自然体で仕事ができるのはライフワークだから
-自分の力でお店を運営して、しかも新しいことを始めるには勇気が要ることだと思います
ブッダボウルとヴィーガンマフィンに絞って店をやっていこうと決めて、まずは友達に看板を作ってもらいました。次にショップカードも作って、自分を奮い立たせて(笑)。でも、好きなことだから楽しんでやれていますね。ブッダボウルはその日の野菜によって中身も味も調理方法も変わります。それが飽きずに楽しんでできている理由かもしれません。
ブッダボウルに使う野菜は、まず見つけに行くところから始まります。これも、ハントする楽しさがあってワクワクするんです。
いつでも好きにできる自由さが良いんだと思います。どこかの店に勤めて、決まったものを作ることが苦手なんです(笑)。
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「マリデリ」の看板
-働き方や毎日の様子を教えてください
店は、火水木金の週4日、12時から15時までのオープンです。10時くらいに店に入り、仕込みと掃除をしてから開けます。店舗物件はランチタイムのみの間借りで、夜は別のお店として使われているんです。
うちのお客様は遠くからわざわざいらっしゃる方が多いので、お昼に集中して混むということがありません。常にたくさんのお客様がいるわけでもなく、ゆっくり時間が流れている感じですね。お客様が遅くに入った場合は片付けに17時までかかりますが、通常は15時になったらすっ飛んで帰ります。お家が大好きなんです。
帰り道で、今日使い切った野菜を、お気に入りのネパール人がいる八百屋さんで買って、夕ご飯の買い物をして帰ります。そのあと、家で店用のマフィンを焼くこともあります。
仕事がないときは、ベランダの植木を見たりつぼみを観察したりして過ごします。引っ越したばかりなので、まだ知らない場所を探検して、家に帰ったら夫のご飯の支度をします。
暮らしの中のひとつに、お店があるという感じです。そういうライフスタイルが私には合っているんですね。
-仕事は生活の一部なんですね
もちろん、お客様が一人も来ないのではつまらないですし、お金を頂いている以上、プロフェッショナルが作るものを提供しています。
でも、結婚して3年の今は、夫との日々の生活も大切。その生活が軸で、隙間で店を出しています。夫と生活しているからできることかもしれません。自分を追いつめて嫌になったり、前のように身体を壊したりしないように、気を付けて楽しんでやっています。
人生の寄り道は自分の歴史
-東京の前は別の場所で店を出していたと聞いておりますが、身体を壊すほど大変だったのでしょうか?
大変でしたけど、人生にひとつの歴史を残せたとは思っています。でも、あれで終わりです。あれだけ自分を追い込んで働くことは、人生の中で何回もできることではありません。
-それほどの働き方だったのですね
天然酵母のパン屋をしていました。朝4時起きでパンを焼いて、ヴィーガンプレートのランチもやって、本当に重労働でした。一生分働きましたね。
最初、パン屋をオープンしたときは、「ついにやったー!」という思いだったんです。稼ぎも、のんびり食べていける程度で良いと考えていました。
でも、その頃はパンブームの最盛期で。おいしいパンを求めて日本全国のブロガーがわざわざ地方へパンを食べにくる時代でした。その流れに乗ってしまったんですね。
「DEAN & DELUCA」にもパンを卸すようになって、1日に焼けるマックスの量を毎日こなしていました。かつ、店ではタイ料理を4、5品出して、その間にパンを焼いて…。パンは、2秒目をそらすとあっという間に焦げてしまいます。だから、イライラしたりあせったりの繰り返し。でも、それをお客様にみせちゃいけないし、池のカモみたいに、水面下で必死に両足をバタバタさせていた感じでした。
肉体的にもつらかったです。パンは粉なので掃除が大変。パンを焼いているよりも掃除の方に時間をとられてしまうこともしょっちゅうでした。
こねるのも重労働なので、常に体中のあちこちが痛くて、いつも右手がもぎ取れそうなほど痛かった。しゃぶしゃぶは手が重くて食べられないとか、納豆を混ぜたくないとか、そのくらいつらかったんです(笑)。そんなことを13年。一生懸命一生分働きました。私の歴史です。
昨日も、一人でいらした男性が、実は前のお店に通ってくれていたお客様でした。「前のお店のパンをよく食べていました」と言ってくれたんです。10年以上たっても、東京で私が店を開いたとわかったら来てくれる人がいる。あのときの私が作った歴史が、今も息づいている。そう思えてうれしかったですね。
-当時と比べて、今はどんな感じでしょうか
余裕と楽しみを持って過ごしていると思います。当初、お客様はヴィーガンやベジタリアンの外国人が多くて、彼らはオーバーアクションで「めっちゃうまい!」「天才!」とか言ってくれるんです。もともと、外国人が好きそうなものが自分の中からメニューとして出てきていたのもあって、うれしくていろいろな料理を出していました。
でも、最初はやっぱり試行錯誤です。これで良いのか自信がなくて、食べている人の様子をうかがっていましたよ。自信が出たり落ち込んだりを繰り返して、今のブッダボウルに落ち着きました。
ブッダボウルは、迷いがなく自然体でできるんです。奇をてらわなくても、素直に「おいしいよ、食べてみて」と言えるものを出しています。自分もお客様もおいしい楽しいと感じるものを提供することが、自然にできていると感じています。あの13年があったから、今それができているんだと思います。
-人生に必要な13年だったのですね
あのとき必死にバタバタしていたからこそ、自分が心地良いと思う自然体を、知ることができたのかもしれません。
あの頃は、自分に対していつも戦いを挑んでいました。「これでいいいのか!?」と自問自答して、疲れてぐったりして、それでも厳しくまた挑んでいきましたね。
私は、人生には寄り道が必要だと思うんです。あんなにすったもんだした歴史があるから、「一番の理想は楽でのんき」だと自信を持って言えるようになりました。
