連日35℃を超える猛暑日が続くほど、今年の夏は暑かった……。とにかく暑い。暑いだけならまだしも、さらに襲いかかってくる身体の不調。そう夏バテです。「夏バテ 食べ物」などで検索すると、疲労回復のために香辛料が入ったカレーがおすすめなんて出てきて、ちょっと考えただけで汗が吹き出しそうですね。

そして9月になってもまだ残暑が厳しく、いまだに汗をダラダラかく日もあります。こんな暑い季節だからこそ、せめて食べ物くらいは「涼」を取り入れたいと思い、「夏」で「涼」のある「食べ物」といったら、はい、「そうめん」です。

  • このままでは食べられない……

そうめんでもっとも「涼」を感じる食べ方といったら、流しそうめんを思い浮かべる人がほとんどじゃないかと思います。……が、流しそうめんって、ことばのメジャーさの割には、なかなか食べたことがある人って少ないと思うんですよ。僕も1回しか食べたことがありません。

  • やったことあります?

そんな流しそうめんを手軽に食べられる方法が……ここに、あったんです。

葛飾区にそびえるおもちゃメーカー、タカラトミーアーツ。様々なバズり商品を作って、SNSでもよく話題になっています。そんなタカラトミーアーツは「流しそうめん界」でもバズを生んでいました。

それが「ビッグストリーム そうめんスライダー」や「タワーズロック そうめんアドベンチャー」といった、「世界流しそうめん協会」も認める「流しそうめん機」シリーズです。

今回は、本シリーズの企画開発を担当されたタカラトミーアーツの平林千明さんに、「流しそうめん機」シリーズについて、そして企画という仕事について、徹底的に訪ねてみました。

  • タカラトミーアーツ・平林千明さん
    撮影:河邉有実莉(WATAROCK)

▼試行錯誤の「そうめん」シリーズ

――この「そうめんスライダー」「そうめんアドベンチャー」の流しそうめんシリーズ。2016年6月に「ビッグストリーム そうめんスライダー」が発売されてから、現在までにシリーズが6つも出るほどの大ヒット商品となりました。そもそもの企画の発端は?

これまで「食べ物」をテーマにした商品をたくさん作っていて、その中でも売れる商品と売れない商品というのがやっぱり出てくるんですよ。いろいろ考えていくと、「安くて材料が簡単に手に入るものを使った商品をつくる」ということに行き着いたんです。

――材料が簡単じゃない商品だと、たとえば?

以前「どうぶつラムネ工場」というラムネを作るおもちゃを出したとき、基本的に粉砂糖やレモン果汁でラムネが作れるのですが、他にもコンスターチやクエン酸、重曹などが必要になってしまい、おもちゃとしての使用頻度が低くなってしまったんです。

  • 「どうぶつラムネ工場」

――たしかに手軽ではないですね。逆に手軽でヒットしたパターンだと。

2017年に「究極のTKG」という、ご飯の上にふわふわのタマゴを乗せるだけのアイテムが大ヒットしました。

――あー!

といった意味で、安くて手軽に買えて、夏によく食卓に上がるそうめんはいいんじゃないかなと思ったんです。

  • 「究極のTKG」

――最初のひらめきはどこにあったんでしょう。

あるとき、日用品売り場を見ていて、小型で回転するそうめんの機械を発見したんです。「そういえば夏になるといつもコーナーが出ているな」って。毎年コーナーができているということは、売れているということじゃないですか。そこにおもちゃメーカーならではの流しそうめん機を作ったら面白いんじゃないかと思ったのが始まりですね。

――さすがメーカーならではの視点ですね。

ただ、グルグルまわるだけの流しそうめんでは面白くないので、中央に噴水を設置して、そのまわりをそうめんがまわるというものにしました。それが2013年に発売した「超ヒエヒエ 北極流しそうめん」ですね。それが売れまして、会社からも次のそうめんをと。

  • 「超ヒエヒエ 北極流しそうめん」

――新しい商品を出すためにリニューアルをしないといけないわけですね。

はい。「超ヒエヒエ」はファウンテンの部分が氷山型の噴水になっていたんですけど、氷が溶けたあとに殺風景になってしまうという問題がありました。それを改良したのが「超ヒエヒエ 北極流しそうめん しろくまファウンテン」です。しろくま型の製氷機から水が流れるという、いわゆるライオンの口から水が流れる置き物のようなイメージですね。

――そして、いよいよ「ビッグストリーム そうめんスライダー」が発売されるわけですけど、2014年に「しろくまファウンテン」が出てから、2016年に「そうめんスライダー」が発売されるまで、実に2年もの期間が空いているんですね。

そうなんです。「しろくまファウンテン」を発展させたものとして、滑り台を付けて、そこにそうめんを流したら面白いんじゃないかと。だったら、プールのようにミニスライダーを付けてそうめんを流したいと思ったんです。でも、社内のプレゼンで落ちてしまったんです。でも、どうしてもあきらめられなかったので、そのアイデアを寝かせつつ、生産メーカーさんと水面下で動いていて、巨大流しそうめん機の試作品を作っていたんですよ。

  • 「ビッグストリーム そうめんスライダー」

――それが空白の2年間。力を蓄えていたわけですね。

2年後にプレゼンしたら無事に企画が通って商品化できました。

――「ビッグストリーム そうめんスライダー」は、スライダー全長3.6mという驚きの長さで、しかもスライダーは東京サマーランドが監修しているという力の入りようじゃないですか。実際のスライダーを流しそうめんに落とし込むという発想も、いい意味でぶっ飛んでいるなと。

サマーランドさんとコラボすることで、大人でも使えるという動機付けにしたかったんです。おもちゃメーカーが作ったものなので、子どもしか楽しめないみたいに思われないように、「本物」とコラボしようと。これらは以前、「デコッティ」というおもちゃをつくったとき、パティシエの辻口博啓さんとコラボをした経験が活きていますね。

▼リアルさを取り入れるために様々なギミックを

――そこでサマーランドに最初に持ちかけた時の反応は?

「流しそうめん機とコラボしませんか?」という突然の提案に対して、「よくわからないけど、来てください」みたいな感じでしたね。でも、試作品を持っていったら、「面白いですね!」と広報の方に言っていただけました。

――当時は水面下で動いていたときですよね。試作品ってどういったものを持っていくんですか?

「この形状で動くかどうか」というものを持っていくので、3Dプリンタで出力した一点物の試作品を持っていくんですよ。その3Dプリンタで出力するまでの段階では、「どういった傾斜ならそうめんが流れるか」ということを計算するために、工作用紙に防水加工をして組み立てていきます。

  • 実際に3Dプリンタで出力された「そうめんスライダー」の試作

  • こちらは紙で制作した原型の試作

――へえー! 3Dプリンタを使うんですね。スライダー感を研究するため、実際にサマーランドに通うわけですよね。

はい。

――実際にパーク内のスライダーで遊ぶことも。

設計技師の方にスライダーの動きについて聞いていきました。スライダーってストレートに見えて、おしりが少し浮くように曲線が仕掛けられているんですよ。滑っているときに楽しくなるように。ちょっとフワッとするような感じが。実際に滑ってみて「これかー」って(笑)。

  • 当時の社内プレゼンの様子

――そういう部分も取り入れていくわけですよね。

やはりリアルにしたいですからね。リアルにしたくて曲線を採用したんですけど、そうめんの動きが豊かに見えるという効果もありました。動きに色が出るんです。あとは、実際にパークの中を案内していただいて、それがアイデアになることも多かったですね。バケツに水をためて一気に流すことで勢いのある水流が生まれる「ザブーンバケツ」や「じゃぶじゃぶ水車」「くじらそうめんゲート」など。これらのギミックを取り入れたことで、ますます面白くなりました。

  • 水をためて一気に放水する「ザブーンバケツ」、細かいギミックが楽しい

  • 実際に動かしてみるともっと楽しい