2018年3月のスイス・ジュネーブショーで発表されたレクサスのコンパクトSUV「UX」に試乗する機会に恵まれた。国際試乗会はスウェーデンの首都ストックホルムで開催され、日本からも多くのメディアが参加した。
開発したのはレクサス初の女性エンジニア
ステアリングを握る前に、チーフエンジニアを務める加古慈(かこ・ちか)さんのプレゼンテーションを聞いた。レクサスとしては初の女性エンジニアであり、素材の研究者としてのキャリアを持つ加古さんは、欧州に駐在していた時に訪れたストックホルムの街に強い印象を受けたそう。自らが開発リーダーとなった新型車の試乗会をこの地で開催することに、深い思い入れがあったそうだ。
加古さんと前にお会いした時はレクサスのコンパクトカーである「CT」の開発主査だったが、今回はUXのチーフエンジニアであり、レクサスカンパニーのナンバー2にまで昇格していた。事実上、レクサスの技術部門のリーダーなのである。
夏は白夜、冬はほとんど太陽が拝めない北欧で暮らす人々は、常に自然の厳しさと隣り合わせであるがゆえに、自然との調和、人とのつながりを大切にする独特なライフスタイルを創りだし、育むことができたのかもしれない。そんな北欧の地で揺すぶられた加古さんの感性は、「新たなライフスタイルを探求するきっかけ」を目指すというUXのコンセプトにも反映されているはずだ。
小粋な末っ子は中身もスゴイ
UXはエンジンを横に置く「GA-Cプラットフォーム」を採用しており、トヨタ自動車のプリウスやカローラ系などの流れを汲む。サイズ的には欧州プレミアムブランドのライバル達よりも少し小ぶりだが、個性的なデザインのおかげで存在感は強い。レクサスファミリーの末っ子として登場するUXは、コンパクトながら小粋なキャラクターといった印象だ。
しかし、その中身は兄貴達にも負けないものを持っていると加古さんは自信をのぞかせる。スタイリングはひと目でクロスオーバーSUVだとわかるが、よく見るとスポーティなハッチバックとも思える。早い話がスペシャリティカーであり、ドライバーズカーなのだと納得した。
今回、UXが搭載するエンジンは魅力的だ。2リッター直列4気筒の高速燃焼を実現する「ダイナミック・フォース」と呼ばれるもので、ロングストロークのエンジンは吸気バルブにレーザークラッドという技術でバルブシートを溶射し、吸入空気の流れをスムースに制御する。そのおかげで、タンブル(縦渦のこと。エンジンのシリンダー内でタンブルが発生すると、燃焼速度が向上する)を無駄なく生じさせることが可能となった。空気と燃料をよくかき混ぜて、一気にプラグ点火で燃焼させる。その燃焼速度の速さゆえに、エンジンの出力と効率が高まるのだ。この技術はF1のエンジンでも使われている。
ベースモデルのガソリン車は最大出力171ps、最大トルク205Nmを誇るが、AT(オートマチックトランスミッション)は発進用にギアを持つCVT(無段変速機)だ。乗ってみるとスペック以上の加速を感じられる。
ハイブリッドも選択可能、燃費と走りでライバルに差
上位グレードにはハイブリッドも用意する。ダイナミック・フォースにモーターを採用するタイプで、トルクはハイブリッドの方が大きい。燃費と走りではライバルを引き離すポテンシャルを持っているわけだ。車体にはレクサスの走りに見合うよう手を加え、ボディ剛性を高めた。ゆえにサスペンションはスムースに動き、しなやかで強靭な走りが可能となる。
局所的に目立つようなキャラクターは感じないものの、全体のバランスは素晴らしいというのがUX評のまとめだ。癖がないので、誰がハンドルを握っても好感が持てるだろう。ボディサイズは全長4,495mm、全幅1,840mm、全高1,520mmで、最小回転半径は5.2mと小回りがきく。キャビンは乗り降りしやすく、タワーパーキングも利用できる。
選ぶべきはスタンダードの17インチタイヤか、スポーティな18インチタイヤか。よきファミリーカーとしては前者、走りを楽しむには後者がおすすめだ。
森と湖に囲まれたストックホルムの郊外をドライブしていると、地平線の向こうまで走りたくなる。ハイブリッドの燃費はリッター20kmを超えるので、1,000kmくらい先までは行けそうだ。北欧では北緯66度前後を超えると「ラップランド」と呼ばれる厳寒の地に踏み込む。UXにはAWDモデルもあるので、北国でも頼もしい走りが可能だ。見た目は良きファミリーカーであっても、走破性には文句がないと思った。
(清水和夫)