スマートフォンで遊べる手軽さから、ここ数年にわたって成長が続いているゲームアプリ市場。しかしながら、膨大な数のアプリがある中で、ヒットするのはほんの一握りという、熾烈な競争が繰り広げられている領域でもある。

「Fate/Grand Order」(以下、FGO)は、そんな競争を生き抜いてきたアプリのひとつ。リリースから3年を迎える現在(2015年7月配信開始)も、日本国内で1300万DL、海外では累計3000万DLと、国内外の市場で存在感を示している。そんな同タイトルの衰えない人気の「秘訣」は、どこにあるのだろうか。

本稿では、ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2018」において、FGOのプロデューサー陣が登壇した講演「FGO成長の軌跡 2015-2018」のレポートをお届けする。

FGOは、ゲーム会社「TYPE-MOON」が開発したPCゲーム「Fate stay/night」を出発点とした、「Fate」シリーズの最新作に位置づけられるアプリゲーム。TYPE-MOONとディライトワークスが協業し、Fateシリーズのキャラクターたちが登場する新規シナリオのRPGを開発した。発売元はアニプレックス、企画・開発・運営はディライトワークスが行っている。

ディライトワークスの庄司顕仁代表取締役社長、ローンチ後の運営指揮を担った塩川クリエイティブディレクター、リアルイベントの運営などを行う石倉正啓マーケティング部長の3名によって、FGOが生まれた経緯から、ローンチ後の運営方針の構築、そして現在の状況までが語られた。

3つのパートに分けて3名が講演を実施。講演内容を「物語」になぞらえ、同作のキャッチコピーをもじった副題がつけられていた

FGOのはじまりは「違和感」から

庄司顕仁代表取締役社長が語ったのは、FGOのはじまりについて。ディライトワークス設立前にTYPE-MOON代表の武内崇氏から、Fateを題材にしたスマホゲームについて意見を求められたのがきっかけとなった。

庄司氏が相談を受けた際に見た企画書。内容はFGOと異なり、メインライターの奈須きのこ氏の多忙を理由に、シナリオ要素はほぼなかった

この相談を機にFateシリーズに触れた庄司氏は、ゲームの売上本数とコンテンツパワーに「違和感」を感じた。この内容ならもっと売れていいはずなのに、実売数と差が開いているという印象を受けたという。

Fateシリーズの年表
Fateシリーズのゲームソフトの売り上げ本数

だがそのことについてTYPE-MOON側にヒアリングしてみると、「Fateはニッチなコンテンツだから、現状の売り上げが妥当」と考えていることがわかった。

庄司氏はきっかけさえあれば、Fateが生涯の1本になる人はもっと大勢いると考え、「Fate」を次のステージに進めるべきではないかと熱弁。結果として、Fateのスマホゲームプロジェクトをあらためて検討する運びとなり、ゼロベースから企画を構築することになった。

リスタートにあたって、骨子とゴールの設定を行ったが、「Fateらしさ」は何なのか、という壁にぶつかったという。さまざまなFateシリーズの要素を分解していった中で、最終的に「Fateらしさ」は、シナリオライターの奈須きのこ氏だと結論づけた。

Fateらしさをつかさどる要素は、同作シナリオライターの奈須きのこ氏という結論に

捨てる、プロデュース

ここで塩川洋介クリエイティブディレクターにバトンタッチ。開始早々、FGOリリース当初の状況を表した図をスライドに出したことで場内はどよめいた。

ローンチ当初の稼働状況を示すスライド。ファンの間では有名な1枚に会場はざわめいた。メンテ時間を表す赤一色のなかに、プレイ可能な時間はほんの少しだけと、控えめに言って悲惨

ローンチ当初にログインできない状況が長く続いたことについて、「誰もが道を見失いながら必死にもがいていた」と表現した。

「FGOとは?」という問いに対する5つの答え

塩川氏はローンチ後の、こうした難局にあったFGOの開発チームに途中参加した。そこでまず、「FGOとは?」ということを再定義したと語る。

具体的に言えば、シナリオの平均的な長さなど、業界内の常識にとらわれないストーリー展開や、英霊のレアリティごとのリソース振り分けをやめ「全員が主役」として扱うこと、またFGOをリアルタイムで楽しんでいるユーザーに向けた施策を実施することなどが、この定義によって決められていった。

その結果、平均MAU(マンスリーアクティブユーザー)も、平均月別売り上げの年度別推移も増加の一途をたどった。

MAUの推移。2016年~2017年に特に顕著な伸びを示している
年度別売り上げもMAUと同様に伸長している

塩川氏は、こうした成長はチームの努力の結果としつつ、クリエイティブのプロデュースを行う観点でいえば、「捨てる、プロデュース。」にその秘訣があると語った。先述の再定義した項目は、裏返せば何かを「捨てる」ことになると解説し、場を締めくくった。

ゲーム「以外」で楽しませる

最後に、マーケティングディレクターの石倉正啓氏が登壇。FGOの内容にちなんで、マーケティングの方法について「魔法」(マーケティング方法=マ法)と表現して紹介した。

マーケティングの方法を「魔法」と言い換えて紹介

2017~2018にかけて、FGOはゲーム上のみならずリアルイベントをやアニメ特番など、毎月何かしらの企画を展開。イベント開催情報を含め、日々Twitterでつぶさに情報を発信した。

開催したイベントの様子
2017年後半からイベント開催を強化、2018年に入ってからは毎月何かしらの催しが行われている

また、「新たな驚きを提供」するため、VRコンテンツやプロジェクションマッピングなどの新規性の高いコンテンツの横展開を実施。リアルイベントで登場する着ぐるみとして、FGO作中のグラフィックではなく、かなり毒の強い表現で知られる公式漫画「マンガで分かる!Fate/Grand Order」を立体化したものを採用するなど、ユーザーを驚かせる企画を用意したことを明かした。

そして、石倉氏は「バスター石倉」として自らニコ生やラジオに出演し、ユーザーと直接ふれあう機会を持っている。イベントの際、手渡しで配布している「Busterシール」の配布数が7000枚を超えたという。

石倉氏がイベントなどで手ずから配布している「Busterシール」

最新のトピックとして、人を動かす大魔法「マツリ」と称して、7月28・29日に行われた大規模ファンイベント「FGO Fes.2018」の実績を発表した。イベント動員数は2日間合計で3万4972名。イベント後にTwitterのトレンドをジャック、配信番組の視聴数は340万を超えたほか、過去最高のDAU(デイリーアクティブユーザー)を記録したという。

「FGO Fes.2018」当日の様子
「FGO Fes.2018」実績一覧

石倉氏は、ローンチから3年が経過してなお成長し続けるには、「ゲーム以外」を多彩な「魔法」でプロデュースすることが大切であると明言。そして、広告代理店に委託するのではなく、社内でこうした「魔法」を仕掛けることが重要であるとも付け加えた。

セッションの締めくくりには、塩川クリエイティブディレクターが、今後プロデュースする人が変わることがあっても、企業理念「ただ純粋に、面白いゲームを創ろう。」にのっとってFGOの開発を続けていくとコメントした。

3年目に突入し、アーケード版の展開も始まったFGOというIPが、今後どこまで広がりを見せるか、注目していきたい。

(杉浦志保)