブ動向も発表

SEMIは今回、これまで行なってこなかったパワー半導体および化合物半導体のファブ統計を昨年11月末に会員企業にのみ開示したが、SEMICON Japan 2018では、その要約が公開された。

SEMIは今後、パワー半導体や化合物半導体業界の成長や設備投資にも注目していくとしているためで、情報収集を行なうことを決めた動機についてSEMIでは、「省電力性が求められる、ハイエンドのコンシューマエレクトロニクス、無線通信、電気自動車、グリーンエネルギー、データセンター、産業用および民生用IoTなどのアプリケーションに対するエネルギー効率のスタンダードが厳しくなるにつれて、パワー半導体の重要性が高まってきているため」と説明している。

今回、SEMIが公開した世界のパワー半導体に対する生産能力および工場数に関するデータ(EPIとLEDを除く)によると、今後、パワーICの生産能力は毎年順調に増加し続け2022年には月産660万枚に達するほか、工場数も、2019年から2020年にかけて急増しピーク時には335工場程度まで増えると予測している。

  • パワー半導体の生産能力と工場数の推移

    パワー半導体の生産能力と工場数の推移(EPIとLEDを除く) (出所:SEMI)

また、パワー半導体のエネルギー効率が、化合物材料の進化によって高まってきていることを受けて、化合物半導体業界の生産能力と工場数に関する集計(EPIは除くがLEDは含む)も行うことにしたとのことで、2020年には生産能力が250万枚、工場数は400に達すると予測している。パワーIC、化合物半導体ともに、工場数が増えるにつれて設備投資も増えていくことが期待される。

  • 化合物半導体の生産能力と工場数の推移

    化合物半導体の生産能力と工場数の推移(EPIを除く) (出所:SEMI)