1980年ごろまで、緑茶といえば茶葉を急須に入れ、お湯を注いでそれを湯飲みで飲むのが一般的だった。あるいは、飲食店で無料サービスとして提供されるものだった。つまり、当時は茶葉代のみで済む、またはただで飲むというのが常識。緑茶にお金をかけるという認識は皆無だったといっていいだろう。
そんな折、1989年に伊藤園が「お~いお茶」(缶入り)という商品の販売を開始した(缶入り煎茶は以前からあった)。当時、「お金をかけなくても飲めるお茶を、果たして消費者が購入するのか!?」という疑問を、何かの報道番組か雑誌でみたことがある。
ところが「お~いお茶」の語呂の良さを生かしたCMを多用したり、ペットボトルで手軽さを追求したりで、消費者に受け入れられていった。そして業界大手企業も次々にこの市場に参入していった。
ところが、先駆者である伊藤園の牙城はなかなか崩れない。緑茶における伊藤園のシェアは35~40%ともいわれ、圧倒的な強さをみせている。
巨人に真っ向から対抗するのではなく、新たな市場を創出する動きもみられた。雑穀などを原料にした、アサヒ飲料の「十六茶」や日本コカ・コーラの「爽健美茶」といったお茶である。折しも健康ブームに火がつき、健康志向をうたったこれらの商品は順調だ。
「トクホ」のお茶に熱視線
そして、また新たな市場が創られた。特定保健用食品、いわゆる「トクホ」に指定されたお茶の市場が生まれたのだ。この市場の競争が激化しそうな様相をみせている。
トクホの緑茶といえば、サントリー食品インターナショナル「伊右衛門 特茶」や花王の「ヘルシア緑茶」あたりが有名だ。緑茶以外にもサントリー「胡麻麦茶」、日本コカ・コーラ「からだすこやか茶W」、アサヒ飲料の「十六茶W」などがある。
ただ、やはりトクホ飲料でリードしているのはサントリーといえるだろう。特茶はトクホ飲料で4年連続ナンバーワンとなっており、9月からは新しい取り組みも始めた。ヘルスケアとAIを活用したライフサイエンス分野を研究するFiNCと協力。食事・運動・特茶を組み合わせ、日々の健康を管理する「特茶スマートアプリ×FiNC」を提供し始めた。
また、緑茶だけではなく「黒烏龍茶」を投入。脂肪を分解する効果を前面に押し出し、多量の広告を打って、健康+サントリー飲料という意識を根付かせた。
一方、清涼飲料水大手の日本コカ・コーラも健康志向というキーワードを強調している。前述した爽健美茶などは、まさにその象徴だろう。
「綾鷹」ブランドでお茶飲料トップを猛追
日本コカ・コーラは他社と比べると、お茶の市場で出遅れた感がある。だが「綾鷹」ブランドで巻き返しを図り、現在ではサントリーと2位争いでデッドヒートを繰り返している。そして、やはり健康を意識したトクホの新製品を投入してきた。それが「綾鷹 特選茶」だ。
そこで、綾鷹 特選茶を主導する日本コカ・コーラ マーケティング部 緑茶グループの成岡誠氏に話をうかがった。覚えている方も多いだろうが、綾鷹のCMはお茶の「濁り」を強調したものが主だった。綾鷹の特徴である、この濁りを生じさせるために、特選茶では相当な研究開発を繰り返したと成岡氏は話す。
確かに急須で入れたお茶には濁りがあるが、ペットボトルのお茶はクリアだ。本格的なお茶を楽しみたい層には違和感があるかもしれない。
実は健康をうたった機能性飲料は、ここ5年で2倍に成長している。この先も高齢化社会や健康志向が進めば、こうした機能性緑茶飲料の需要は伸び続けるだろうと日本コカ・コーラではみている。特選茶の投入はその布石だ。
問題もあった。それは機能性飲料は「あまりおいしくない」というイメージを消費者が抱いている点だ。そこで、消費者に目隠しによるモニタリング(ほかのお茶との飲み比べ)などを徹底的に行い、評価を行った。その結果「これならいける」と確信できるおいしさが実現できたそうだ。
一方で、お茶を含む清涼飲料水の市場変化にも対応しなくてはならない。特に近年、“プレーンな炭酸水”の躍進がめざましい。その炭酸水人気に押されて、健康志向という面では競合する緑茶は、先行きに不安もあるのではと聞くと、成岡氏は「まったくそんなことはありません。むしろ緑茶のマーケットは伸びています」と話す。需要のパイ自体がひろがっていくと見ているようだ。
日本人にとって、緑茶はある意味アイデンティティともいえる。それを考えると需要は普遍的なのかもしれない。機能性をうたう新たな付加価値を持った緑茶の盛り上がりが、この市場をさらに活性化させそうだ。
(並木秀一)